矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2010.05.12

ワンストップサービスで国内市場に活路を見出せ!!

今、再びのワンストップサービス

最近、企業規模の大小、業種を問わず、筆者がユーザ企業のIT部門担当者に会うたびに異口同音に言われることが「どのアプリが当社の目的とする業務処理にフィットするのか試行錯誤しながら選定していた時代が懐かしい。今ではどのようにITサービスを利用していくのか、その原則自体を当社の経営から問われている‥。」
つまり、これまでのオンプレミス(自社運用環境)や部分的な業務を切り出して委託する運用管理委託(アウトソーシング)から、世間で盛んに喧伝されているパブリッククラウドやプライベートクラウドを利用するほうがTCO(Total Costs of Ownership)削減に効果的ではないか、と経営者から言われているというのである。

ことが単純にコスト比較だけで済めばよい。だが、運用方法、サービスのデリバリ方法の変更は、慣れ親しんできたいままでの方法を捨て、新たなやり方へのトライである。プライベートクラウドといえども、コストメリットを追求すると実運用を行うデータセンタは海の向うということもありえる。個人情報保護ひとつをとっても、クラウドでは不安が残り、紳士協定だけを頼りに相手を信頼して託すという状況である。柔軟なシステム変更が可能などといっても、これまでにハウジングサービスでiDCにサーバ運用委託していた経験があるユーザ企業であれば、サーバの内容変更ひとつだって煩雑な事務手続きやテストランで時間をとられた経験を持つシステム担当者はクラウド事業者の宣伝文句を鵜呑みになどしない。
システムを運用する選択肢が増えるということは、本来はユーザにとり歓迎すべきことである。だが、種々雑多な業務をその業務量から見て過小な人員数でこなし、そのうえでこれからのシステムのあり方を模索していかねばならないシステム部門担当者には、未体験サービスの出現は負担でしかない。

長年システム部門で働いていたシステム要員であれば思い起こすであろう。20年位前まではプロプライエタリーなシステムが当たり前で、今から思えば高い費用を払って、柔軟性に欠けるシステムを使い続けていた。けれどもそれなりに高い費用を払っていたおかげで、メインシステムのベンダからは有形無形の支援を受けられていた。やがて、オープンシステム時代になりハードウェア、ソフトウェア共に複数のベンダから購入することが当たり前になって、マルチベンダ時代が到来した。すると障害の復旧ひとつとってもユーザ部門でどの製品に差し障りがあるのか分からず、製品のサービスベンダ1件、1件に問い合わせしなければならない。こういった手間を省き、復旧までのスピードアップのため、代表となるサービスプロバイダ1件に、障害状況を知らせ、そのサービスプロバイダにて障害要因分析、復旧業務の担当ベンダ切り分けを実施、手配を行うというワンストップサービスが考案された。

やがて保守業務におけるワンストップサービスは常識化すると共に、障害の原因分析を行い、例えば特定ミドルウェアにまつわる不具合が多いとなると、そのミドルウェアの保守業務が出来るSEを育成もしくはスカウトして、自社でのサービスデリバリを可能にしていくようになっていった。
今、求められているワンストップサービスは保守業務など特定ソリューションではなく、システムにまつわるもの全ての要求に応えられるサービスである。

パートナシップとワンストップサービス

複雑化、高度化するシステムにおいて1社のサービスプロバイダで、ITコンサルティング→システム選定→システム設計→システム導入→システム運用→システム保守→システム改善・拡張→システム廃棄→新システム導入のためのコンサルまで、ライフサイクル全般を細かなところまでフォローアップできるところはない。見掛けの組織上、全てを包含しているように見える大手プロバイダもあるが、個々のサービス内容に得手、不得手が存在し、不得手な部分は外部パートナに依存しなければならない。現状、サービスの需給構造においても、ソフトウェアの受託開発や土木建築業のように、元請→一次請→二次請のヒエラルキが存在する。困っているユーザがそれぞれの業種の大手企業だけであれば、大手企業との取引関係が濃い大手ベンダが元請として機能するこのようなヒエラルキ構造でも、概ね仕事は廻っていくが、冒頭に触れたようにITサービスの選択と運用に迷っているユーザは企業規模の大小を問わない。そうなれば、それぞれのユーザに一番近いところにいるITサービスプロバイダが元請となり、各パートナに効率よく消化すべきサービスを振り分けていくべきであろう。

また、特に親しいITサービスプロバイダを持たないようなSMB、SOHOクラスの企業、個人については統合サービスポータルを立ち上げ、何層かに分類されたサービスを利用しつつ、サービスオーダーメイドにも対応していくことも求められよう。
かつて大手IT企業は中小IT企業と比較して、従業員の給与格差以上にそれぞれの事業領域で負担すべき間接コストの差が大きくて、中小ベンダが元請になり大手ベンダが下請になるような構造など料金が逆ザヤになって考えられなかった。ところがITバブル崩壊後のこの10年間、断続的に続く不況で体力的に勝る大手IT企業は、人件費の安い海外にサービスデリバリの拠点を設け、海外現地企業と協業して、コストダウンに成功した。それゆえ日本国内のみに拠点を持つ中小ITベンダと実質的な間接コスト水準は変わらなくなってきている。こうして、企業規模逆転の元請~下請関係も現実的なものになってきている。

ワンストップサービスによりユーザ負担軽減とIT需要不振構造の解消へ

クラウドの普及がベンダの目論見ほどに進んでいない背景には、ユーザ側のためらいがある。つまりクラウドひとつで全てのソリューションがなされるわけではなく、オープンプラットフォーム化、パソコン社員一人1台環境が言われていた10数年前以上に、システム部門の負担が大きくなりそうであると予見できること、また各ITベンダが、事業の粗利率低下により疲弊し、ほんの一握りの極上客を除いて、とりあえず無償でユーザの相談に乗ってくれるようなベンダはなくなってきたためである。ツィッターでシステム部門の方がつぶやけば、何処からかITベンダが応えますといったサービスを打ち出しているところがあるが、これもユーザにまず予算ありきの話であって、いつか予算化するための下話のレベルで相手にしてくれるわけではない。

だが、こういったユーザこそが見込み客であり、大手、中堅、中小ITサービスプロバイダ共に、市場として海外に注目していくのもいいが、相互に協力し合って国内ITユーザを助ける力になれば、まだまだ少なくとも年間2~3兆円くらい市場規模を拡大する余地が国内マーケットにあると思う。

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