矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2022.04.19

2022年度に起きること

本稿を執筆しているのは2022年4月1日で、言うまでもなく2022年度の初日である。私見ではあるが、この2022年度は日本のICT業界にとって大きな転換点になると考えている。
まず、これまで日本の経済を長らく停滞させてきたコロナウィルスとの関係が、今後は「ウィズコロナ」に移行するであろう。過去約2年間、日本政府はコロナ対策を優先し、経済活動を著しく抑制してきた。しかし、先日の首相の会見での「今後しばらくは、平時への移行期間、すなわち、最大限の警戒をしつつ、安全・安心を確保しながら、可能な限り日常の生活を取り戻す期間とする」というコメントは、上記を裏付けるものであると考える。つまり、これまで国内経済に嵌められてきた重い足かせが、基本的に外されるということである。
また、世界的にコロナの呪縛から脱却しようとする動きとそれに伴う経済活動の本格的な再開と再成長への取組が強化されよう。しかし、一旦縮小した経済を元の規模に戻すためには様々な無理が生じる。さらに、ロシアのウクライナ侵攻によって生じたエネルギー不足問題など、様々な現象が世界的なコストアップ要因となっており、これらが国内でもインフレ圧力に繋がっていると言える。

こうした中、日本経済にこの先起こることとして、まずは深刻な人出不足とし烈な人材獲得競争が予想される。そもそもコロナ以前から様々な業界において人手不足は深刻であって、コロナ禍が需要を抑制することで一時的にそれらが緩和されてきたと言って良い。例えばコロナ禍の影響を大きく被った飲食業界では、コロナ以前から人手不足が露見しつつあったが、コロナ禍によって需要が消失し多くの人材が業界を離れざるを得なくなった。需要が戻りつつある最近は、営業を再開しようにも従業員やアルバイトが不足しており、従来と同じ形での営業ができないところも多く、人手不足が再び業界全体の課題として深刻化するだろう。
運輸業界や旅行業界も、コロナ禍を凌ぐために大幅な人員の削減等を実施してきた。今後政府はGOTOキャンペーンの再開等で旅行関係の支援策を打ち出す見込みであり、当面は国内需要に限定されるだろうが、需要は急回復するだろう。コロナ前はインバウンドが急拡大していたものの、そもそも日本の旅行需要は国内旅行が多くを占めており、国内旅行のみでもある程度の規模の需要の回復が期待できる。更にいわゆるリベンジ消費も大いに期待され、衣類やレジャー、外出等、これまで手控えられてきた各種消費も急速に回復するだろう。様々な分野でコロナによって縮小した供給体制以上の需要規模へと急速に回復することで、業界を横断して深刻な人手不足が予想されるのである。

次に生じるのは厳しい賃上げ圧力である。従来の賃金では需要に見合った人材が調達できない現象が生じるため、賃金のアップで人手を獲得しようという動きは今まで以上に顕著になるだろう。既に、玩具大手のバンダイとバンダイスピリッツは2022年4月から大卒新入社員の初任給を66,000円引き上げ、月額29万円とすると発表した。日本酒「獺祭(だっさい)」蔵元の旭酒造が、2022年、2023年製造部入社の大卒新入社員の初任給を、従来の月額21万円程度から30万円に引き上げるとしている。こうした流れの中、今春闘では、多くの企業が賃上げやベースアップを実現する形で妥結した。また、積極的に賃上げに取り組んでいる現政権は賃上げ促進税制を制定、大企業では雇用者全体の給与等支給額の増加額の最大30%を税額控除、中小企業では雇用者全体の給与等支給額の増加額の最大40%を税額控除する等の政策で企業の賃上げを進める考えだ。こうした賃上げの動きに加え、コロナによって人材の流動化が進んでおり、賃上げの余力のない業界から人材はますます流出する可能性が高い。業界によっては人手不足が更に深刻なものとなるだろう。

既に国内では様々な物資やサービスのコストが上がっており、現時点でも各方面で製品価格の引き上げが行われているが、こうした原材料のコストアップに加えて、今後は人件費増も経営を圧迫する要因になっていくだろう。企業間の生存競争は従来以上に激化することは避けられず、競争力が劣る企業では退場を余儀なくされる可能性も出てくるだろう。
こういった企業に残された方策は省人化であり、特に人件費の引き上げが困難な中小企業においては、生き残るための何らかの省人化投資が今後は避けられないだろう。ロボティクスやAI、クラウドサービス等、中小企業が経営効率を上げる技術を積極的に採用していかなければ、経営は立ち行かなくなり、人手不足で倒産といった憂き目にあうこともあり得るのだ。
ICT業界としては、従来のように大手ユーザーに固執するだけでなく、今後はこうした中小企業に向けてターゲティングした積極的な啓蒙活動や製品展開を強化し、日本全体の経済の底上げに貢献すべき時期に来ていると考える。

野間博美

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野間 博美(ノマ ヒロミ) 理事研究員
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