矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2022.04.07

NTT Comの新サービス カーボンニュートラルへの取り組み

 

現在、世界各国でカーボンニュートラルへの取り組みが進んでいる。日本も2020年10月に2050年カーボンニュートラルを目指すことを宣言した。カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と植林、森林管理などによる吸収量を差し引いて、ゼロにすることを指す。
近年では多くの企業が積極的に取り組みを行うようになったことで、各企業の活動とカーボンニュートラルに関連するソリューションやサービスが注目されている。NTTコミュニケーションズ株式会社(NTT Com)が3月28日に開催した脱炭素社会の実現に向けた新サービス説明会の内容を紹介する。

まず冒頭に、NTT Comが取り組む「Green of ICT」と「Green by ICT」に関する説明があった。NTT Comは自社のグリーン化を目指す「Green of ICT」と社会・顧客のグリーン化を目指す「Green by ICT」の両面で取り組み、2030年にはネットワーク・データセンターのカーボンニュートラルを実現するとしている。「Green of ICT」に関しては、通信ビル設備やデータセンターへの省電力導入や再生可能エネルギーの調達、リモートワーク主体の業務運営といった取り組みを進める。「Green of ICT」では、CO2排出量可視化ソリューションの提供、データセンターにおける再生可能エネルギーの提供などを挙げている。

「Green by ICT」の取り組みとして新サービスが開始される。2022年4月よりNTT ComとNTTアノードエナジー株式会社は、NTT Comのデータセンターを利用する顧客の多様な要望に対応できる電力メニューを提供する。ESG経営に取り組む企業の中には、事業運営に必要なエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄うことを目標とする「RE100」や5年~15年先を目標年として企業が設定する温室効果ガス排出削減目標とする「SBT」のような国際イニシアティブに加盟している企業もある。新サービスではこうしたイニシアティブの報告に利用できる非化石証書に基づく環境価値を提供する。

企業によってこだわりの度合いが異なるため、サービス内容と価格によって松竹梅のように複数のメニューを設けたと説明があった。「松」は非FIT電気の指定と電源種別(太陽光、地熱、バイオマス)の指定が可能である。「竹」は電源種別の指定が可能であり、非FIT電気の指定ができない。「梅」は非FIT電気と電源種別どちらも指定ができない。FIT電気とは、再生エネルギーの中でも国が定める固定価格買取制度により、電気事業者により買い取られた電気を指す。電気会社が買い取る費用の一部は電気使用者である国民が再エネ賦課金として負担しているため、環境価値は国民に帰属して100%再生可能エネルギーとして認められていない。一方で、非FIT電気は電気の買い取りの流れが定められておらず、国民負担がないため、100%再生可能エネルギーの電力として認められている。
さらに、松竹梅3つのメニューに加えて、プレミアムメニューが選択できる。このプレミアムメニューにより、自社専用の追加性があるグリーン電力の使用を要望するケースにも対応できる。追加性があるというのは「再エネ電力を調達することで、新たな再エネ設備の普及を促す効果がある」ということであり、例えば、自社の太陽光発電で再エネ電力を調達することで、新たな設備投資が行われるといったことが挙げられる。追加性のある再エネ電力の利用は、FIT制度による電力利用とは異なり、新たな再エネ設備の導入が促進される面から脱炭素への効果は大きく、環境意識が高い企業で選択される。

【図表:提供メニュー】

【図表:提供メニュー】

出所:エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社

NTT Comのデータセンターは、省スペース/省エネ設計による建物設備建築にかかる費用削減、効率的な空調方式や冷却機能の導入、ラックに取り付けられたセンターやAIによる空調のリアルタイム制御などによる省エネを実現している。データセンターを保有する企業の場合、使用電力は企業によっては95%を占めることもあり、この電力をいかに減らしていくかが課題である。企業にとってはNTT Comのデータセンターに置き換えるだけでもカーボンニュートラルへの取り組みにつながると説明する。

【図表:データセンターの省エネ化】

【図表:データセンターの省エネ化】

出所:エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社

今回NTT Comの新サービスに関する紹介であったが、カーボンニュートラルへの取り組みは、あらゆる業種で拡大していく。近年、環境意識の高い企業では、サプライヤーに対して排出量の削減を求めるようになっている。カーボンニュートラル経営を行うことで、そうした企業とも継続的に取引を行うことができるだろう。また、金融機関からの融資条件でもカーボンニュートラル化に向けた取り組みを求められるようになっている。そのため、資金調達の面でもカーボンニュートラルへの取り組みは重要となっていく。
しかし、現状どういった取り組みから始めるべきなのか分からないといった企業もあるだろう。そうした中で、こうしたカーボンニュートラルへの取り組みを掲げるデータセンターの存在は非常に重要と考える。データセンターの置き換えをするだけでもカーボンニュートラルにつながる点は企業にとって魅力的だろう。

データセンターに限らず、IT業界では脱炭素に関連する様々な動きが見られる。1つ挙げられるのは、これまで排出量の可視化が難しいとされてきたScope3を算定とするソリューションの開発である。Scope3とは排出分類の1つであり、事業者自らが直接排出するScope1、電気供給や熱の使用に伴う間接排出であるScope2、それ以外に当たる製品の廃棄や輸送・配送の際に発生する間接排出がScope3である。事業によってはこのScope3が排出量の8~9割を占めることもあるといわれる一方で、他社の製品やサービスまで測定の範囲となるため、これまで可視化ができていなかった。しかし、現在ではScope1、2、3それぞれの排出量の算定や可視化が可能であるソリューションが開発されており、企業は具体的な排出量の目標設定等が行えるようになっている。
今後、カーボンニュートラルの実現に向けて、IT業界ではより精度の高い排出量の測定ができるソリューションの提供が必要となる。但し、正確な排出量の測定が可能なソリューションが開発されても、直接的に排出量の削減につながることはない。測定された排出量に対して、AIを用いた具体的な課題抽出や、その解決策の提案といったソリューションの提供が求められるだろう。IT業界では自社のカーボンニュートラルを実現することと同時に脱炭素への取り組みが加速するユーザーに対応したサービス提供が重要になる。

(今野 慧佑)

今野 慧佑(コンノ ケイスケ) 研究員
IT業界の発展はめまぐるしく、常に多くの情報が溢れています。 調査を通して、お客様にとって有益な情報を提供していけるように努めてまいります。

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