矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2022.03.25

海外進出企業の情報システム/デジタル技術活用に関する動向調査―コロナ禍を経てDXの機運は高まる 国内・海外一体となった取り組みが求められる

この度、矢野経済研究所とビジネスエンジニアリング(以下B-EN-G)は共同でアンケート調査を実施した。 B-EN-Gは、前回 2014年にも類似した調査を行っている。今回(2022年)の調査結果と比較することで、海外進出企業を取り巻く環境の変化に伴う情報システムやデジタル技術活用の実態と課題が明らかになった。

 

この調査のポイントは次の2点である。1点目は、8年前の2014年と現時点での変化を行えることである。8年前と現在では企業の経営環境は大きく変わっており、比較によって企業の意識の変化が明らかになった。
2点目は調査対象の5割が日本企業の海外法人であり、海外拠点でのIT活用実態が明らかになったことである。海外法人を対象に定量的な調査を行った調査は他にあまり例がないといえる。

まず1点目であるが、2022年時点では、企業の関心は市場環境の劇的な変化への対応やDXへの取組に移っている。2022年に回答率がもっとも高かったのが「市場環境の変化に対応した経営計画・事業計画の立案」で46.6%、2014年の29.2%からも大幅に上昇した。2021年には新型コロナウイルスやサプライチェーンの混乱があったが、2022年はさらに欧州情勢も社会・経済に影響を及ぼすと予想される。現在はいわば変化が常態化しており、レジリエントな組織を目指すことが重要である。
一方で2014年の回答率は50.9%でトップだった「コスト削減」は2022年には34.5%で大きく下がっている。「海外拠点展開(グローバル展開)」も2014年の39.3%から2022年は18.7%へ低下した。8年前は海外進出そのものが経営課題となっていたが、現在ではグローバル化は企業活動の前提条件となり、課題はカントリーリスクへの対応などより複雑化している。また、従来日本企業ではコスト削減が企業の最優先事項となっていたが、現段階ではデジタル技術の積極的な活用など、攻めの投資へシフトする姿勢が強まっている。

【図表:現在の経営課題・業務課題(複数回答)】

【図表:現在の経営課題・業務課題(複数回答)】

注:2014年の調査対象は日本の製造業、国内拠点(本社含む)
注:「ERPを含む情報システムやデジタル技術の活用、DXの推進」の設問項目は2022年の調査から新規追加

経営・業務課題を解決するために必要なITシステムについても経年比較を行った。2022年の調査で最も回答率が高かったのは今回新設した項目「IoT・AIなど新しいデジタル技術の活用」37.7%で、経営・業務課題が、変化する環境への対応やDX推進など新たなテーマに移っているという分析を裏付ける結果となった。
「全社情報システムとの統合と情報共有」「経営情報のリアルタイムの把握」は、2014年、2022年ともに回答率が高い。これらは海外進出企業での基幹システム利活用において実現すべきテーマであり、海外拠点を含む経営データの把握や管理は、継続的に重視されていることが伺える。

【図表:経営・業務課題を解決するために必要なITシステムの重点項目(複数回答)】

【図表:経営・業務課題を解決するために必要なITシステムの重点項目(複数回答)】

注:2014年の調査対象は日本の製造業、国内拠点(本社含む)
注:「IoT・AIなど新しいデジタル技術の活用」の設問項目は2022年調査から新規追加

次に2点目の、海外拠点でのIT活用実態に関する調査結果をみる。2019年(コロナ前)と2022年1月を比較して、情報システム/デジタル技術の活用やDXは進展したかを聞くと、全体では「大きく進展した」「やや進展した」を合わせて55.2%となり、半数以上の企業がコロナ前より進展したと回答した。ここでの回答内容にはデジタイゼーション(情報や業務のデジタル化)も含まれており、Web会議やビジネスチャットの利用、ERPなど経営基盤の整備、さらにはビジネス変革まで様々なレベル感の回答が混在しているだろう。

日本本社と海外現地法人の区分で分けると、日本本社では進展したという回答が62.6%であるのに対し、海外現地法人では48.7%である。「変わらない(コロナ前も現在も情報システム/デジタル技術の活用やDXを行っていない)」も海外現地法人の回答率が高く、どちらの回答でも日本本社と10ポイント以上差が開く。
海外拠点のIT活用を強化する必要があるかについては、全体で「非常に強化する必要がある」「多少強化する必要がある」を合わせると84.5%となり、大多数の企業が強化する必要があると考えているという結果になった。日本本社と海外現地法人の意識の違いがここでも見られ、日本本社は77.1%だが、海外現地法人では90.8%に達する。前の設問から、グローバル化の進展が既定路線となる中で海外拠点の人員が増えるケースは少ないという分析を行ったが、現地法人はIT活用の強化による課題解決やDX推進の必要性をより強く認識している。

【図表:コロナ前と比較したERPを含む情報システム/デジタル技術の活用やDXの進展

【図表:コロナ前と比較したERPを含む情報システム/デジタル技術の活用やDXの進展】

これらの調査結果から、海外進出企業において海外拠点を含む全社を対象にDXの推進やデジタル技術活用の取り組みを進めることの重要性が浮き彫りになる。経営データの共有や活用、グローバルSCMの強化などのテーマにおいてはグローバルでの取組みが必須となる。国内のみに留まっている企業においては対応が急務となるだろう。
但し、これは難易度の高いテーマでもある。日本企業のDX推進における最大の課題は人材不足である。ガバナンスの観点から海外拠点を含めた取り組みを行う上では本社が積極的に関与することが望ましいが、海外をコントロールするための十分な体制を取れないと考える企業は多い。海外拠点にDX推進のための人材を置くことは更に難しいだろう。
この点については、日本は欧米企業と異なり、IT人材がユーザ企業ではなくITベンダーに所属しているという構造的な問題もある。社内での人材育成・獲得はもちろんのこと、国内外のITベンダーとの連携もポイントになりそうである。

■調査概要

【調査概要】

注:図表において、四捨五入等の関係で、表記された数値の合計が100%に僅かに一致しない場合がある

 

■回答企業の属性(2022年)

【図表:日本本社/海外現地法人】

【図表:日本本社/海外現地法人】

注:海外現地法人の所在国は、ASEAN主要6ヶ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)及びインドが中心となる

 

【図表:売上高】

【図表:売上高】

 

【図表:製造業/非製造業】

【図表:製造業/非製造業】

 

小林明子

※詳細なレポートはビジネスエンジニアリングのダウンロードページからダウンロードしていただけます
https://info.b-en-g.co.jp/offering/globalreport_2022

小林 明子(コバヤシ アキコ) 主席研究員
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