ebook(電子書籍)関連の動きが昨年頃から活発化しています。
AmazonのKindleが日本で購入できるようになり、AppleからはiPadがまもなく発売されます(両者とも日本語書籍の対応は未定ですが)。iPadにおいては、いわゆる「ebook(電子書籍)」はイチ機能に過ぎませんが、ebook(電子書籍)が最も期待が集まっているアプリケーションであることには間違いないでしょう。
両者が注目されているのは、言うまでもなく単なる電子書籍リーダ(端末)としてではありません。それは、「Amazonは(著者・版元への)印税が最大70%の仕組みを導入する」「Kindleは別途通信契約不要ですぐにコンテンツが買える」「AppleのiBookStoreによりiTunesStoreのようなプラットフォームができる」など、レガシーの出版流通のフレームを変える垂直統合型の「サービス」であるためです。
国内では大手出版社21社が集まり、日本での電子書籍市場のルール作り等を目的とした「日本電子書籍出版社協会(仮称)」をこの2月にも設立すると発表されました。しかし、プレイヤ(供給)側のこうした議論・動きが活発化する一方で、実際のコンテンツ購入者(消費者)視点での話が、やや置いてけぼりになってはいないでしょうか。
こうした新しく創出される市場・動いている市場に対しては、既存・新規問わずプレイヤの関心は高いので、弊社にもよく調査・市場分析の依頼を頂きます。よく依頼があるのは「競合他社の動向を把握したい」「市場シェアを知りたい」「自社の強みを活かせるのはどこか」など、主にプレイヤ側の分析提言です。
もちろん、自社のポジション・強みを把握するための調査は重要ですが、それだけでは今後の経営・事業戦略立案に十分に活かすのは難しくなってきています。なぜなら、市場における強者が「プレイヤ」から「消費者」へと移りつつあるからです。特にweb関連のサービスは、設備コストが年々下がっているため、中小・個人を問わず多くの企業が市場へ参入し活発な競争環境が生まれています。このことは、消費者側の視点で見ると、サービスの乗り換えコストが下がってきていることを意味します。
今使っているサービスが気に入らなければ、どんどん消費者は別のサービス(それはオフィシャルなサービスに限らず)に乗り換えて行ってしまいます。また、消費者の時間は有限なので、「家でゲームをするよりTwitterをする」というように、全く異なるサービス(市場)に流れていくケースも珍しくありません。そのため、消費者を捉える(消費者の時間を獲得する)には、「サービス提供者(プレイヤ)」は、「消費者」のニーズ・ウォンツを深く知ること、敏感になることが、これまで以上に重要となってきているのです。また、参入市場だけではなく、活発化している周辺市場を含めた視点で自社サービスのポジショニングをする必要もあります。
少なくとも、プレイヤが強者であった時代のように、消費者のニーズより、プレイヤの都合を優先するようなビジネスモデルが市場に受け入れられる余地は、今後ますます少なくなっていくでしょう。
多くの市場で既存の仕組み・フレームが急速に変化しています。
「ebook(電子書籍)」の流通においては、取次・リアル書店の存在意義が薄くなります。「生放送(ライブ配信)」は、今や放送局でなくてもインターネットで容易にできます。「コミュニケーション」における「音声通話」が占める割合は右肩下がり。ゲームは、「パッケージもの」よりオンライン、それも携帯端末向けのソーシャルゲームが活況です。
これまで、限られた企業が担ってきた役割の多くが、より多くの新しいプレイヤに移行していっています。こうした傾向は、市場で大きなポジションを占めていた企業であればあるほど、危機感を持って捉えられることが多いですが、一方でレガシーのコストをリストラし、強みを持つサービスを見極め、集中して投資をするチャンスでもあります。
成長を目的とするのであれば、レガシーのフレームの維持を前提とした戦略を立てるか、全く新しくフレームを構築するか、どちらが有利かは明らかでしょう。音楽配信市場でAppleがiTunes Storeのサービスを成功させているのはその好例です。
そして、最も重要なポイントは、いかに「早く」その決断をするかだと考えます。市場の変化のスピードは、かつてないほど早くなっているのですから。
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