矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2020.09.17

個人起点のデータ活用“情報銀行”

近年、「情報銀行」に関する取組みを発表する企業が増加している。「情報銀行」とは、実効的な本人関与(コントローラビリティ)を高めて、パーソナルデータの流通・活用を促進するという目的の下、本人が同意した一定の範囲において、本人が、信頼できる主体に個人情報の第三者提供を委任するというものと定義されている(総務省「情報信託機能の認定に係る指針ver2.0」)。従来、企業が個別に保有していたパーソナルデータを個人が保有し、情報銀行に蓄積する。個人の意思で情報提供先を選定し、提供する。個人はデータ提供の対価として、直接的または間接的な便益を受け取ることとなる。

【図表:情報銀行の仕組み】

図表:情報銀行の仕組み

矢野経済研究所作成

従来、日本においては、情報は企業が保有しているという考えが根強く、企業が自社の営業活動のためにデータを収集し、活用するといったデータの囲い込みが行われることが多く見受けられた。その結果、個人は自身のデータがどこに提供されているか把握が困難となっている。企業としてもデータ活用の場は広告等への利用に留まり、そのデータも個人が気付かないうちに提供しているケースも見受けられる。 企業が保有データを囲い込んでいる状況から広くデータを活用できる環境にすることで、データの活用が進むこととなり、「情報銀行」はパーソナルデータの流通、活用のための一つの解決策となると考えられている。

大企業を中心にいくつかの企業が情報銀行への参入を公表している。一般社団法人日本IT団体連盟情報銀行推進委員会は、総務省・経済産業省「情報信託機能の認定スキームの在り方に関する検討会」が制定した「情報信託機能の認定に係る指針」に基づき情報銀行認定制度を設けている。認定は任意であり、「情報銀行」に関する事業を行うために必須要件ではないが、認定を受けることで、安心・安全な「情報銀行」として、消費者が個人情報を信頼して託せられる「情報銀行」であることのアピールすることが可能となる。2020年7月末現在、1社が通常認定を取得している。

■法的整備の状況
日本国内では、2015年の個人情報保護法が改正されたころから、パーソナルデータの流通や活動に向けて取組みが検討されている。個人情報保護法氏名や住所といった個人情報を適切に取り扱うためのルールについて定められており、2015年に改正、2017年5月に施行された。この改正により、個人情報の定義の明確化、個人情報の利活用環境の整備等が定められた。個人情報を得る際の本人の同意が求められるなど規制の強化に加えて、匿名加工情報の第三者提供に関する規制は緩やかになり、より自由な流通利活用の促進が期待された。

近年では、「データポータビリティ権」の検討が始まっている。「データポータビリティ権」とは、企業が保有している個人データを本人に共有するという考えである。EUでは、パーソナルデータの保護に関する統一的なルールとしてGDPR(EU一般データ保護規則)が制定され、2018年5月より施行された。GDPRの20条「データポータビリティ権」において、「自らのパーソナルデータを、機械可読性のある形式で取り戻す権利」「技術的に可能な場合には、自らのパーソナルデータを、ある管理者から別の管理者に直接移行させる権利」が定められた。
情報銀行を成り立たせるには、どれだけ多くのパーソナルデータをどのようにして情報銀行に蓄積させることができるかが問題だと考えられる。現在、自社でパーソナルデータを保有している企業においては、情報銀行にデータを提供するメリットがないのが現状である。しかしながら、個人の指示によって、企業が保有するデータを所得し、別の企業に提供可能となる「データポータビリティ権」が個人情報保護法等で定められることとなれば、情報銀行に関する取組みが拡大すると考えられる。

現在、多くの企業は顧客やデータの囲い込み、そのデータを用いてマネタイズするという戦略をとっている。しかしながら、今後、「データポータビリティ権」が義務化されていくことを考慮すると、自社におけるデータの囲い込みによるビジネスモデルは変化していくものと考えられる。「個人起点」でのデータ活用が普及した際に、自社が保有していないパーソナルデータをどのように活用して、マネタイズしていくかが鍵であり、個人にメリットのある商品・サービスをどのように提供していくかを検討する必要がある。
個人においては、よりメリットを享受できるサービスを選択することが可能となり、自身のパーソナルデータをどう活用していくかを考える機会となるだろう。

石神明広

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石神 明広(イシガミ アキヒロ) 研究員
現在の市場の分析だけでなく、それによって何がもたらされるか、どう変化していくかといった将来像に目を向けていきたいと考えております。一歩踏み込んだ調査を心掛け、皆様のお役に立てるよう精進を重ねて参ります。

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