矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2009.10.29

ICT産業の将来ビジョンを誰が描き、語るのか

情報通信産業と経済成長の間には密接な関係がある

平成21年版の情報通信白書に、以下のような分析結果が掲載された。

  • 「ICT競争力指数」と「一人当たりGDP」、「ICT競争力指数」と「世界競争力指数」との間にはそれぞれ高い正の相関関係が成り立っていることから、情報通信の競争力と経済成長との間には明確な相関が存在する。
  • 「ICT投資比率」と「一人当たりGDP」、「ICT投資の伸び率」と「GDP成長率」との間にそれぞれ正の相関が存在することを示し、ここから情報化投資と経済成長との間にも明確な相関が存在する。
  • 「ICT産業のシェア」と「一人当たりGDP」、「ICT産業のシェア」と「GDP成長率」の間にもそれぞれ正の相関が存在しており、このデータから、「一人当たりGDP」が高い国では情報通信関連産業のシェアが高い傾向が見られる。また、情報通信分野の比重の高い産業構造は、その後の経済成長率を高める方向にはたらく傾向にある。

これらのことから、平成21年版情報通信白書では「情報通信と経済成長の間には密接な関係が存在することが統計的な事実である」と結論付けている。

先進諸国はすでに情報通信分野の新たな国家戦略を策定

実は他の先進諸国では、世界的な経済危機の中での景気対策として、すでに環境・エネルギー分野などと並んで、情報通信分野に対して大きな資源配分が行なわれている。引き続き情報通信白書からの引用となるが、以下にその一例を示したい。

●米国
オバマ新政権が“技術・イノベーション戦略”を主要施策の一つと位置付けており、以下のような施策を打ち出している
・すべての学校、図書館、世帯、病院を世界で最も進んだ通信インフラに接続
・電子政府実現に向け、連邦政府全体を統括するCTO (Chief Technology Officer) を指名
・情報技術を活用した医療制度のコスト削減
●英国
英国は2009年6月、ICT分野の新行動計画“デジタル・ブリテン”を公表。これはデジタル産業の成長を加速し、英国のイノベーション・投資・品質に対する世界のリーダーとしての地位を高めるための戦略的計画とされている。ここでは主に、情報通信インフラの整備、国民のデジタル参加の推進、デジタル時代の創造産業等について記載している。
●フランス
フランスは2008年10月、包括的なデジタル国家戦略“デジタルフランス2012”を発表。“2012年までにGDPに占めるICTのシェアを6%から12%へ倍増させる”ことを目標とするとしている。
●韓国
韓国は2008年7月、イ・ミョンバク政権の情報通信産業政策となる“ニューIT戦略”を発表。2008年12月に、08~12年(5年間)の“国家情報化基本計画”を策定し、「創意と信頼の先進知識情報社会」を目指して、ICT産業生産額を267.6兆ウォン(2007年)から2012年に386兆ウォンに拡大するなど、5大目標(2大エンジン、3大分野)を設定、これに対して09年4月に、20の課題に205の課題を盛り込んだ“国家情報化実行計画”も発表している。

日本のトップも情報通信に対するビジョン、戦略を語る時ではないか

翻って日本の状況はどうか。情報通信白書は「日本の復活のためには情報通信産業の復活が不可欠である」と論じているが、ICT産業に対する日本としての明確なビジョンは、今のところ共通で認識されているものは思い当たらないのが現状である。
2009年6月に総務省がまとめた「ICTビジョン懇談会報告書―スマート・ユビキタスネット社会実現戦略―」があるが、ここでは今後の情報通信産業の向かう方向性を示してはいるものの、具体的な目標数値などは示されていない。まして、今回政権をとった首相から、米国のように成長戦略としてICT産業のビジョンが語られているような事実もない。

これはICT産業に限ったことではないが、総じて日本では経済や産業に関して、国を代表したリーダーがビジョンや戦略について語ることが非常に少ないように感じる。
これまでは民間の自由競争下で切磋琢磨していくことで、大いなる成功を収めた歴史があるといえるかも知れない。しかし日本では今後、限られたリソースを戦略的に配分していくことも考えなければならないだろう。そして、それによって効率的で効果的な成果を求めていくことも、国として実際に検討しなければならないのではないか。
そして、それを誰に語らせるのかは、さらに重要なテーマかも知れない。

野間博美

野間 博美(ノマ ヒロミ) 理事研究員
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