矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2019.07.10

AIベンチャーにチャンスを

AIブームとともにAI系のベンチャー企業への注目が集まっている。特に画像解析系のベンチャーは数多く設立されており、各社しのぎを削っている状況だ。

しかし、近年の日本では、米国のGAFAのように、IT系のベンチャーが急成長して産業界に多大な影響を及ぼすまでに至ったケースというのは殆どないと言って良い。その理由は諸説あるが、様々な理由から日本はベンチャー企業が育ちにくい環境であることは論を待たない。

彼らAIベンチャーも、非常にユニークで良い技術を持ちながらも、なかなかその技術を生かす機会が巡ってこない環境になっていると考える。その大きな原因として、資金の不足、営業人材不足、優良なユーザー企業の不足などを挙げることができるだろう。

まず、資金不足に関しては、事業がなかなか立ち上がらないベンチャー企業にとっては共通の課題であるが、特にAI系ベンチャーに関しては、それが新しい技術であることから市場が確立しておらず、金融機関や投資家の目利きも効きづらいことから、投資に対する判断が下しにくい点があろう。また、仮に資金が投下されたとしても、市場におけるAIの評価が定まらない状況で、優良な顧客がなかなか獲得できないことから、直近の売上の確保がままならず、更なるニューマネーが必要な状況に陥ることもあろう。

営業面では、彼らの多くが技術者の集団であり、ユーザー目線に乏しい点を指摘することができる。多くのベンチャーでは従業員の大半がエンジニアで構成されていることも多く、ユーザー企業の現場に対する知識やノウハウに乏しいことが多い。従って、彼らの技術をユーザーの思考や言語に置き換え、いわば「翻訳」し、そのベネフィットを伝導する役割の存在が求められる。しかし、ベンチャーには上記の通り、資金的なゆとりに乏しく、上質な営業人材がなかなか確保できない状況に陥りがちである。その結果、さらに顧客の開拓が進まないこととなる。

最後の優良なユーザー企業が確保できない問題であるが、私はこれが日本市場の最も大きな課題ではないかと個人的には感じている。

日本のIT市場は大手IT企業と大手ユーザーがSIを通じて形成してきたという長い歴史がある。近年になって、技術面ではクラウドコンピューティングの普及が一般化するなど、その構造はやや変化しつつあるが、大手ITベンダーが大手ユーザー企業をがっちり囲い込むという構図は変わっていないと感じる。資金力のある大手ユーザーの技術的な革新のスピードが、大手ITベンダーの成長スピードによって抑制されている面があるのではないかと危惧している。

米国のITベンダーは総じてオープンイノベーションに積極的であり、有望なベンチャーをM&Aによって次々呑み込んでいくことで新しい技術を取り込み、新事業を立ち上げてきた経緯がある。一方、日本のITベンダーは総じてベンチャーの取り込みには消極的であり、どちらかと言えば自前主義の企業が多い。こういった点に、日本のITベンチャーが、なかなか大手の優良なユーザー企業に入り込めない傾向があるのではないかと推察する。

日本の大手ITベンダーにおいては、今まで以上により積極的なオープンイノベーションの活用が期待される一方で、ITベンチャーにおいては、より多様な成長戦略を検討する必要があると言えるだろう。そうすることで日本の企業全体のIT活用が促進され、ひいては国内の経済成長につながることを期待する。

野間博美

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野間 博美(ノマ ヒロミ) 理事研究員
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