矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2009.10.13

今注目される位置/地図連動型広告

特定エリアの情報だけしか興味のないユーザーは相当数いる

ある大手ポータルサイト担当者によれば、ネットでは特定地域の学習塾や人材募集だけ見ている人など、ひとつのエリアにしか興味のない人が相当数存在するという。つまり、ネットユーザーにおける特定地域の情報ニーズは非常に強い、ということだ。
このようなユーザーニーズに応じて、特定エリアに存在する自社や自店舗を効率的にPRしたい、という広告主は数多く存在する。

今回本稿で取り上げる「地図連動型広告」「位置連動型広告」は、広告主が特定地域の情報についてユーザーにPRできる、いわゆる“エリアターケティング広告”の一種である。ネット上で実施可能な“エリアターケティング広告”にはさまざまな種類があるので、まずは、エリアターケティング広告の全体像、およびそのなかでの「地図連動型広告」「位置連動型広告」の位置づけについて整理するところからスタートしたい。

ネットでできるエリアターケティング広告は主に4種類に分けられる

特定の地域に関する情報を探している人向けに広告を配信する手法は、主に以下の4種類に分類できる。

【図表】エリアターゲティングが可能な広告の分類
【図表】エリアターゲティングが可能な広告の分類

矢野経済研究所作成

●ジオターゲティングバナー
検索キーワードとは無関係に利用者パソコンのIPアドレスを基に国や都道府県のレベルでエリアを識別して、検索結果画面に配信する広告を選択する手法を“ジオ・ターゲティング”と呼ぶ。“ジオ・ターゲティング”によるバナー広告の配信サービスとしては、サイバーウィングがBIGLOBE向けに提供している「ジオターゲティングバナー」などがある。
 
●リスティング広告
ネット利用者の検索キーワードに関連して広告を配信する形でも、エリアターゲティングは可能だ。いわゆる検索連動型広告である。これに該当するサービスとしては、グーグル「Google AdWords」、ヤフー「スポンサードサーチ」などが挙げられる。 これらのサービスでは、検索キーワードだけではなく、“ジオ・ターゲティング”によるアクセスユーザーの地域特定も実施されている。ヤフーのコンテンツ連動型広告/行動ターゲティング広告の「インタレストマッチ」も“ジオ・ターゲティング”による地域特定が実施されている。
 
●位置連動型広告
位置連動型広告とは、携帯電話の位置情報を利用して、現在位置の近くにある店舗などのローカル広告を、携帯電話のブラウザ画面に送り込む広告配信サービスである。携帯電話のGPS位置情報や、NTTドコモの「iエリア」などの位置確認機能と連動させて、地域に密着したローカル広告を選択して配信するサービスとなっている。
 
●地図連動型広告
地図サイトなどで地図や地域情報を「検索」した際の結果画面に関連のある広告を配信する手法を、地図連動型広告と呼ぶ。

後半に挙げた「位置連動型広告」と「地図連動型広告」の2つは、前半に挙げた2つよりもさらに地域を特定した形で配信が可能である(リスティング広告の場合は、キーワードに詳細な地名を設定することで地域を細かく設定した広告配信が可能となるが、キーワードを多く購入する必要がある)。

位置連動型広告や地図連動型広告には、一つの媒体で同様のサービスを提供するケースと、複数の地域情報関連媒体(地図サイトや路線検索サイト、旅行サイト、など)をネットワーク化して広告を配信するケースがあるが、以下ではこのなかでも特に後者「媒体をネットワーク化して広告を配信するサービス」について取り上げていきたい。 

位置連動型広告/地図連動型広告の市場規模が爆発的に伸びない理由とは?

■効率的な広告出稿を求める企業が増加、位置/地図連動型広告市場は拡大傾向
景況の悪化に伴い、ネット広告を中心に展開していたクライアント等において、大きな広告予算を取りづらくなったため、全国に向けて大々的な広告を出稿するのではなく、少予算で特定エリアに向けて広告を出稿したいというニーズは強まっている。
また、リスティング広告への出稿企業が増加し、地域に特化した事業を行なう企業へのネット広告への理解が進んだ。つまりリスティング広告により、チラシやタウン情報誌への出稿と同じ感覚でネット広告を利用すればよいという意識が広告主に広まった。
これらの背景より、エリアを詳細に特定し、安価に広告出稿が可能な位置連動型広告/地図連動型広告のニーズも強まっており、市場規模は拡大傾向で推移している。

■位置連動型広告/地図連動型広告に出稿している主な業種
位置連動型広告/地図連動型広告への、現在の主な出稿業種は以下の通りとなっている。それぞれの参入企業・サービスによって異なるが、出稿が特に多い業種は、飲食店、不動産、美容院、宿泊、病院、などとなっており、企業規模はチェーン店舗など一定規模以上からの出稿が中心になっていると見られる。

位置/地図連動型広告のおもな出稿業種

■市場規模が爆発的に拡大しないそのワケは…
上述の通り、この不況下においても拡大傾向にある位置連動型広告/地図連動型広告市場だが、媒体をネットワーク化してエリア情報を配信する位置連動型広告/地図連動型広告の市場規模は、2008年度時点でまだ数十億円程度の市場規模に留まっていると推計される。
市場規模ならびに広告主数は着実に拡大しているものの、爆発的な拡大には至っていない理由としては、主に以下のものが挙げられる。

  • クリック課金のサービスが中心であり、クライアント1社あたりのグロスの広告費が小さく、ビジネスの規模がまだ小さい
  • 広告主の幅が限定されている
    1. CPC/CPA重視の企業からの出稿が中心となるため、ナショナルクライアントからの出稿が望みにくい側面がある
    2. 個店レベルの小規模事業主からの出稿もまだ大きくは進んでいない。その理由としては、マンパワーの営業が必要など、顧客獲得単価が高く現状では積極的な営業が各社とも実施できていない、ことなどが挙げられる。

ネット中心の展開のみでは地方企業の取り込みは難しく、地方企業とFace to Faceでコミュニケーションを図りながら広告出稿をお願いする、といった地道な作業が広告主拡大には欠かせない。このような背景から地方の出稿企業の大幅な増加にはまだまだ時間を要する状況となっている。 

位置連動型広告/地図連動型広告の今後

■地道な営業活動により、位置/地図連動型広告の利用企業は今後も増加する
ネット広告全体が単に広告を表示するのではなく、行動ターゲティングなど何らかのターゲティングを実施する方向性が強まっている。このようなトレンドのなかでターゲティング要素の強い位置連動型広告/地図連動型広告のニーズもさらに強まっていくと見られる。
ただし、既述の通り、急速な市場拡大は当面は望めないものと考えられる。各社の地方企業や個店などへの地道な営業により、その利用企業の裾野を徐々に拡大していくことが必要となる。

■他デバイス・メディアとの連携が進む
位置連動型広告/地図連動型広告は、今後、広告主数の拡大とともに、広告案件規模の大型化が図られていく。PCやモバイルへの配信だけでなく、他のデバイスやメディアとの連携により、グロスの売上を拡大するような取り組みが、位置連動型広告/地図連動型広告市場拡大には欠かせない。また、この取り組みによっては、市場が急拡大する可能性がある。具体的な方向性としては、多デバイス化による広告メディアの拡大と、PCやモバイル媒体以外のデバイスとの連携によるクロスメディア案件拡大などが期待されている。デバイスとしては、デジタルサイネージ、通信カーナビが注目されている。

  • デジタルサイネージと位置/地図連動型広告との連携
    主にPCやモバイルサイト向けに配信するエリア広告をデジタルサイネージにも配信するという流れは、当然の流れとして顕在化していくこととなる。その一方で、デジタルサイネージに広告を表現するのではなく、デジタルサイネージからプッシュでケータイに広告を配信する動きも活性化すると考えられる。
    デジタルサイネージのディスプレイにケータイをかざすと個人の関心・嗜好に合致したエリア情報を配信するような利用方法や、ケータイ上のエリア情報をデジタルサイネージの大画面で閲覧するような利用方法などが広がっていくと見られる。
  • 通信カーナビと位置/地図連動型広告との連携
    通信カーナビに関しては、既に、オプトやインクリメント・ピーによって、パイオニアの通信PND「エアーナビ」への広告配信を実現している。現在の通信ナビ向けの広告はプル型の配信であり、プッシュ型の配信ではない。プル型の場合、広告のインプレッション数が少なくなるため、広告主が大きな効果を得にくいという問題がある。このような問題を解決するため、ナビ向けにおいてプッシュ型広告配信サービスを検討する動きも見られる。広告のプッシュ配信が実現すれば、広告のインプレッションを拡大させることが可能となることから、広告効果の向上に伴う、広告主数の増加も期待できる。

また、これらのように広告メディアが多デバイス化することで、クロスメディアキャンペーンが増加し、市場規模拡大に寄与することが期待される。 

■位置/地図連動型広告の市場拡大に向けた課題
位置/地図連動型広告の市場拡大のための課題は以下の通りまとめられる。

  • 商談規模の大規模化
    「商談規模の大規模化」に関しては、既述の通り、多デバイス化や多デバイス化によるクロスメディアキャンペーンの取組について触れたので、ここでは説明を省略する。
  • 広告主数の拡大
    「広告主の拡大」では、既存顧客層の拡大と個店レベルまで含めた裾野の拡大が課題となる。主に既存顧客層の拡大においては、効果測定方法の充実とその費用対効果の高さを訴求していく取り組みが必要となっている。例えば、どれだけ実店舗まで誘導できたかをより正確に測定し、その効果を広く訴求していく取り組みが重要となっている。
    また、メール広告や新聞、交通広告、雑誌、チラシとのセットなど他媒体との組合せにより、より効果の上がる利用方法を提案し、その効果を更に高めていくことで、広告主への利用イメージの浸透と費用対効果の高さを訴求していく取組が必要となる。

個店レベルなど裾野の拡大に関しては、地域店舗・施設との密接な関係を構築している広告会社、各種地域媒体事業者、その他当該業種に関係する事業者などとの幅広い提携が進められており、この取組の更なる拡大が必要となっている。
また、自社サイトを有していない企業に対する支援として、広告費用の中に店舗詳細ページ作成費用を含むなどの取り組みも必要となろう。

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