矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2018.11.06

クラウドストレージサービスの発展~倉庫業60年を超える寺田倉庫とアプリ提供3年目を迎えたトランク社~

近年、個人の所有物を手軽に倉庫に収納でき、アプリをはじめとするウェブ経由で収納物を管理できるサービスが出現している。本稿では、それらのサービスを「クラウドストレージサービス」と呼び、以下の特長をもつ収納サービスと定義する。

  • ユーザがアイテムを預ける際に保管場所まで届ける必要がなく、収納サービス提供事業者が手配した物流事業者が、ユーザが指定した場所にアイテムを取りに来る
  • サービスの申し込みやどんなアイテムを預けたかの確認、アイテムを取り出す手続きなどをウェブ上で行える

クラウドストレージサービスの提供には、倉庫事業を展開してきた企業やベンチャー企業など様々な事業者が参加している。特に、寺田倉庫株式会社(以下、寺田倉庫)が提供しているminikuraと、株式会社トランク(以下、トランク社)が提供しているtrunkが代表的なクラウドストレージサービスとなっている。

類似した既存の収納サービスとしてトランクルームサービスが挙げられる。しかし、トランクルームサービスと比較すると、クラウドストレージサービスは、先述した特長を備える上に、費用が圧倒的に安いなどの点で優れている。

さらに、クラウドストレージサービス提供事業者のなかには、サービス内容を個人の所有物の収納のみに留めず、更なる展開を行う動きがみられる。具体的には、預けたアイテムをネット上で売買する、倉庫や物流基盤をシェアリングエコノミーサービスや企業のアイテム保管に活用するなどの取組みが行われている。

以下に、事業者2社が展開しているクラウドストレージサービスについて記載する。

minikura 保管からシェアリングエコノミーサービスの物流基盤まで

寺田倉庫は長年にわたって倉庫物流業や不動産業を展開し、事業の一つとしてトランクルームサービスを提供してきた。しかし、トランクルームサービスではユーザに次のような問題が発生していた。

  • 契約を結ぶ際に書類などの手続きに手間がかかる
  • アイテムをトランクルームに届けるのが面倒である
  • 何を預けたかを忘れてしまう

そのため、ウェブ経由で簡単に申し込むことができ、宅配便でアイテムが送付可能、さらにはアイテムを個品管理できるminikuraを2012年9月にリリースした。

minikuraでは、ユーザは専用ボックスを購入し、届けられたボックスに預けたいものを入れて配送するだけで、アイテムを倉庫に保管できる。さらに、同社は、ユーザが専用キットを購入する必要がなく、アイテムを預けることが可能な収納サービス「minikuraダイレクト」も展開する。
minikuraに保管されているアイテムの総数は、のべ1500万個にも及ぶ(2018年8月時点)。アイテムの種類をみると、トップの衣料品が4割に及び、季節にそぐわない衣服を預ける用途が多い。次点の書籍は3割弱程度占める。

minikuraの基本的なサービスには、minikuraHAKOとminikuraMONOの二つが挙げられる。両者の違いはアイテムの撮影の有無である。minikuraMONOではアイテムを一点ずつ撮影するため、ユーザはウェブ上で写真を見てアイテムを管理できる点が特徴的である。なお、ウェブ上の操作を通じて、minikuraMONOに預けたアイテムをネットオークション・フリマアプリ「ヤフオク!」に出品することも可能である。

【図表:minikuraHAKOとminikuraMONOの比較】

図表:minikuraHAKOとminikuraMONOの比較

矢野経済研究所作成

同社はminikuraで個品管理を実現するほど、アイテムを保管・管理する高度な技術をもつ。同社はその強みを活かし、事業者がminikuraの機能を活用できるサービスの提供にも進出している。たとえば、バンダイは、温度・湿度が徹底的に管理されたminikuraの保管環境にて、フィギアなどのコレクションを預かるサービス「魂ガレージ」を実施している。さらに、寺田倉庫はminikuraをAPIとして提供することで、大企業だけではなくベンチャー企業もminikuraの機能を活用できる環境を整えた。一例では、エアークローゼットは、衣類を保管・輸送する基盤としてminikuraの物流拠点やシステムなどのリソースを活用し、月額制ファッションレンタルサービス「airCloset」を提供している。

加えて、今年8月から寺田倉庫は、事業者の物流をサポートするプラットフォーム「minikura+」の提供を始めた。minikura+では料金などの規格が統一されているため、事業者はminikuraの機能を迅速に利用することが可能になった。これまで事業者がminikuraを活用する際、前もって寺田倉庫が個別に打ち合わせや見積もりなどの対応を行う必要があった。そのため、事業者がminikuraの機能を使用できるようになるまで数ヶ月の期間を要していた。しかし、minikura+の登場により、事業者はオンライン上での会員登録がすむと即座に、個品管理や入出庫、保管などの機能を利用できるようになった。

今後、同社はminikuraの物流リソースを活用したシェアリングエコノミーサービスの展開を、衣類に限らずより多様なアイテムへ拡大していく方針とする。具体的には、精密機器や家具、アウトドア用品などを、minikuraを基盤としたシェアリングエコノミーサービスとして提供できるように、他社と提携していく意向である。 同社は、minikura+をはじめとする新サービスを積極的に打ち出しており、今後の同社のサービス展開に期待がかかる。

trunk C to C取引の新たな姿 所有権は移動するが現物の移動は少ない

2014年に設立したトランク社は、全国トランクルーム情報比較検索サイト「@trunk」を運営してきた。2016年8月からクラウドストレージサービス「trunk」を提供し、利用者数は約2万人に及んでいる(2018年8月時点)。現在、同社はtrunkを3形態のビジネスとして展開している。

まず、B to C型の通常のクラウドストレージサービス「trunk」である。ユーザはtrunkにアイテムを預け、アプリで写真を見ながらアイテムを管理できる。さらに、アプリ上でアイテムを売買・譲渡することも可能である。

二つ目はB to B to C型であり、長谷工グループ、NTTドコモなどの大手企業と提携し、それらの企業が提供している商材・サービスの利用者がtrunkを使用する方式である。たとえば、トランク社は、長谷工グループが管理するマンションの入居者に対して、trunkを提供している。サービス内容は通常のtrunkと同一であるが、入居者は通常の料金よりも割安でtrunkを利用できる。

三つ目はB to B型のtrunk Xである。trunk Xは、企業に対して荷物の出し入れ、配送、保管などの物流サービスを提供する。trunk Xによって、顧客企業は従来行っていたテキストデータによる商品管理を改め、写真による商品の管理・一覧化や出先での管理状況の閲覧が可能になった。また、trunk Xは、大手運送事業者による輸送と比較すると、小回りが利きやすいという特長をもち、一時保管などイレギュラーな場合の対応に向いている。なお、企業の利用形態をみると、全社による利用ではなく、会社の部署単位でtrunk Xを用いるケースもみられる。収益面では、利用料の総額を比較するとtrunk Xはtrunkを上回っている。

【図表:trunkの概要】

図表:trunkの概要

出所:株式会社トランク

トランク社は倉庫を所有しておらず、大手倉庫事業者複数社から空きスペースを借りて、クラウドストレージサービスを展開している。そのため、借りている複数の倉庫の特性を比較した上で、ユーザが預けるアイテムに適した保管環境を用意できるという強みをもつ。trunkに預けられているアイテムの内訳をみると、衣料品が約6割を占め、次に書籍が1~2割程度とつづく。

トランク社は利用者、利用企業双方に対するtrunkの認知度向上を課題と掲げる。課題克服に向けて、多数のユーザを抱えるサービスを提供している企業との提携を広げていく方針とする。収納サービスの高い公共性を背景として、トランク社は累計約9億円もの資金調達に成功している。同社は、調達した資金を基に広告宣伝などの知名度を高める方策を実行し、利用者数の増加をめざす。

同社は、西日本鉄道が運営する電車、バス、タクシーなどの落とし物を、trunkによって全て収納・管理するサービス実現をめざして実証実験を行う。通常、落とし物が携帯電話や財布である場合を除くと、持ち主が現れることはほとんどなかった。一方で、今まで一定期間保管した後に廃棄していた落とし物は、物としてはまだまだ使えるものばかりだった。こうした落とし物でも、必要としている人の手に渡ってほしいという西日本鉄道の強い要望により、2社は実証実験の実施に向けて動いている。さらに、これまで西日本鉄道は落とし物を管理する際に保管コストや人件費、廃棄する際にも追加の費用など相当なコストが発生していた。trunkによる落とし物の管理が実現すれば、西日本鉄道は大幅なコスト削減を見込むことができる。

trunkの最大の特長は、保管されているアイテムについて所有者などの状況をトランク社が把握しているため、所有者の変更にあわせてアイテムを逐一倉庫内外で移動する必要がない点である。たとえば、trunkの利用者Aが利用者Bからアプリ上でアイテムを購入した場合、所有権はAからBに移るが、Bがアイテムを引き出さない限り、アイテムの保管場所は倉庫内にあるままで変わらない。また、所有権の移動に応じて、アイテムをtrunkの倉庫内で移動する必要もない。ゆえに、複数のアイテムをそれぞれ異なる売り手から購入して、あとからまとめて一箇所に配送することも可能である。

現在、フリマアプリなどでも個人間の売買は盛んに行われているが、EC業界全体で運送事業者の運賃の値上げへの対応が課題となっている。通常、ECサイトではユーザが取引するたびに、アイテムを売り手から買い手の元へ運ぶ必要がある。そして、アイテムの移動時には毎回輸送コストが発生する。他方、trunkでは、通常のECサイトと比べてユーザが売買するたびにアイテムを逐一移動する必要性は低い。そのため、trunkにおいては、一般のECサイトよりも、C to C市場運営事業者が負担する輸送コストは低いと考える。輸送コストがかさみにくいtrunkにて、どこまで取引が拡大していくか注目していきたい。

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