矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2018.10.15

GAFA対抗プラットフォーム戦略としての自動車

世界のプラットフォームはGAFAのものか

現在、世界のIT市場をリードし、その動向から目を離せない有名企業群は、それぞれの頭文字をとって「GAFA」(GはGoogle、AはApple、Fは Facebook、A はAmazon)と呼ばれている。この企業群は様々なサービスのプラットフォーム(基盤提供者)を担っている。「Google」は 検索エンジン、「Apple」はデジタ ル端末、「Facebook」はSNS、「Amazon」はネット通販と、それぞれの分野で世界市場を席巻している存在だ。4社とも米国企業であり、現在の世界IT市場は米国がリードしていることは間違いない。

国内においても同様だ。2008年にアイフォンが登場するまで、国内モバイル市場はドコモ「アイモード」等の、通信キャリアによる携帯電話(ガラケー)利用のインターネットサービスがリードしていた。しかし、それから10年経過した2018年現在、国内モバイル市場をリードしているのはAndroidOSのグーグル 、iOSのアップルの2社。これら米国IT企業が国内モバイル市場をもリードしているのが実態だ。

もはやスマートフォンと PCにおいては、GAFA支配下に入らなければビジネスが成立しないとさえいわれている。さらにGAFAは今後、スマートフォンと PCのプラットフォームだけに留まるつもりはない様子。健康データのプラットフォームや、バイオテクノロギーなどのゲノムデータ、民生用ロボットのデータ、そして自動車のプローブデータ、自動運転データを活用するプラットフォームにまで進出をもくろんでいる。現在の産業における「おいしいところ」はプラッ トフォーマがもっていくといわれており、GAFAはまさしくそこに勝負をかけているのだ。

将来、世界のプラットフォームはGAFAの支配下に組みこまれてしまうのであろうか。日本企業はGAFA支配の世界の中で、自らがプラットフォーマとして存在することができるのであろうか。

日本が強いプラットフォーム分野

当社では2017年11月から18年5月にかけて調査を実施し、市場調査レポート「2018位置情報/地図情報活用ビジネス市場」を発刊した。これは位置情報プラットフォームとそこにつながるアプリケーションサービス市場を分析したレポートである。

2017年から18年にかけての位置情報市場において、GAFAの影響力が強くなり、特にグーグルのGoogle Map活用システムが普及してきたため、国産GISベンダが影響を受けて苦しくなるのでは――と危惧されていた。

なにせAndroidOSスマートフォンにおけるGoogle Mapは無料で使用できる。国内地図DB(デジタル地図DB)ベンダやGISエンジン(地図プラットフォーム)ベンダらが供給するスマホ有料サービスは月に100円~300円程度とはいえ、無料サービスにはかなわないだろうから次第に追い込まれ、国産市場は縮小していく…と思われていたのだ。ところがフタを開けてみれば、2017~18年度にかけて、国内地図DB市場、GISエンジン市場はともに急速に拡大しつつある。それはなぜか?

国産GISベンダらは、GAFAが支配する市場の中でうまく生き残る方法論を見出したのだ。国産GISベンダは、スマートフォンを用いて利用者の動態を秒単位で把握し、個人情報等と併せて解析することによりマーケティングを行うビジネスに注力した。そのことによりスポット店舗情報、クーポン、位置情報広告、インバウンド観光において、GAFAには真似できない深堀りしたサービスを提供できるようになったのだ。

生き残る方法は、深掘りサービスばかりでない。むしろGAFAが手を出さないプラットフォーム領域で生きることこそがBlue Oceanだ。GAFAが手を出さない Blue Oceanには工作機械、FAライン、建機、農機などのIoTプラットフォームがある。

IoT端末である建機のコマツ、農機のヤンマー等のプラットフォームは、PCやスマートフォンのようにユーザ数こそ多くはない。これらは比較的閉じられた世界のプラットフォームではある。だが、こうした重量のあるIoT端末分野では日本企業のもつ刷り合せ技術力が生かされやすい。

日本の勝負プラットフォームはやはり自動車

自動車はどうであろうか。自動車は軽であっても1トン以上の重量がある日本企業のもつ刷り合せ技術力という強みを生かしやすい特徴がある。自動車は日本企業が生き残れるプラットフォームになりうるであろうか。そこについて考えてみた。

一言で自動車といっても、その産業は何階層にも分かれている。

第一階層は車体や車載機器を構成するメカニカル、素材(金属、樹脂)産業。ここは日本企業が世界的に強い産業分野といえる。

第二階層はエンジン、ステアリング、AT、ブレーキなどの制御系・走行系システム。ここに使われるモータ等の部品も日本企業が世界的に強い産業分野だ。ただし電池はこれから自動運転カーにおける要の技術として、世界的に激しい競争にさらされることとなる。

第三階層はACCやLDW等のADAS系システム。ここは必ずしも国内企業が強いとは言えず、欧米Tier1が技術的に先行している。だが自動運転カーにおける要であり、たとえ不利であろうと、弱含みであろうと、ADAS系システム分野で激しく競争することは必須である。

第四階層はTCU、スマホ連携、ドライバモニタリング、カーナビ、V2X等の情報系システム。ここも必ずしも国内企業が強いとは言えず、欧米Tier1やITベンダが技術的に先行している。だが自動運転カーの時代にはコネクテッドカーが必須となる。たとえ不利であろうと、弱含みであろうと、情報系システム分野で激しく競争しなくてはならない。特にここがドライバと直接対面するI/Fであり、プラットフォームになる階層だ。

第五階層はコネクテッドカーを束ねるクラウドサーバ。ここではどんなに国内企業ががんばっても、「GAFA+マイクロソフト」の誇る巨大なクラウドサーバ の牙城を破ることは不可能であろう。もはや正面から競争しても無駄といえるかもしれない。

この第一、第二階層で今後も勝ち残り、第三、第四階層で善戦することでプラットフォームを手離さず、第五階層は捨てる。そうすることで、自動車は日本企業が生き残れるプラットフォームになるのではないか。

トヨタとソフトバンク提携が生み出すもの

このように今後も日本企業が戦うべき領域である自動車産業に向けて、2018年1月米国ラスベガスで開催されたCESで、トヨタ自動車は「eパレット」という自らの次世代カーのプラットフォームを発表した。コネクテッドカーサービス(モバイル通信により、外部とつながるサービス)を活用し、移動・物流・物販と用途に応じパレットのように姿を変えられるEVが「eパレット」のコンセプトだ。

「eパレット」は、使用するユーザ企業の思うままにクルマをデザインしてしまう。例えば、宅配便などの配送用車両として使用する場合は荷物が多く載せられるように中をシンプルにする。移動店舗として使用するなら、商品陳列用に棚を配置する。ピザ店舗用なら中にキッチン。見てくれはクラウドによる液晶のデザイン変更でいくらでも変えられる。「移動オフィス」にしたり、「移動カジノ」にしたりもできる。朝は公共交通に使い、昼はケータリングに使い、夜はライドシェアに使うこともできる。トヨタ自動車はそれを自社だけでやるのではない。APIを公開することで、アプリケーションベンダを仲間に引き込もうとしている。アプリケーションベンダのソフトウェアの魅力こそが「eパレット」の価値になることを熟知しているのだ。まるでGAFA達がスマートフォンでやったのと同じだ。

さらにこの2018年10月、トヨタ自動車はソフトバンクと組んで、モビリティーサービス会社「MONET Technologies」を設立すると発表した。GAFAの一角グーグルが手掛ける「ウェイモ」や、中国の「バイドゥ(百度)」などは既にモビリティサービス分野に乗り出している。トヨタ自動車がGAFAや中国IT大手に対抗するためには、世界の主要ライドシェア企業の主要株主となっているソフトバンクと共同戦線を張ることが重要な一手となりうると考えられる。ソフトバンクにしても、トヨタ自動車というハードウェアの強みを生かして戦う方がよいことは間違いない。ただし、戦うのはモビリティサービスの領域である。この提携はクルマの製造・販売で儲けようという話ではなく、あくまでサービスで儲けるための提携だ。

この提携が日本企業の「自動車というプラットフォームでのサバイバル」に向けて、どのような効果をもたらすのか、今後も注目していきたい。

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■アナリストオピニオン
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