矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2009.07.31

「ICTオープン化」は誰のもの?

「オープン化」が進むICTの世界

いまさら、改めて指摘するまでもないが、ICTにおける「オープン化」が加速している。
「オープン」とは、基本ソフト(OS)やアプリケーションソフトなどのコンピュータプログラムを開発するにあたって、その動作のすべてを記述したソースコードを開示することを指すことが多い。ただ、ソースコード開示だけを指すのではなく、広義にはベンダーやユーザーを広く「オープン」に集めるという意味で、「クラウドコンピューティング」なども含まれると筆者は解する。

マイクロソフトのWindowsを始めとして、各事業者はソースコードを特定の事業者のみに提供して、独占的に利用させることでユーザーを囲い込み、「クローズド(な世界)」を作り上げることにより、利益を上げてきた。そして、多くの利益がクローズドな世界にいる特定のものに集中するという一時代が築かれてきたといえる。
このような取り組みは、ビジネスの世界において「コアコンピタンス(誰も真似のできない競争力の源泉)」として、当然、重要なものである。

前述のマイクロソフトのWindowsなどは、長らくソースコードを開示することなく、独占禁止法の槍玉に挙がってきたが、これも、多くのベンダーやユーザー、そして、ワールドワイドに大きな影響を与えることが多くなってきたためである。
そして、これらの「クローズド」を脅かす「オープン」の存在が、このところ注目されている。

近年、Linux、Googleなどに代表されるように、ソースコードを開示するケースが増加している。また、「クラウドコンピューティング」に代表されるように、ユーザ側はインフラ、アプリケーションを気にすることなく利用することができる、そんな「オープンな世界」が広がりつつある。
これらの意味することは何かを考えてみたい。

  • ベンダー(特に新規参入者)においては、オープン化戦略により、独占的なシェアを持つものに対して風穴をあけたいという野望が実現可能(エンドユーザー寄りと思われる「オープン」と、事業者寄りと思われる「クローズド」の対立構造のあおり)。
  • 「インターネット」という世界の中における情報伝達速度の速さ、ブームの作りやすさを利用して、多くのワールドワイドのベンダー、ユーザーを巻き込むことが可能(それも従来のB2Bでデファクトスタンダードを作るのではなく、B2Cから作り上げている)。
  • 結果、事業者はユーザー課金だけにとらわれることなく、広告事業モデルを始めとした新たなビジネスモデルを構築することも可能となった(しかも、広く薄く、多角的に利益を獲得することができる)。

国内では、Yahoo!などのオークションサイト、MixiなどのSNS、ワールドワイドでは、YouTube、Twitterなど、ユーザー向けプラットフォームが提供され、B2Cプラットフォームとして大きな存在感を示しつつある。
こうした、単純な「現在のライフスタイルの置き換えサービス(ショッピングなど)」から、「新たなライフスタイル(個人による情報発信など)」へ、新たなパラダイム(その時代の価値観など)シフトが、大きなうねりを上げてICTの世界を席巻しようとしている。

新システムを創造するでもなく、ユーザーともならず…

「オープン化」の時代は既得権者と新規参入の戦いでもある。ただ、新規参入者もいずれは、クローズドの世界を作り出す「既得権者」となる可能性もある。そして、再びそこに風穴を開けようとする新規参入者が誕生する(旧オープンシステムが廃れる日)。
一方、既得権者も黙っているだけではなく、自らオープン化戦略を打ち出すこともあり得る。Microsoftしかり、Yahoo!しかりである。ICT業界に限った話ではなく、IBM、GEなども、創業当時の事業は跡形もなく変化し続け、その会社ロゴだけが残っている。
新たなオープンシステムが誕生するスピードは速くなり、つねに新しいものが出るのは宿命であり、その歴史は繰り返されていくであろう。

ただ、個人的に感じているのは、自分自身が新たなオープンシステムを作り出しているわけではなく、また、ユーザーともならず、ただ、傍観していることが増えていることだ。

圧倒的な情報量の中で、その情報の真偽や価値を判断することなく(する時間も限られ)、シャーマニズム的な世界(有名人の発言で世論が形成される)と、熱狂的とすぐに覚める日々(イギリスで有名になったご婦人歌手も覚えているだろうか?)。

「新たなオープン」の連続で、ユーザーも、ベンダーも、自分のいる組織も個人も、心休まる日々がなくなっている気がしてならない。「スロー」を謳う人たちの気持ちがよくわかる。自身の意思に関係なく、勝手に動いていくこの世界。なんとなく、せわしさと、置いてきぼり感を感じるのは筆者だけであろうか。

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