矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2018.06.15

2018年はIoT元年になるか?

現場力の高い日本では、産業向けIoTの導入ハードルは高い

ここ数年、IT業界では「今年こそIoT元年」といった先行期待が続いている。しかし2017年に至るまで、特に製造や物流、建設といった産業分野においてはIoT導入が本格化した印象はない(PoC的なプロジェクトは増えている)。

以前のIoTは、ほぼM2M(machine to machine)として認知されていた。M2Mは概して投資規模が大きいビジネスで、投資余力のある大企業を中心に、投資効果が明確な領域をターゲットとして拡大してきた。そのためM2Mでは、領域的な広がりが限定的であった(中小・零細事業者や投資効果が不明瞭な領域への浸透には課題があった)。

一方、IoTはM2Mと比べてスモールスタートが容易であり(相対的な投資規模が小さい)、その分、ビジネス領域/ターゲットユーザは多岐に渡る。さらにIoTでは、既存のスマートフォンやタブレットベースのシステム構築も可能であり、ユーザから見た親和性が高いといった特徴がある。

IoTでは‘モノ/ヒト/コト’に係わる情報・データを収集し、その情報・データをインターネットや公衆回線、専用線などを介して蓄積(ビッグデータ化)。これにより、「従来は見えなかったものを見える化」すること、言い換えれば「現実世界の姿をデジタル化する」ことを目指している。この「見える化」の次のステップとして、収集データの分析・解析により新たな価値やサービス、ソリューションを生み出すことを狙うものである。

実は、ここにIoT普及での壁がある。つまりIoT導入のファーストステップである「見える化」だけでは、どうしても訴求力に欠けるきらいがある。

現業の「見える化」は、業務効率/生産性の向上、省力化/省人化には重要な要素である。しかし、工場に代表される現場力の高い日本においては、この言葉が刺さらない印象である。既に、現場の業務効率は世界トップレベルで、加えて現場作業者のスキルも世界トップレベルである。このような環境下で、新たなIT投資である「IoTを導入する」ことのハードルは低くない。

「IoT×○○○」が需要創出のトリガーになる

上述したように、現状ではIoT単体で拡販を図るのは難しい。そこで別のアプローチとして、「IoT×○○○」によって価値を増幅する取り組みが広がっている。

例えば「IoT×LPWA」とすれば、屋外でのIoT活用可能性が一気に広がる。現状ではまだ実証レベルの案件が主体であるが、長距離・広域カバー及び低消費電力といった点がIoTの普及拡大に寄与する蓋然性は高い。LPWAに加えて、さらに電源問題を低減するEnOcean技術や高機能ボタン電池、環境発電技術などが組み合わされば、より一層IoTポテンシャルは高まる。

この他にも、価値創出局面でKeyWordとなる世代技術としては、「IoT×5G」「IoT×AI」「IoT×ロボット」「IoT×VR/AR」「IoT×ドローン」などがあり、このような要素技術が揃うことで、改めてIoTの有用性が高まってくると考える。

以下に、今後「IoT×○○○」で期待されるソリューション事例を記載する。  

◆工場・製造:予兆診断・異常検知(IoT×AI)、現場作業者の作業支援/研修サポート(IoT×AI×スマートデバイス/VR・AR)
◆運輸・物流:交通拠点での接客・おもてなし(IoT×コミュニケーションロボット×AI)
◆介護・保育:施設向けサービス(IoT×センサーシステム×スマートデバイス)
◆サービス:観光地・イベント・商品紹介の高度化(IoT×VR・AR×5G)
◆サービス:高臨場感・自由視点映像提供サービス(IoT×VR・AR×AI×5G)
◆サービス:見守りサービス(IoT×スマートデバイス/センサーシステム×LPWA)
◆インフラ:劣化診断サービス(IoT×AI×ドローン×LPWA)
◆環境計測:微細気象計測(IoT×ドローン/センサーシステム)

IoTの普及で「非保有型社会化」が進むと予想

今後のビジネスシーンにおいて、IoT活用が見込まれる領域でのビジネスの方向性を、「保有」と「自動化」を軸として示した(下図参照)。

保有は製造業(生産機械・設備など)や自動車、医療機器などで大きく減少して、徐々に「サービス提供」「コト売り」型のビジネスに転換すると見る。つまりIoTを使うことで、新たなサービスモデルが実現すると考える。ここでのイメージは、カーシェアや従量課金タイプのMFPモデル(複合複写機モデル)などが想定される。

一方、エネルギー(発送電施設の維持管理など)やインフラ(維持管理など)、農業・畜産などでは、当面は資産保有タイプのビジネスが優勢であると考える。また水道事業などでは、保有と運営管理を切り分ける形が増えており、他の分野でも同様な流れがある。

「自動化」は、産業分野に係わらず全般的に進展する。中でもヘルスケア(健康モニタリング)やインフラ(維持管理・保全業務など)、防災分野などでは、急速に自動化が進む可能性がある。

また自動車では、コネクテッドカーから自動運転への深化を念頭に、長期的には完全自動運転(レベル5)の実現が期待される。併せて自動車業界が、製造業からモビリティサービス業(移動サービスを提供するビジネス)へと転換することが予想される。

一方、社会インフラや農業・畜産では、IT導入による生産性向上や効率化が限定的であることから、当面は労働集約的な構造が継続すると見る。

矢野経済研究所作成

早川泰弘

関連リンク

■レポートサマリー
IoT関連市場への新規参入動向調査を実施(2022年)
IoT/M2M市場に関する調査を実施(2023年)

■アナリストオピニオン
生産現場へのIoT導入で、製造業の業態変換が急速に進む!
IoT関連ビジネスへの参入では、成果を可視化しやすい領域へのアプローチを目指せ
産業向けIoTの本命は「製造」or「運輸・物流」or「自動車」?
IoT社会はセンサーネットワークによって実現する
注目されるIoT社会実現までの道筋

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早川 泰弘(ハヤカワ ヤスヒロ) 主任研究員
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