我々のような一般人が外国人観光客を「インバウンド」と当たり前のように呼ぶようになって久しい。少なくとも私には、ほんの数年前に初めて聞いたような記憶がある。しかし今では、国内のあらゆるところで外国人観光客を目にしない日はないし、「インバウンド」と言えば、観光業界に属さない人間でも外国人観光客のことをイメージすることが常識になっている。
私が働いている大阪ではその影響は計り知れない状態である。勤務先のオフィス周辺はいわゆるオフィス街で、以前なら外国人はおろか、日本人の旅行客すらほとんど見かけるような場所ではなかった。しかし、周辺にホテルができたこともあって、以前ならまず目にすることがなかった外国人観光客を、今は見かけない日はないほどである。オフィスの向かいにあるコンビニのレジに、朝から中国人の行列ができていることも、今では全く珍しくない状態だ。
こうしたインバウンドの効果は、次第に日本の経済そのものへの影響を強めている。観光庁が先日発表した訪日外国人消費動向調査によると、2017年累計の訪日客による旅行消費総額(速報)は4兆4,161億円と16年(3兆7476億円)に比べて17.8%増加した。初の4兆円超えとなり、通年ベースでの過去最高を更新した。
国・地域別では、中国が消費額全体の38.4%を占め最大だった。中国の消費額は14.9%増の1兆6,946億円。次いで台湾が9.5%増の5,744億円だった。
訪日外国人の1人当たり消費額は1.3%減の15万3921円だった。中国人の1人当たり消費額は0.5%減の23万382円だったとされている。
また、日経新聞社が発表したインバウンド消費額が県内総生産の「消費」に占める割合では、沖縄が最も大きく6.3%、2番は東京で4.2%、3番は大阪で同じく4.2%となっている。また、このインバウンドの消費額を5年前と比較すると、沖縄では8.5倍、東京では4.2倍、大阪では5.1倍になっているという。
また、こうしたインバウンドの影響は地価にも影響を及ぼしている。国土交通省の2018年1月1日付の公示価格は3年連続で上昇しているが、上昇率のトップ3は外国人にスキーリゾートが人気の北海道倶知安町が占めている。また、大阪では長らくキタの梅田が最も高い地域であったが、今回はミナミの心斎橋が逆転し、大阪で最も高い地価となった。これは関空から近いミナミの中でも、道頓堀周辺は外国人に特に人気のエリアであり、このことが地価のアップに影響したとされている。
このように、インバウンドはもはや国内の消費において次第に大きなポジションを占めるようになり、人口減少で衰退が危惧される地方の各地域においても、インバウンド誘致が重大な関心事になっている。
しかし、元来地方の観光業は産業としては未熟とされ、特にマーケティング面に関しては大きく出遅れているのが実態である。こうした中で地方創生のために求められているのがDMO(Destination Management Organization:デスティネーション・マネージメント・オーガニゼーション)の存在であり、具体的にはどこの国のどういった層をターゲットとし、どのように自分たちの観光資源をPRして訪問を促すのかという観光マーケティング戦略が重要視されるようになってきた。
訪日外国人はリピーターも増え、かつてのゴールデンルートから様々な地方へと分散してきている。比較的日本文化を楽しむ傾向のある欧米人と比較して、台湾やタイからの観光客は、日本人の生活を体験することを重視しており、SNSを通じた口コミ情報などを参考に行き先を計画するようになり、それは日本人が考える観光地に留まらず極めて多様化してきている。また、SNSの影響で、彼らの行きたいところのポイントの一つは、如何に「インスタ映え」するかでもある。従って、地方では、如何にSNSをうまく活用して地元の資産を観光資源化するための戦略が極めて重要な課題となっているのである。また、多様な国から訪れる外国人対応には、多言語化はもちろん、人手不足のなか、様々な効率化、省人化が求められるようになっており、IT化は不可避の状況となっている。
地方の観光業は従来、極めてドメスティックで行政主導の仕事であると見られていたが、今やグローバルで最先端のIT技術を活用できるDMOへの変化が期待されており、その成否は地方経済そのものの運命を分かつまでに重要性を増しているといっても過言ではない。
(野間博美)
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