矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2017.10.27

ICT、AI時代に必要な教育とは

最近の若年層の行動パターンの一つに、「なんでもググる」というものがあるという。スマホ時代においては、知らないことは即座に検索することで大抵の必要な情報を得ることができる。また、検索の対象は時代の変遷や目的によって様々使い分けられるようになっており、最近は、通常のWebサイトだけではなく、目的に応じてTwitterやInstagramなどのSNSを検索するといった使い分けも行われている。こうしたことから、人間の物事を覚えるという能力が退化していくのではないかという議論さえある状況だ。

また、2013年にオックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授が発表した、「AIでなくなる職業」が話題を呼んでいる。そこで挙げられた職業としては、例えば「銀行の融資担当者」「スポーツの審判」「不動産のブローカー」「レストランの案内係」「レジ係」「ホテルの受付係」など、多くのものが指摘されている。レジ係、ホテルの受付係など、既に今でもその兆しが窺えるものもあれば、今は比較的エリートであると認識される類の職業も含まれている。

これらのことを踏まえると、これからの人間に求められる能力とは何なのか、ということを考えさせられる。特にこれまでの日本の教育は、大量生産時代に定型業務を間違いなくこなすことに重点が置かれ、そういった業務をそつなくこなす人間の育成に重点が置かれた。結局、普通教育においては知識や記憶が中心で、正確な判断や周囲との協調性を重んじる人材の育成が重視される傾向にあったように思う。

しかし、検索技術やAIの進歩は、これまで社会のなかで人間が担ってきた多くの仕事を取り代えてしまうだろう。そうなると、これまで必要であった教育内容が大きく変わってしまう可能性がある。昔は、「そろばん」は重要な教育であったが、現代では電卓やPCが取って代わり、あえて教える必要性がなくなっているのと同様だ。現在の学校教育に関しても、教科書に書かれていることの多くはネット上に溢れており、スマホ時代にわざわざ暗記する必要があるのかという疑問が生じる。むしろ、ネット検索の技術やネットリテラシーを教育する方が、世の中に適応した教育である可能性があるだろう。

また、教育する側も同様で、AIの方が人間よりも上手に教育することができる時代がやってくるであろう。そういう時代に人間の教師に求められるのは、必ずしも生徒を上回る知識や情報量そのものではなく、生徒が学ぶプロセスをサポートしていく心理的な能力などであるかもしれない。同様に、仕事に関しても、例えば企業をサポートする様々な士業においては、会計や法律、税務に関する情報や知識というよりも、それらの業務に関するコンサルティングやサポートサービスが本質的な業務内容になるであろう。また、レジ係に関してはいずれ自動化、オートメーション化するであろうが、顧客の困りごとの相談に乗るなどといった接客業務は、ネット社会では今まで以上に重要になる可能性もある。このように考えていくと、結局は人間に求められるスキルとは、対人間に関するスキルや創造力になっていくのではないだろうか。

では、そのような時代にどのような教育が求められていくのであろうか。現在の知識を詰め込むタイプの教育がコンピュータ社会において重要度を大きく下げることは間違いない。人間の果たしてきた様々な役割が、コンピュータやAIに取って代わられる今後、創造力やコミュニケーション力、デザイン力など、コンピュータにない能力を伸ばしていくことが人間に必要になっていくであろう。そのような時代にどういった教育を行っていくのがいいのか、具体的な手法の開発が重要な課題となろう。

あるいは、現代における学校教育の目的は、多くの場合、良い職業に就くためのものになっているが、将来AIが人間の「仕事」の大半をこなしてくれる時代には、むしろ人間はその人生をいかに楽しむかということが教育の本質になっていく可能性もある。そう言う観点では、むしろ現代では実用的とは言い難い、芸術や哲学、道徳のようなものが人間にとって最も重要な学習テーマになっているのかもしれない。

いずれにせよ、日本の詰め込み型教育からの早急な脱却が期待されることは間違いない。

野間博美

野間 博美(ノマ ヒロミ) 理事研究員
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