矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2009.06.08

自動車/カーエレ産業復活期に、 カーナビがもたらすビジネスチャンス

世界乗用車市場不況脱出の時期とカーエレクトロニクスの変質

当社が2009年4月に発刊した調査レポート「2009~10年版 カーエレクトロニクス装置の市場実態と中期展望」では、今年2009年の世界乗用車販売台数について、昨年2008年の8~9割レベルの台数にとどまると予測した。欧米日の先進国自動車市場では、「2009年は100年に一度の大不況」という喧伝がなされており、欧米の生産拠点では工場休止の発表、従業員の解雇が行なわれている。
自動車メーカ各社は今、積みあがった在庫車を販売するのに躍起で、生産するどころではないという状況にある。従って、2009年前半の世界乗用車販売台数は3割減、後半は1割減と、1年を通じて前年割れを続けることになりそうだ。

ただし2009年年秋ごろには、こうした世界乗用車販売台数の低迷も、底を確認できるのではないか。また中国、インドを筆頭とする発展途上国の自動車市場は、少なくとも前年並み以上は達成できるものと予測する。これにより、2009年内には世界乗用車市場は下げ止まると見る。しかしながら、2007年の乗用車販売台数レベルに復活するまでには、2012年までかかるものと予測される。しかも、今後の増加分は新興国市場が大半であろう。
従って、2012年に自動車市場が復活した時代の乗用車は、世界各国の環境規制に対応しており、しかも新興国で売れるためには低価格・低燃費でなくてはならない。2012年復活期の自動車は「ガソリンエンジン車からハイブリッドカー、電気自動車へ。また高価格・高燃費のラグジュアリーカー指向から低価格・低燃費のコンパクトカー指向へ」という具合に変質しているはずだ。
クルマそのものが変質するのであるから、カーエレクトロニクスも変質していくであろう。今後は「コンパクトカーなのに金を出しても惜しくない」という乗用車が求められる。しかも消費者自らの乗用車購買意欲は以前のように高いわけではないため、自動車メーカが消費者の感性をそのように変えなくてはならない。そうしたクルマに仕上げるためのカーエレクトロニクスが求められるようになる。

当サイトの読者は、自動車関連企業というよりもIT関連企業の関係者が多いものと推察される。だがカーエレクトロニクスは、(1)その製造工程におけるCAD/CAM/CAE、PLM等の製造業向けソリューション、(2)カーエレクトロニクスに搭載される組み込みソフトウェア、そして(3)インターネットを利用して新たに自動車で展開される通信サービス…というように、IT関連企業のビジネスとは深い関係にあり、そして将来にわたって大きな可能性を持つ。
そこで今回は、カーエレクトロニクス市場全体の動向、およびIT関連企業における新たな可能性について語っていきたい。

カーエレクトロニクス(国内生産)の品目分野別/市場規模推移

図表1はカーエレクトロニクス装置を5分類化し、分類ごとに主な製品を表にまとめたもの、図表2は、その5分類別に2003~14年までの市場成長率(国内生産台数推移/国内出荷、輸出含む)をまとめたものである。

【図表1】カーエレクトロニクス5分類/対応製品品目
カーエレ5分類説明

矢野経済研究所作成

【図表2】カーエレクトロニクス分類別/2003~2014年平均成長率比較(千台,国内生産=国内販売+輸出)
カーエレ分類別成長率比較(2003~2014)

矢野経済研究所推計/作成

集計の結果、2009~14年までのカーエレクトロニクス市場は、世界乗用車市場の底となる2008~09年の2ヵ年はさすがにマイナス成長になるものの、全体としては堅調に推移していくことが明確となった。今後の自動車は1台当たりのカーエレクトロニクス部品点数が増大するため、乗用車販売台数の減少ほどカーエレクトロニクス市場は縮小しない。
5分類のなかでも「アクティブセーフティ系」の成長率は際立っており、コンパクトカー指向の時代においても「アクティブセーフティ」が求められ続ける様子が読み取れる。

乗用車復活の2012年、カーエレクトロニクスはこう変貌する

今後は、2012年の乗用車復活時代のクルマに適合したカーエレクトロニクス開発が重要になってくる。コンパクトカーが主流となる自動車市場の復活時代だが、コンパクトカーだからといってカーエレクトロニクス搭載が減少するというわけではない。世界におけるコンパクトカー同士の熾烈な競争において、特に中国やインドの現地カーメーカが繰り出してくる低価格モデルとの激しい競争に打ち勝つためには「コンパクトなのに魅力的なクルマ」でなくてはならない。

「コンパクトなのに魅力的なクルマ」に搭載されるカーエレクトロニクスは、消費者の乗用車購買意欲をそそるために現在のラグジュアリーカーに搭載されているレベルに匹敵する程のものになるのではないか。キーレスエントリー、オートライト、ABS/ESC等の標準搭載はもちろん、やがてはプリクラッシュまでもが搭載されていく。
しかも時代が求める排ガス低減、燃費改善を実現しなくてはならない。それも新興国で売れるようにするためには低価格を維持しなくてはならない。低価格なハイブリッドカー、電気自動車の実現や、ガソリンエンジンカーへのCVT搭載が進んでいくことになる。
さらに将来を考えるのであれば、電気自動車向けのカーエレとしてX by Wireのシステムを導入することも進められる。

もうひとつ加えるならば、消費者の乗用車購買意欲をそそるためには、「スマートフォンがそのUIの魅力で市場を急拡大させた」ように、消費者と直接触れ合う車室内のデザイン/HMIをより魅力的にすることも重要だ。魅力的なデザイン/HMIを形成するためのカーエレクトロニクスが強く求められてくるはずだ。
こうした乗用車復活時代のクルマに適合したカーエレクトロニクス開発に向けて、組み込みソフトウェアが大きな役割を果たすようになることは間違いない。燃費改善のためには軽量化が必要であるし、コンパクトカーゆえに容量削減も必要だ。そのためにはカーエレクトロニクスをハードウェアからソフトウェア中心のものにシフトさせていかなくてはならない。 組み込みソフトウェアをビジネスとするIT関連企業にとってのビジネスチャンスが生まれる。

「カーナビとインターネットとの連携」で生まれる新たなビジネスチャンス

前述の表・グラフ「カーエレクトロニクス分野別/2003~2014年平均成長率比較」には、情報通信系カーエレクトロニクスが表記されていない。これは当社の調査レポート「2009~10年版 カーエレクトロニクス装置の市場実態と中期展望」が「機構系カーエレクトロニクス(パワトレ系+シャーシ系+ボディ系+パッシブセーフティ系+アクティブセーフティ系)」を調査対象としており、「情報通信系カーエレクトロニクス」を対象にしていないという理由による。だが、実はこの表・グラフに掲載されていない情報通信系カーエレクトロニクスにこそ、IT関連企業の最も大きなビジネスチャンスがある。

情報通信系カーエレクトロニクスの 中核となる製品は、カーナビである。カーナビはかつては「ルートガイダンスをメインアプリとしたカーAVの一種」という製品であったのだが、ここにきてその位置付けが大きく変わりつつある。カーナビは今後、大きく分けて2つの方向に向けて進化していくものと考えられる。ひとつは「機構系カーエレクトロニクスとの融合」 の方向、もうひとつは「インターネットとの連携」の方向である。

「カーナビと機構系カーエレクトロニクスと の融合」は、現在のガソリンエンジン自動車がハイブリッドカーや電気自動車にシフトしていく流れの中で進んでいく。たとえばステアリング(ハンドル)ひとつとっても、20年前のガソリンエンジン自動車時代は油圧を用いてメカニカル制御がなされていた。それが現在の自動車ではモータを利用した電動パワー・ステアリングに代わっている(モータによってメカニカル制御している)。近い将来、電気自動車ではメカニカル部分がすべて取り除かれ、モータだけによって舵を切れるようになってしまう。それがさらに次の世代になるとカーナビとステアリングが連携して作動するようになっていく。カーナビが地図上の自車位置や道路状況を監視し、道路が左側に急カーブしている場合、もしドライバのハンドルの切り方が甘かったとしても、クルマ自身がステアリングを切るようなシステムになる。
もっともこうした「カーナビと機構系カーエレクトロニクスとの融合」は自動車メーカが主体で開発されていくため、それをビジネス化できるのは、かなり自動車メーカに食い込んだ組み込みソフトウェアメーカということになる。

それに対して「カーナビとインターネットとの連携」においては、IT業界のプレーヤが参入できる可能性が高い。これまでにもカーナビは自動車メーカ主体のテレマティクスサー ビス用車載端末として、モバイル通信と連携してきた。トヨタ自動車「G-BOOK」、日産自動車「カーウィングス」、本田技研工業「インターナビ プレミアムクラブ」などのサービスにおいては、携帯電話を利用して、渋滞情報や周辺の観光情報をリアルタイムに取得できるようになっている。地図情報の更新も行なえるようになってきた。
今後期待されるのはインターネットとの連携だ。「クラウド」とも表現されるインターネット上の豊富な情報の中から、サービスセンタのサーバを通して、ドライバはクルマの位置や走行状態に応じて適切な情報を検索し、それをドライビングに活用できるようになる。

とりわけ「Google Maps」「Google Earth」といったGoogleの各種サービスとカーナビとの連携は注目を集めている。これまではパソコンで利用していたGoogleの各種サービスが、カーナビモニタの地図と違和感なく融合することで、店舗、行楽地、イベント、ホテル、パーキングなどの情報を得られるようになる。インターネット上の IT業界のプレーヤは、何らかのビジネスモデルを見出せるのではないか。また運転上の危険のないように、音声合成・音声認識などのHMI技術が用いられるようになる可能性が高いため、こうした技術を保有するIT業界のプレーヤも参入してくることとなろう。

このように「カーナビとインターネットとの連携」においては、将来にわたってIT業界のプレーヤが活躍できるシーンが増えてくることが予想できる。それはカーナビが、携帯電話やパソコンなど他の情報端末とシームレスに連携する時代がやってくることを意味している。

【概念図】2009年のカーナビ→2012年以降のカーナビはこう変わる!
概念図:2012年以降のカーナビはこう変わる!

自動車/カーエレクトロニクス産業は2009年現在、不況の底に沈んでいる。だが、2012年の回復期と同時にさまざまな動きが巻き起こり、それはIT業界のプレーヤに対しても新たなビジネスチャンスを運んでくると大きな期待が寄せられている。既にその胎動は、自動車/カーエレクトロニクス業界の開発研究所などで感じることができるのかもしれない。

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