矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2016.12.13

音楽業界におけるICTの功罪

オリコンは先日、「2015年年間音楽ソフトマーケットレポート」を発表した。これによれば、シングルとアルバムのオーディオソフト、音楽DVDと音楽Blu-ray Discといった音楽映像ソフトを合わせた音楽ソフトの2015年の年間総売上の状況は、売上額で2,866.9億円で前年比は99.8%と微減となった。また、売上枚数は1億210.6万枚で前年比は97.2%となり、金額、枚数ともに減少となった。音楽ソフト市場は、音楽映像ソフトの伸長に合わせて2012年に一度は上向くことになったものの、それ以降は減少が続いており、2015年含めて金額、枚数ともに3年連続の売上減となった。

一方、ぴあ総研が公表した2015年のライブ・エンタテインメント市場規模は、好調だった前年よりさらに20.2%増の5,119億円となった。統計をとりはじめた2000年以降の過去最高記録を、4年連続で更新し、活況が続いている。なかでも音楽市場については、2015年は、5万6,042回(前年比3.0%増)の音楽コンサートが開催され、動員数は前年比25.7%増の4,486万人、市場規模は前年比25.2%増の3,405億円といずれも増加し、過去最高記録を更新したとされている。

これらのことから、久しく言われてきた通り日本においても音楽ビジネスの中心がパッケージメディア等での音楽ソフトの販売から、ライブ市場へと大きく転換していることがデータとしても立証されていると言えよう。

活況を呈するライブ市場において近年注目されているのが、チケットのネット再販事業者の存在である。このビジネスの消費者にとっての本来的なベネフィットは、急に行けなくなった公演のチケットを、行きたくてもチケットが取れなかった人に、ネット経由で安く譲ることができることであり、チケットのC2Cマッチングビジネスであると言ってよい。インターネット、スマホの普及というICTが生んだビジネスモデルであると言ってもよく、この点だけならネットが社会を便利にしている好事例ということもできる。

しかし、話がややこしいのは、その先に生じたネットダフ屋問題があるからである。いわゆるネット再販事業者やオークション業者の対象が、必ずしも善意の一般消費者のみならず、一部の従来のダフ屋的な行為を意図している業者等にも広がっているとされる問題である。ネットを活用したマッチング機能が、従来法律で禁じられているダフ屋的行為にもうまくフィットしたということである。チケット再販事業者のサイトでは、一部の貴重なイベントや条件の良い席などに対して、従来価格の何十倍もの価格が付けられて再販されているケースもあり、さらにはそれを目的とした買占め行為も行われているという。

こうした動きを受けて、音楽関連4団体による「音楽の未来を奪うチケット高額転売に反対します」という声明が全国紙などに掲載されて話題になった。これはライブチケットを買い占め、価格を釣り上げて転売するダフ屋行為を批判する内容で、嵐やMr.Childrenなど100組以上の著名な邦楽アーティストが賛同者に名を連ねた。

ただ、ここでは詳細には言及しないが、音楽業界の打ち手が遅れていることも否めない。こうしたダフ屋行為を減らすためには、座席の良し悪しによる料金設定の差異化や、CD販売を中心としたビジネスモデルからの脱却、需要に合わせて供給側、つまり興業のキャパシティの拡大をはかる等、行うべき策が様々考えられるものの、音楽業界においてそれらに対する取り組みが遅れているのが現実である。

元来ネットが効果的に活用された新しいビジネスの誕生は、旧来の業界や商習慣との間で軋轢を生み、消費者利益のために様々な解決の手が尽くされていくものだが、音楽業界は今その苦しみを味わっていると言えそうである。

ちなみに、こうした問題を解決する手段の一つが、本人認証である。実際にチケットを購入した人が実際にライブ会場に来たのかどうかを確認できれば、ダフ屋問題の一部を解決できるためである。現在、大きなイベントで本人認証の主流のスタイルになりつつある「顔認証」は、事前に顔写真を登録してもらい、当日カメラの前に立つことで、データベース内にある顔写真と入場しようとしている当人の顔をコンピューターが照合、合致した場合に入場可能になるものである。例えば、「ももクロ5大ドームツアー☆」のファンクラブ専用のチケットに使われる他、B’zや福山雅治、Mr.Childrenなどのビッグネームが一部のコンサートなどに活用している。

ICTが生んだ問題を解決するには、やはり先進のICTの活用が効果的であると言うことかも知れない。

野間博美

野間 博美(ノマ ヒロミ) 理事研究員
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