矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2009.05.25

オラクルがサン・マイクロシステムズを買収 次の一手は?

「米オラクルが4月20日に発表した米サン・マイクロシステムズを74億ドルで買収」というリリースは、世界同時不況の最中にあっての大型買収で、M&Aニュースに慣れているIT業界人をも唸らせた。
オラクルはリレーショナルデータベース(RDB)のリーディングカンパニーであり、特にUNIXプラットフォーム用途のRDBとしては、UNIX向けRDBシェアの過半を占めるといわれ、2位のIBM DB2 に大きく差をつけている。近年は積極的にM&Aを仕掛け、人事系ERP のPeople、顧客管理系のSiebel、インフラソフトウェアのBEAなどを手中に収めていた。

2008年初頭から買収が囁かれていたサン・マイクロシステムズ

サン・マイクロシステムズは、Stanford University Networkの頭文字をとってSUNと名づけられた学生企業が始まり。UNIXをOSとし、インターネットを利用することを想定したワークステーションの開発、販売から、Webシステムサーバ、エンタープライズサーバと陣容を広げ、一時期はエンタープライズUNIXサーバのトップシェアを占めていた。プラットフォームを選ばない開発言語Javaの開発元としても知られる。
UNIXに特化し、WindowsベースのIAプラットフォームをもたないサン・マイクロシステムズはPCの高機能化、CPUにおけるIntelの一人勝ちの状況によってUNIXプラットフォームが押され気味になると徐々に精彩を欠き、中核であるエンタープライズUNIXサーバ市場においてHP、次いでIBMに抜かれた。大規模なリストラ計画も発表し、2008年初頭より、どこかに買収されるであろうとの憶測が飛び交っていた。

当初、IBMがサン・マイクロシステムズのM&Aを目指し交渉をしていたが、70億ドルを提示した段階で交渉が暗礁に乗り上げ2009年2月に買収を断念した。買収交渉頓挫が発表された当初は「学生企業として82年に発足以降、プロプライエタリーなシステムで顧客から多大な利益を吸収し栄華を極めていたIBMを最大の仮想敵とみなしオープン環境を提唱していたサン・マイクロシステムズの経営陣がIBMの軍門に下ることを好まなかった」とか、「独禁法の運用に厳格な民主党政権下でIBMとサン・マイクロシステムズの2社で約3分の2に達するシェアが容認されるとは思えなかった」などの観測が流され、次の交渉相手が何処になるかが取沙汰された。

オラクルが巨額を投じてサン・マイクロシステムズを買収した意図とは?

こうしてサン・マイクロシステムズの帰趨が注目されるなか、オラクルの傘下に入ることが決定したが、M&A好きのオラクルとはいえ一種の驚きをもたれた。それはミドルウェアを核とするソフトウェアカンパニーであるオラクルが遂にハードウェアプラットフォームを手に入れたこと。

サン・マイクロシステムズのOSであるSoralisはオラクルRDBのターゲットOSとしては、もっとも大きなシェアを持つOSではあるが、もちろんその他のプラットフォームにも数多く導入されている。一方、IBM DB2 はハードウェアも生産するメーカの製品であり、その点が嫌われてIBM以外のプラットフォームへの普及はいまひとつの状況である。
ハードウェア的に中立なオラクルが、ハードウェアそのものを持つことによってIBMの二の舞になるのではないか、という危惧や、オラクルがサン・マイクロシステムズの製品で本当に欲しいのはSolaris環境、Java、MySQL(オープンソース系データベース製品としては最有力なもので、2008年1月にサン・マイクロシステムズが買収)といったソフトウェア製品であり、ハードウェア部門はサン・マイクロシステムズが開発したCPU SPARCのライセンス生産を行なっている富士通あたりに時機を見て売却するのではないかという観測も流れた。

だが、Larry Ellison(オラクルのCEO)は、「オラクルが所有している各種ミドルウェア、アプリケーションプログラムとハードウェアをより最適性を持たせるよう再設計することにより、より的確なソリューションを顧客に提供できる。だからサン・マイクロシステムズのハードウェアを決して手放さない」と表明。その例としてオラクルの目指す方向とは全く違った分野の製品ではあるがAppleのⅰPhoneを挙げた。

オープンプラットフォームを所有し、そこで稼動するアプリケーションやミドルウェアを顧客が個々に選定し買っていた時代から、顧客はITによるサービスの目的を明確化し、その目的に沿った成果を得られるサービスを選定する時代に入っている。
例えばクラウドコンピューティングにおける階層としてのSaaS(Software as a Service)にオラクルアプリケーションズの製品群を用い、Paas(Platform as a Service)にオラクルのもっとも得意とするミドルウェア群をあてはめ、Haas(Hardware as a Service)、Iaas(Infrastructure as a Service)領域にサン・マイクロシステムズの製品群を当てはめていけば、総合ベンダであるIBMに負けないサービス提供も可能である。

クラウドサービス強化のための製品選定、サポート体制に悩むサービスプロバイダにオラクルによるワンストップサービスを提供することも可能になる。クラウドサービスデリバリの拠点となるデータセンタ事業者側も、サービス内容の高度化、複雑化についていけないところも出てきており、こういった背景がIBMにおいてデータセンタサービス事業者向けの売上を伸ばす要因ともなっていた。

「オラクルが目指す次のステップ」にベンダ各社も注目

オラクルはハードウェアその他もろもろの分野でオラクルの経験値が足らない部分は他のベンダの支援を仰ぐ方針も示している。その支援パートナ最有力候補はサン・マイクロシステムズの最強パートナであった富士通であることは論を待たない。富士通側としてもIBMと世界市場で伍していくこの好機をどのように生かしていくのかが注目され、その他のベンダも新生オラクルの戦略に一枚噛んでいこうと戦略を練り始めている。

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