矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2016.06.08

世界最大の経済規模となった中国(ただしPPPベース)、次の成長の原動力はIT

中国経済の失速に関する報道が繰り返される一方で、訪日中国人観光客の増加と爆買いによる「インバウンド需要」の経済効果が注目され、2016年6月には、中国家電量販最大手の蘇寧(Suning)電器がイタリアの名門サッカークラブ、日本の長友佑都選手も所属するインテル・ミラノの大型買収を発表した。

中国は、2014年末時点の購買力平価GDPで、長年トップに君臨し続けてきたアメリカを抜いて世界最大の経済規模となり、2015年はさらにその差を広げている。国際通貨基金(IMF)のWorld Economic Outlookによると、購買力平価(PPP)ベースで2015年の中国の経済規模は19.4兆USドル。2位のアメリカは17.9兆USドルである。ちなみに、3位はインドの7.9兆USドル、日本は4.8兆USドルで4位であった。
また、2015年12月にIMFは人民元を準備通貨に採用した。通貨バスケットは、USドル(41.73%)、ユーロ(30.93%)、人民元(10.92%)、円(8.33%)、ポンド(8.09%)で、人民元は国際的な重要度で日本円を上回っていることになる。

中国株式市場では昨年、株式投資ブームから一転、株価が大きく下落したのは記憶に新しい。上海総合株式指数は過去1年間で約40%も下落した。しかし、それでも株価収益率(PER )の中央値は59で、これはアメリカの3倍、日本の4倍である(Bloomberg)。中国政府の介入によって株価は高い水準が維持されており、大幅な下落にもかかわらず割安株が見当たらず、海外投資家の中国株離れを招いている。経済成長率に回復の兆しがみられず、まだまだ下がる余地があるとの見方も多い。

人民元は、対円で2012年までは1元12.0~13.2円で推移していたが、2015年6月には1元=20.2円まで上昇した。人民元高は、中国で製造して輸入・販売する日系企業には大打撃だ。2015年8月に中国人民銀行が対ドルの基準レートを引き下げたのをきっかけに、人民元安に転じ、2016年1月には1元=17元台になった。今度は、訪日観光客にとって日本国内での買い物が割高になるため、爆買いを抑制する恐れもある。

中国国家統計局は、2015年の消費者物価指数(CPI)上昇率は1.4%としているが、現地に住む人々の体感では年1割の上昇との声もある。ちなみに、中国統計局のCPIに不動産の価格は含まれていない。不動産価格の上昇に伴ってオフィス賃料も着実に値上がりしており、日系企業が入居するビルや駐在員の住居も例外ではない。

かつての「世界の工場」としての中国のポジションが徐々に失われつつある。グローバルメーカーをはじめとして、中国国内における人件費をはじめとした製造コストの上昇から、製造拠点をベトナムなどに移しているためだ。これを受けて、中国国内では産業ロボットの導入などが加速しており、中国政府も製造業の高度化を後押ししている。

「中国には7億人のインターネットユーザーがいる。中国経済の発展は新常態(ニューノーマル)に入っており、必要となる新たな原動力のために経済構造の調整に積極的な役割を果たす必要がある」中国国家主席の習近平氏は、2016年4月に北京で開かられたサイバーセキュリティと情報化に関する取り組みの座談会で談話を発表した。世界の工場に替わる新たな成長の原動力としてIT産業の育成を目指す考えだ。2015年9月の訪米時には、バイドゥ、アリババ、テンセント(BAT)の創業者たちも同行し、Facebookのマーク・ザッカーバーグ氏、Amazonのジェフ・ベゾス氏、Appleのティム・クック氏をはじめとしたアメリカ・中国の両国を代表するテック企業と会議を行っている。
成功の代名詞として挙げられるBAT以外にも、スマートフォンメーカーの小米(Xiaomi)や華為(Huawei)、インターネットセキュリティの奇虎360(Qihu)、SNSの人人網(Renren.com)、ECサイトの当当網(Dangdang.com)など、中国国内には有力なテック企業も多い。
2015年にも中国テック企業たちは活発に動いている。アリババ(阿里巴巴)は、動画共有サイトの優酷網(Youku.com、合併した土豆Tudou.comも含まれる)を買収。バイドゥ(百度)は共同購入の糯米網(Nuomi.com)に出資。スマートフォンアプリでタクシー配車サービスを提供する滴滴打車(DiDi Taxi)と快的打車(Kuaiddi Dache)が合併し、滴滴快的(Didi Kuaide)となった。大手トラベルポータルの携程旅行網(Ctrip.com)と去哪儿网(Qunar.com)は提携するなど、成長の鈍化ばかりが取り上げられる中国の経済環境の中、勢いに乗っている。
しかし、中国は、厳格なインターネット規制を行っていることが知られている。先の座談会で、習近平氏は、「門を閉じてはならず、閉じられることもない。外国のインターネット企業は中国の法規を順守しさえすれば歓迎する」としているが、NTTコミュニケーションズがデータセンター事業を断念したばかりである。本当に市場参入が可能になるのかどうか興味深い。

古舘 渉(フルダテ ワタル) 主任研究員
新規事業コンサルティング部門、上海現地法人、海外部門を歴任し、新規市場開拓のお手伝いには自信があります。

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