矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2016.04.28

スマートフォンが持ち去ったもの

2016年2月24日、全国大学生活協同組合連合会(東京)は、全国の国公立および私立30大学の学部生から回収した9,741名のアンケート調査結果である、第51回生活実態調査の結果を発表した。これによれば、大学生による本離れが一層進んでいることが浮き彫りとなった。
結果を概観すると、大学生の1日の読書時間は平均28.8分で、前年より2.9分短縮、有額平均(読書した人の平均)も52.9分で前年から1.5分の短縮となった。
また、読書時間「0」の人は45.2%(文系39.8%・理系48.1%・医歯薬系55.1%)と前年から4.3ポイント増加し、これまでの「0」の割合を更新している。

これらを男女別にみると、男子の平均時間が32.0分(有額平均57.1分)、女子25.0分(同47.7分)と男子が長い。平均時間の長さは06年に男女間で逆転しており、読書時間「0分」も08年に逆転した。
一方、同じ調査で1日のスマートフォン利用時間の平均は155.9分(男子148.6分・女子164.7分)、有額平均159.8分(男子153.3分・女子167.5分)であった。スマホを持たない、または利用しない「0分」は、2.3%(男子3.0%・女子1.6%)と僅かであり、ほぼ全員が利用しているに近い結果となった。

同じ調査結果の過去のデータを遡ると、読書時間「0」の人の割合が40%を超えたのは、2013年であり、その年は40.5%であった。また翌年の2014年には40.9%となり、2015年は過去3年連続で40%を超え、しかも2015年の増加率は非常に高い結果となった。2013年頃はスマホの普及が一段落したタイミングでもあり、スマホの普及が大学生の読書時間と関連している可能性は高いと思われる。
現に、象徴的な空き時間である電車の中で、移動中にスマホを利用している人は、現在では相当な割合に達していると思われる。

かつての電車の中は、新聞を読む人、読書をする人、ゲームをする人、雑誌を読む人、おしゃべりをするひと等、各人が様々な方法で時間をつぶしていたが、今やスマホがその多くの時間を奪っていると思われる。
有史以来、今ほど人類が大量のテキストを消費している時代は無いと言われる。ネット環境の整備により、最近でこそ動画のコンテンツが増えてはいるものの、インターネット上のコンテンツの多くは依然テキストが中心であり、スマホにおいてもその状況は大きくは変わっていない。SNSでのコミュニケーションやブログ、HPの閲覧など、日々テキストを追い続けていると言っても良い状況である。
従って、読書時間が減少していても、その分テキストを読んでいるから「読む」能力は劣っていないという意見もあろうが、私はその意見には与しない。
本を読む行為は恐ろしく神経を使う行為であり、プロが真剣に作り上げた文章を真剣に読み解くことは、ネット上のコンテンツをざっくり把握する、という行為とは全く異なるものであると考える。そうした「本を読む」という行為を通して、我々は能力を磨き、知識を吸収し、感性を磨いてきたのである。

読書という時間を過ごさない人が増加していくことによって、将来世の中がどう変化するのかは全く想像がつかないし、あるいは全く何も変わらない可能性もある。

言うまでもなく、スマホの登場は社会に大きな変革をもたらした。手のひらの中にインターネットを収納でき、それを持ち運べるようになったという変化は、ネットの登場以上のインパクトということができるかも知れない。しかし、スマホ検索によって、リアルタイムにわからない情報を調べることができるようになった結果、覚える、考えるという行為が著しく損なわれた可能性もある。
スマホという便利なツールは、一方で人間固有の貴重な能力を奪う、非常に危険なツールなのではないか、と恐ろしく思う気持ちもなくはない。

野間 博美(ノマ ヒロミ) 理事研究員
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