矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2015.11.19

自動運転で「所有から利用へ」が本格化?

2015年11月8日に閉幕した東京モーターショーでは、次世代小型モビリティやパーソナルモビリティの試乗もあり、出展各社の取り組みは非常に興味深かった。大手自動車メーカー各社とも、自動車の電動化もまた避けて通れない道として認識されているが、象徴的なところでは、走りを追求したホンダのCIVIC TYPE R、ロータリーエンジン搭載のコンセプトモデル「Mazda RX-Vision」など内燃式エンジンによる自動車の魅力も再訴求されている。
自動車の解説は各専門メディアに譲るとし、ここでは、自動運転に関して改めて考察してみる。

トヨタ自動車は、これまで自動運転に対して慎重な姿勢を保っていたが、モーターショーでは、車、道路(インフラ)、人、その他の移動体が統合的に連携するMobility Teammate Conceptを提唱している。車両側ではLiDARやミリ波レーダーなどが周辺車両や障害物を検知、自車位置を高精度地図情報と照合し、車間距離を維持し、精密なレーンチェンジや合流の実証実験を行っている。そして、ITS Connectでは、交差点に設置されたカメラ類やセンサ類が周辺の車両や歩行者を検知し、車側に伝えることで、車載センサだけでは補足しきれない範囲もカバーし、これらが連携することで、安全な自動運転の実現を目指している。

信号機に取り付けられたセンサーが自動車に対向車や歩行者の存在を警告。
(トヨタ自動車広報資料)

本田技研工業は、自動ブレーキや車線維持などの「ホンダセンシング」の搭載車種を拡大するのに続き、2020年をめどにこれらの技術を基にして、高速道路での車線変更など自動運転機能の市販車への搭載を目指している。自動車に加え、二輪車から航空機まで展開するホンダブースの展示内容は、パーソナルモビリティから発電機まで多彩なものになっていた。

FCV「CLARITY FUEL CELL(クラリティ フューエル セル)」は、1回の充填(充填時間は3分)で700kmとガソリン車並みの航続距離を可能にし、走る電源としての展開も視野に。(本田技研工業広報資料)

日産自動車では、2016年末にも高速道路上での自動運転「パイロットドライブ1.0」導入を表明しており、運転の自動化に対して積極的に取り組んでいる。既にEVリーフをベースとした実験車両による公道テストも開始している。

NISSAN iDS Conceptでは、運転者は、自分で運転するマニュアルモード、ステアリングを格納して自動運転に任せるパイロットモードを利用場面によって選択できる(日産自動車広報資料)

以前、堀江貴文(ホリエモン)氏が、移動は、自分では運転せずに常にタクシーを利用すると言っていた。タクシーの中であれば、仕事ができるからだそうだ。筆者自身は、彼ほど忙しくはないし、時間当たりのバリューも高いわけではないが、自動運転で移動中に食事を済ませたり、本を読んだりできれば便利だろうと思う。実際、アメリカでは、運転しながらの飲食が事故原因の上位にある(後述)。

年々、高齢者の運転免許保有者の数は増えており、それに比例するように高齢者による交通事故は増加の傾向にあるが、運転免許保有者数全体に対する交通事故の比率は減少している。これには、シートベルト、エアバッグ、ABS、トラクションコントロールなど、車両装備や安全技術の進展が寄与していると言われている。衝突回避ブレーキ、車線維持、誤発進防止アクセルなど、安全性を高める技術はさらに発展しており、その集大成が自動運転カーと言える。

交通事故の90%は人為的なミスによるものと言われる。日本では、死亡事故のうち飲酒が原因となったのは6%程度まで低くなっているが、世界全体では、死亡事故の1/3が飲酒運転によるものとなっている。こと米国では、不注意の原因の1/3は運転中の飲食、1/4は運転中のながらケータイメール(スマホ普及でさらに増加中)、女性ドライバーの半数は運転中に化粧したことがあり、それによる事故は45万件にも達する。その他にわき見や居眠りなど、不注意の原因そのものは取り除くことが困難なのかもしれない。
自動運転によって、少なくともこうしたヒューマンエラーに起因する事故は減らすことができる。

自動運転カーが行き交う世の中は、人為ミスに由来する交通事故が激減する素晴らしい世の中ではないか。

少し見方を変えて、自動車の稼働率を考えてみたい。一般的な会社勤務の世帯では、週末以外には車に乗らないという家庭も多いだろう。
少し情報が古いが、国土交通省の2003年の調査によると乗用車の走行距離は年間平均10,000kmであった。乗車時間を大目に見るため、平均速度20km/hで走行すると仮定すると乗車時間は500時間。365日×24時間に対する比率では稼働率5.7%になる。
違う角度から、自動車保険のチューリッヒ保険が提供する目安では、毎日の通勤・通学と週末の買い物・レジャーに使用して、年間走行距離10,000~15,000kmと言う事であるから、通勤に往復2時間×5日、週末に3時間×2日のペースで自動車を利用するとすれば、1週間に合計16時間の稼働となる。これは、24時間×7日間=168時間のうちの1割に満たない。商用車は当然ながらこの限りで無いが、生産人口の半数近くが集中する首都圏では、50%の人々の日常の足は公共交通機関である(2008年パーソントリップ調査)。京阪神圏でも平日の鉄道利用率が25%以上(2010年全国都市交通特性調査)となっており、通勤に自動車を使用しない可能性が高いため、おそらく、日本国内の自家用乗用車の保有台数約6,000万台(2015年8月時点)は、そのプロダクトライフの殆どを駐車スペースで過ごしていることになる。

自動車は、「所有から利用へ」と言うのは、カーシェアリングがスタートした当時から、言われてきたが、ここ数年は特にステーション数と利用可能台数が増えたことで、成長に弾みがついている感がある。弊社の推計では、2015年のカーシェア市場は、202億円と対前年比で131.2%が見込まれている。

カーシェアでは、車が置かれているステーションが利用者したい人々の近くに存在することが重要な要素で、稼働率を確保するためには人口密集地に設置する必要があるため、時間貸し駐車場や小売店舗の小規模駐車場などを有効活用することで、そのステーション数を拡大してきた。ところが、自動運転カーであれば、車が自分で「通勤」することが可能であるため、待機拠点は郊外にあっても良く、一方通行になりかねないワンウェイの貸し出しも可能になる。カーシェアリングこそ、自動運転カーが相応しい業態の一つと考えられる。
所有者が自動車を使わないときにPeer to Peerで借りたい人とをつなぐAnycaやGreenpot、Getaround(米)、 TURO(旧RelayRides(米))、easycar(英)などは、新しく急成長しているサービスの一つである。

自動運転カーが街中を走りまわる社会では、自動車を所有する必要がなくなる。必要に応じて、スマートホンで目的地への到着時間を指定すれば、自動的に所要時間を計算して、その時間に合わせて利用者を迎えにやってくる。自動運転カーもまた、必要に応じて、ドックに戻り燃料の補給や給電を受ける。利用の多いエリアでの待機台数を増やしたり、利用者の行動パターンを蓄積して、毎週火曜日の朝病院に通う人の自宅近くで待機したり、夜、塾が終わるころに学習塾の近くに待機したりもできるだろう。

自家所有の自動運転カーの場合であっても、例えば、買い物に出かけたショッピングセンターの入り口で、車を降り、車は専用レーンを通って専用駐車スペースに自動で駐車。帰りには、呼び出しに応じて、持ち主の現在地に迎えに来て、自宅の前で降りたら、少し離れた月極め駐車場まで自動で駐車しに行く、など言うことが可能になる。

しかし一方で、安全性を確保するため、例えば、最高速度30km/hでの走行に限定されるようなことも考えられる(試験運転を繰り返しているGoogleカーだが、遅すぎるという理由で警察に止められたりもしているようだ)。また、前方に障害物があると判断した場合に停止するようプログラムされた自動運転車は、不必要な停止を繰り返す可能性もある(たとえ、それが、路上に落ちた軍手や風に舞うレジ袋であっても)。さらに、車線逸脱を許さない自動運転カーであれば、片側一車線を閉鎖して工事が行われている道路では、迂回ルートを選択するかもしれない。結果として、目的地に到着するのに通常15分の道のりに1時間かかり、時間に余裕のある場合しか使えないというようなこともあり得るだろう。

しかし、無人の自動車が呼び出しに応じて乗車希望者を迎えに行くような世の中は、まだ先のことになりそうだ。

課題は主に二つ、安全性の確保と事故を起こした場合の責任の所在である。
安全性の観点からは、自動運転で走行中に、プログラムの誤判断で構造物に激突したり、高いとこから転落したりすると運転者の安全にかかわる。また、他の車両や歩行者を巻き込むような事故にもつながりかねない。衛星測位によるリアルタイムの位置情報取得、クラウドを利用した地図情報の更新、車車間通信による自車周辺の安全環境など、通信による制御には、通信が途切れた場合の冗長性が求められる。そうした安全対策を万全にしようとすれば、航空機並みの装備となり、価格も航空機並みになりかねない。予測不可能な動物の侵入や障害物の落下が起こり得る路上よりも、むしろ、トラフィックが厳格に管制され、不測要素が少ない上空をオートパイロットで飛ぶことができる航空機の方が制御しやすいともいえる。

そして、万一、自動運転車が事故を起こした場合、自動車の操作のミスはあくまでも乗車している人の責任となるのか、あるいは、車体の不具合として製造者が責任を取る必要があるのか。
ますますソフトウェア依存度が高くなる自動車において、自動運転ともなるとその制御は様々なセンサからの入力情報を処理し、それらの情報に基づいて車体の挙動が制御されることになる。いかなるソフトウェアも100%の完璧さは保証されるものではなく、ましてや、多種多様なセンサ、速度や移動距離などの走行情報、測位衛星と地図情報の位置情報修正など、複雑な処理を伴う自動運転では、どこで不具合が発生するか予測が困難で、不具合発生時の原因特定も難しい。

自動運転カーは、一方で、コネクテッドカーでもある。走行に従って刻々と変わる車両の周辺環境、ルートマップルート上の渋滞、事故、道路工事の情報など、最新情報を通信し続ける必要がある。そうした状況にあって、フィアット・クライスラーのJeepが携帯電話網を使って遠隔操作できる脆弱性が発見された。搭載されたインフォテイメントシステム「Uconnect」は、盗難防止機能としてGPSで車の所在を追跡したり、遠隔でエンジンを止めたりする機能があるが、この通信機能から侵入し、ロックの施錠・解錠、ワイパーの作動、ブレーキ操作、ステアリング、停止状態から発進させるなどの遠隔操作がデモンストレーションされた。もっとも、侵入経路を発見してから、各種コントロールのコードを解読するために膨大な時間をかけた結果であり、ハッキングを行ったセキュリティ研究者たちの協力によって、フィアット・クライスラー社は既にアップデート版のUconnectを配信している。
自動車の進歩によって機能の多くが電動化、自動化されてきた、パワーウィンドー、キーレスエントリー、キーレスエンジンスタート、そして、最近ではブレーキ、アクセル、ステアリングなどの走行機能まで電子制御されている。
フィアット・クライスラーだけではなく、ゼネラルモータース、BMW、メルセデスベンツの自動車もハッキング対象となっており、これまではスタンドアロンで良かった自動車が、急速にコネクテッドカーになることで、セキュリティ対策も急務となってきている。

自動運転カーは、自動で目的地まで運んでくれるが、つい最近ブラジルで、観光客の夫婦がカーナビ頼りで運転し、スラム地域に迷い込んで襲われる事件があったばかりだ。日本のように安全な地域ばかりではない場所もあることも考慮すべきであろう。

交通事故が激減し、渋滞は大幅に緩和され、目が不自由な人や歩行が困難な人、免許を持たない子供ですら車での移動が可能になる。そんな世の中になるには、まだまだ乗り越えるべき課題は多い。しかし、人件費圧縮のための過酷な労務環境の結果として発生する大型トラックや長距離バスの事故のニュースを聞くたびに(日本国内では大型車両への衝突被害軽減ブレーキ搭載が義務化の方向にあるが)、限定的でも自動運転の早期実現を願うばかりである。

多種類のセンサを全方位に搭載し、高速な解析処理とセキュリティを両立し、運転者と周辺の安全確保に冗長性を持たせた自動運転カーは、やはりテスラのModel S並みかそれ以上の価格になり、一般庶民には手が届かなくなってしまうような気がする(低価格な大衆モデルも予定されているが、オートパイロット機能の有無は不明)。そうなると、やはりカーシェアが有望だろうか?カーシェアリングの共用車両では、カーナビの案内履歴などもパーソナライズできないので、ますますスマホでの代替(あるいは連携)が重要になってくる。ゴルフバッグやクーラーボックスを積みっぱなしで、動く倉庫のような車の使い方をする時代は終わりなのかもしれない。

古舘 渉(フルダテ ワタル) 主任研究員
新規事業コンサルティング部門、上海現地法人、海外部門を歴任し、新規市場開拓のお手伝いには自信があります。

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