矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2015.10.27

シェアリングエコノミーは消費社会の救世主? -共有経済がもたらす本当の価値とは―

今、話題のシェアリングエコノミーサービス

「シェアリングエコノミーサービス」とは、「乗り物・スペース・モノ・ヒト・カネなどを不特定多数の人々とインターネットを介して共有するサービス」を指す。「カーシェアリング」、「民泊サイト」、「ファッションシェアリング」、「クラウドソーシング」、「クラウドファンディング」などのビジネスが該当する。

近年、シェアリングエコノミーに関連して、国内で大きな動きを見せている規制緩和は「民泊」であろう。旅館業法における特例の制定によって、有償による宿泊施設の要件が緩和されたのだ。
従来、旅館業法上、自宅や自分の別荘に有償で人を泊めるには許可を受けて安全上の設備などを整える必要があった。しかし、2014年に旅館業法の特例が施行され、国家戦略特区内において、一定の条件を満たしている個人宅であれば、宿泊施設としての利用が可能になる。そのためには、自治体の民泊条例制定が必要だ。

その民泊条例の制定に関して、先行して取り組み始めたのが大阪府および東京都、大田区である。今後は、大阪府や大田区をモデルケースとしながら、他の自治体でも民泊条例を制定する流れになっていくと見込む。

一方、2015年10月に開催された規制改革会議の中でも、安倍首相が「民泊サービスの規制を改革する」との表明をしており、今後は更に「民泊」に関する法や環境が整っていくだろう。このような情勢は、「airbnb」や「TOMARERU」といった「民泊サイト」にとって追い風になるのは間違いない。

【図表:シェアリングエコノミーサービスの仕組み】

【図表:シェアリングエコノミーサービスの仕組み】

矢野経済研究所作成

シェアリングエコノミーサービスに見え隠れする2つの顔

以上を受けて、あなたは何を思うだろう?家主であったなら、遊休資産を活用できるビジネスチャンスと感じるかもしれない。ホテル王であったなら、宿泊施設の低価格化を招く事態であると感じるかもしれない。

「シェアリングエコノミーサービス」のイメージは、「暮らしを豊かにし、持続可能な未来を作る素晴らしいビジネス」というプラス面と、「消費社会を破壊する恐怖のビジネス」というマイナス面を持ち合わせているようにも思える。

前者であれば、共有経済の蔓延によって、消費社会から脱し、遊休資産の活用によってエコロジーにつながるといった考えになるだろう。一方、後者であれば、乗り物・スペース・モノ・ヒト・カネなどが他社と共有されることで、購買意欲が低下し、低価格化を招き、メーカーや不動産業や人材派遣業にとって打撃になるというイメージだ。

ウルグアイ前大統領ムヒカ氏に学ぶ、モノを持つことに疲弊し始めた現代人

「シェアリングエコノミー」の本当の価値を知るためのヒントは、前ウルグアイ大統領であるムヒカ氏がリオにおける地球サミット内で残した名スピーチにあるのかもしれない。
彼は言う、「貧しいのは僅かなモノを持たない人ではなく、無限にモノを必要としている人のことである。ここに、議論のポイントがある」と。

彼は世界一貧しい大統領として有名だ。給料の約9割を寄付し、必要最低限のモノに囲まれた生活を送っている。このような生き方に感銘を受ける人々は多く、日本では彼の逸話を描いた絵本まで出版されたほどである。
彼の生き方に多くの反響があった理由は、現代人がモノを消費し続けることへの疲弊や嫌悪感が芽生えているのが背景にあるのではないかと推測する。「断捨離ブーム」もあったように、現代人はモノの所有への執着が薄れてきているのではないだろうか。

つまり、現代人のモノの継続的な消費活動が強迫観念のように付き纏う一方、その状況から逃げ出したいとも考えているのだ。先に挙げた、シェアリングエコノミーのプラス面とマイナス面のイメージは、まさにこの状況を表しているとも言える。

シェアリングエコノミーから受ける私たちの恩恵はどこにある?

そもそも、「経済」とは「人間の共同生活に必要な財貨・サービスを生産・分配・消費する活動や社会関係」を示している。
つまり、経済が活発化するというのは、単に「消費」と「生産」が行われるだけでなく、「分配」という行為も必要になるのだ。

現代社会において、様々な場所で様々なモノが消費され、生産されているにも関わらず、「分配」については特定の地域、ないしは、コミュニティにしかされていないようにも思えるのだ。実際、食糧不足の地域がある一方で、日本における食品ロスは年間約1,700万トンにもおよぶ。この余剰しているリソースを不足している地域に「分配」できたら、それは経済を活性化していると言えるのではないだろうか。

今回、旅館業法の特例によって政府が民泊を推進しているのにも、「宿泊施設不足」および「空家問題」が背景にある。

東京オリンピックに向けて、訪日外国人が増加傾向にある。そのために、宿泊施設の稼働率も上がってきており、今後は宿泊施設の不足が懸念されている。一方で、遊休資産の活用に悩まされている地主もいる。今後は旅館業法の特例ができ、民泊条例が施行されることで、条件を満たした一般住居の貸し出しが可能になり、グレーゾーンにあった「民泊サイト」も更に合法へと近づいた。政府にとっても「民泊サイト」は「宿泊施設不足の補填」および「空家の解消」の両方を促し得る有難いサービスであると言える。

このように、「民泊サービス」を含む「シェアリングエコノミーサービス」は単純な消費社会では対応しきれていない人々のニーズに応えるべく、新たな「分配」方法によって必要なモノを補填していくサービスなのだ。

また、本当に良いモノの創造にも一役買ってくれるとも考える。例えば、昨今話題になっている「ファッションシェアリング」は、他者と衣服を共有することで安価に好きなファッションを楽しめるサービスである。インターネットを介在としてユーザの共有を可能にしているため、ユーザの好みや利用回数・期間などのデータ取得が可能になり、そのデータを作り手であるブランドにフィードバックすることでマーケティング素材を生み出し得るのだ。

弊社推計によると下記図表のとおり、「シェアリングエコノミーサービス」の国内市場規模は決して大きくはない。
しかし、「シェアリングエコノミーサービス」が私たちにもたらす恩恵は先に挙げた「経済活動における新しい分配方法」および「本当に人々が必要としているモノを生み出すためのサポート」にあると考える。
これは、「経済」が持つ、もう一つの意味である「国が治め民を救済する」のを叶える一助にもなる。その意味で、「シェアリングエコノミーサービス」は活性化していく新しいビジネスとして台頭していくであろう。

【図表:シェアリングエコノミーサービス 国内における市場規模推移】

【図表:シェアリングエコノミーサービス 国内における市場規模推移】

矢野経済研究所推計

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