矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2009.04.20

「はみだし」市場に要注目

地デジの普及率は49%?

今年の2月17日、総務省が公表した「デジタルテレビ放送に関する移行状況緊急調査(平成21年1月)」によると、地上デジタルテレビ放送対応受信機の世帯普及率が49.1%という結果でした。このデータを見て、皆さんはどうお感じになるでしょうか? 「ふ~ん、そんなもんか」「いまだに50%を切るなんて少ないじゃないか」「思ったより普及しているようだ」……いろいろな感想があるでしょう。
それでは続いて「ただし、このデータにはワンセグケータイの普及率は含まれていません」という但し書きを読んだらどうでしょう。
いかがです? 当初抱いた印象が、若干変わった方もいるのではないでしょうか?

実際、冒頭のデータにはワンセグケータイやワンセグ対応カーナビなどの機器は調査対象に含まれていません。49.1%というのは、正確には「デジタルテレビ、デジタルチューナー、デジタルチューナー内蔵録画機、地上デジタルテレビ放送が視聴できるパソコン又はケーブルテレビ専用機器のいずれかを保有している世帯」の普及率となります。
したがって、たとえば「自宅リビングはアナログテレビのままだが、個室や外出先ではケータイのワンセグで地上波放送を観ている」というケースは対象外になります。厳密にはワンセグとフルセグは異なりますが、「地上デジタルテレビ放送の視聴環境」の普及率という意味では、実態は49.1%より高い数値になる可能性があるわけです。

ここで指摘したいことは「数字には含まれない市場(実態)が存在する」という点です。通信・web関連の分野では、このようなフレームから「はみだし」てしまうサービスや市場が特に最近増えています。

数字に表れない「はみだし」市場は、成長分野である可能性大

無視できないのは、こうした「はみだし」市場は、それが成長分野であり既存市場に大きな影響力を持つサービスである可能性が高いという点です。

たとえば、先般アメリカのSkype Technologies社から、「Skype」のiPhone3G/iPod touch向けアプリケーションがリリースされました。「Skype」はインターネット網につなぐことによって音声通話ができるアプリケーションです。iPod touchには携帯電話のような通話機能は付いていませんが、Wi-Fi環境があれば固定電話や携帯電話を利用しなくても音声通話ができるようになりました。

もちろん、音声だけではなくグループチャット機能を使い多人数間でリアルタイムコミュニケーションを取ることもできます。「Skype」が載ったiPod touchは、いわゆる「スマートフォン」と同等レベルの機能を持った端末と言えます。しかし、通信キャリアが提供する移動体通信サービスではないため、「国内スマートフォン市場」等といった統計には定量化されない可能性が高い。そもそも、国内市場というフレーム自体から「はみだし」てしまうでしょう。

また、オンラインゲームなどでは、webでの総合ポータルのいちサービスとして無料で提供されているものがありますが、それに関連したポータル事業売上高を「オンラインゲーム市場」に含めて算出するのは非常に困難です。ところが、今やモバイル向けを含め、ちょっとしたゲームを提供していないポータルサービスの方が少ないほどです。

その他にも、映像・音楽などのエンタテインメントやSNS・Blogなどのコミュニティ・メディアなど、特にコンシューマサービスの分野でこうした例は増えています。サービス自体はマネタイズされていないが、全体では大きな影響力がある(プロモーション的効果は高い)などというケースも少なくありません。

複雑化する競争環境-数字に表れない部分の影響力を俯瞰・予測することがより重要に

こうした「はみだし」市場の影響力が高くなってくると競争環境が変わります。したがって、プレイヤーの営業戦略・顧客獲得戦略も自ずと変化せざるをえなくなります。既存の業界・市場内でのシェア獲得などの、単純な「競合」戦略だけでは必要不十分になるわけです。
たとえば、通信事業分野では、FTTH事業者がIP放送サービスをCATV事業者との提携で提供したり、モバイルやワイヤレスサービスで提携したりと、競争環境の変化によって通信キャリアやベンダーとの「協業」事例が増えています。「キャリアの競合はキャリア」といった単純な構図も一部では崩れつつあるのが現状です。

競争環境の変化はサービスのボーダレス化につながります。
リビングにあるテレビがインターネットにつながれば、放送コンテンツを流すだけの端末ではなくなりますから、視聴率という指標で既存の放送局同士の比較をしてもそれだけでは実態が分かりにくくなってきます。その場合は、ユーザの可処分時間をどれだけ占めているか等、別の側面からの指標を用いて客観評価する必要もあるでしょう。同じように、ネットブックとスマートフォンと携帯型ゲーム機などは、一部の機能・サービスにおいては、それぞれすべてが競合していると言えます。

こうした競争環境の複雑化はさらに進む傾向にあります。一方で、既存の市場から「はみだし」た、いわば規格外の市場は定量化しにくいため影響力を数値で図ることが困難です。したがって、市場の実態を把握したい、成長市場への事業投資を検討したいと考えた時には、消費者調査や関連市場の定性動向を合わせて見るなどしてこうした数字に表れていない部分の影響力を俯瞰・予測していくことの重要性が、今後さらに高くなっていくと考えます。

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