矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2009.03.02

転換期をむかえた法人向けコミュニケーション市場

ビジネスにおけるコミュニケーションの変遷

かつて、ビジネスにおけるコミュニケーション手段は、書面(郵便や社内便)や電話、またはFAXが中心であった。その後、1990年代後半に電子メールや携帯電話の普及拡大によって、飛躍的に業務の効率化が進んだことにより、ビジネスにおいてもスピードが重要視されるようになった。
さらに、近年のブロードバンドアクセス回線の高速化・低価格化などによるインターネットの普及は目覚しく、IP電話システムや構内PHSなどの内線ソリューション、テレビ会議やWeb会議などの会議系システムや、グループウェアや社内SNSといった情報共有ツールなど、ビジネスの場におけるコミュニケーション手段は、多様化が進んでいる。
その一方で、日本の企業ではフェイストゥフェイスのコミュニケーションを重視するなど従来からのビジネス慣習が根強く残り、新しいコミュニケーションツール利用の拡大・定着には、時間がかかるとも指摘されている。

企業におけるコミュニケーションツール導入状況
-大手企業の需要は底堅いが、中長期的な市場拡大ペースは減速も懸念される

矢野経済研究所では、社内通信ネットワーク構築やインフラ導入に関する決済権者(選定および最終決済者)884名を対象に、コミュニケーションツール導入状況に関する調査を実施した(参考:レポートサマリ「業務上『コミュニケーションツール』導入に関する調査結果2008」)。その結果、上位に挙がった「グループウェア」「IP電話機」「IP電話システム」の導入率(全社および一部で導入済み)はいずれも4割を超え、検討中を加えると約6割の導入が見込まれることが分かった(図表1)。
それら上位3ツールにおける導入状況を、企業規模別(従業員数および売上高)に分析した結果、企業規模が大きいほど導入率が高く、規模が小さくなるに従って導入率が低下する傾向が見られた。とくに、従業員数500名以下または売上高500億円以下の企業規模から、低下傾向が顕著に見られた(図表2、図表3参照)。
さらに、今後の導入意向に関しても、高い意向を示しているのは大手企業であり、需要の底堅さが伺える。しかし、それらはここ2~3年の間でほぼ一巡してしまう短期的な需要であると想定されることから、中長期的な視点では、コミュニケーション市場拡大ペースの減速も懸念される。

図表1 コミュニケーションツール導入状況
図表1 コミュニケーションツール導入状況

矢野経済研究所作成

図表2 【従業員数別】主なツール導入状況
図表2 【従業員数別】主なツール導入状況

矢野経済研究所作成

図表3 【年間売上高別】主なツール導入状況
図表3 【年間売上高別】主なツール導入状況

市場活性化への期待が集まる「ユニファイドコミュニケーション」&「FMC」

そんななか、通信キャリアおよびアプリケーションベンダ各社では、従来から存在したアプリケーションを統合し、利便性を向上させることで新たな価値の提供を目指す「ユニファイドコミュニケーション」や、固定電話と携帯電話とを融合させた「FMC(Fixed Mobile Convergence)」サービスが、これからの法人コミュニケーション市場の活性化を担う救世主になるとして、高い期待を寄せている。
しかしながら、矢野経済研究所の調査では、両サービスの認知度は5割前後にとどまり、内容までを把握しているのは3割にも満たない低い水準となった(図表4)。
ユニファイドコミュニケーションに関しては、一部のアプリケーションでは大手企業を中心に高い導入意向が得られたが、中堅~中小企業からは「導入するメリットがわかりにくい」「イニシャルコストが高そう」「ランニングコストが高そう」など、導入にあたっての不安が多く挙げられた。
FMCサービスに関しても同様に、「ランニングコスト」「イニシャルコスト」などコスト面への不安が約4割を占め、「導入するメリットがわかりにくい」や「サービス内容が複雑でわかりにくい」との声も目立った。 

今後の市場の拡大に向け、ベンダーでは戦略の転換が求められる

これまで見てきたとおり、今後の法人コミュニケーション市場の拡大、特に「ユニファイドコミュニケーション」および「FMC」の普及拡大を実現するには、多くの課題が存在している。それらの課題を受け、サービスベンダー側では、ユーザセグメントおよびマーケット施策に関し、従来の戦略からの転換を検討しなければならない段階にさしかかっていると考える(図表5)。

【1】ターゲットユーザの転換
矢野経済研究所の調査では、現状の法人コミュニケーション市場において、企業規模が小さいほど、「検討はしたが、導入していない」比率が高い傾向が見られる。これは、少なくとも一度は導入に対する積極的意思もしくは検討する機会はあったものの、最終的には導入に至るだけのベネフィットが感じられないとユーザが判断した結果であると考えられる。
つまり、現状の多くのサービスは、大手企業での利用を想定して作られており、中小企業にとっては全く魅力が感じられないものとなっているのではないか、との仮説が考えられるのである。
ここ数年で、大手企業におけるIP電話等のコミュニケーションツール導入需要の一巡が見込まれる状況下では、市場の拡大に向けて今のうちにユーザの裾野を拡大しておくことが必要であり、導入率の低い中堅中小企業の取り込みに向けての取り組みを加速する必要がある。
そのためには、今後は、大手企業をターゲットと想定したものだけではなく、中堅中小企業にとってもベネフィットが感じられるよう、それぞれの企業規模に応じたセグメント別サービス開発が必要であると考える。

【2】マーケティング施策の転換
プロモーションについても、見直しが必要であると考える。
特にユニファイドコミュニケーションやFMCについては、現状では導入検討はおろか、サービスの存在さえ認知していないユーザも多いため、まずは認知度向上のための啓蒙活動が急務である。サービス情報や導入事例の積極的な開示はもちろん、実際にサービスに触れて慣れ親しんでもらうことによって、そのベネフィットをユーザに実感してもらうことが最優先であると考える。
そうした取り組み一つ一つの積み重ねが、ユーザが抱く「導入メリットが分かりにくい」や「コストが上がりそう」など漠然とした不安を取り除き、最低限の機会損失を防ぐことが可能になるであろう。
また、新しいコミュニケーション手段導入の動機として、目前のコスト削減を挙げるユーザは多く、それらの欲求に対するソリューションを提供し続けなければならないベンダー側の事情も理解はできる。しかしながら、ユーザのコスト削減への欲求には終わりがなく、今後もつねにその点だけでユーザを満足させ続けることは困難である。
今後、単にユーザニーズへの追従だけではなく、サービスベンダーとして、コミュニケーションにおける新しいベネフィットを常に提案・発信しつづけることが、市場拡大につながると考える。

【上】図表4 IT関連キーワードに関する認知度  【下】図表5 法人向けコミュニケーションにおけるユーザセグメントとマーケティング施策
 IT関連キーワードに関する認知度/法人向けコミュニケーションにおけるユーザセグメントとマーケティング施策

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