矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2015.03.25

起業家支援とは経営者支援

高まる起業意欲

近年、資金調達が容易になっていることやFacebookのような成功事例があることなどから起業に対する意欲が高まっている。弊社でも2014年12月に『クラウドファースト・モバイルファーストによるIT市場の変貌』を発刊したが予想以上の反応に起業に対する関心の高さを実感した。

しかし我が国の開業率は2012年に4.6%(中小企業庁『2014年版中小企業白書』)と欧米が10%前後であるのと比較すると低い水準となっている。同白書によると潜在的起業希望者が起業の準備に踏み切らない理由のひとつとして「事業、企業を立ち上げるための具体的な段取りや手続き(資金面含む)が分からない」(10.5%)が挙げられており、起業希望者が起業家になりやすい環境を整備するための取組が求められている。

上記取組のひとつとして、2015年4月1日に「東京開業ワンストップセンター」が開設される。当該センターは日本初の起業手続きに関するワンストップセンターで、起業する際に必要な登記や税務、年金、社会保険などの手続きを1カ所で行うことができる。また外国語での相談にも対応し、日本で開業を希望する外国人のサポートも行うという。これまで起業する際には複数の窓口での申請が必要であったが当該センターで完結できるようになることは起業家にとって起業家になりやすい環境の前進といえる。しかしこれだけでは不十分だろう。今回、起業支援サービスを提供するいくつかの企業に取材に行った。これらの企業は各々に強みや志を持って起業家を支援しているが共通するのは起業家(起業準備者)が経営者となった後以降も支援を続けていることである。手続きさえ整えば起業はできるが経営によって社会に何かを生み出すことこそが起業の本来の姿である。オフィスやオフィス用品、通信環境、売上を上げ続けていくための方策など経営者となってからも一定期間は既存企業などからの支援が必要である。本稿では、起業家、経営者を支援するいくつかの企業を紹介する。

起業をもっと身近に~ウェイビー

ウェイビーでは起業前、起業後を株式会社ウェイビーが、起業時をウェイビー行政書士法人が支援している。行政書士法人が手掛ける「会社設立代行PRO」では7営業日前後、45,000円で会社を設立できる(株式会社の場合/2015年2月現在)。

【図表:ウェイビーのサービス構成】
【図表:ウェイビーのサービス構成】

矢野経済研究所作成

同グループは起業家を志す者の集い、「TERACOYA」をきっかけにメディアでも数多く取り上げられている。同イベントは起業する勇気をもってもらいたい、起業をもっと身近に感じて欲しいという想いから企画された。当該イベントでは起業家マインドやノウハウの他、人脈も手にいれることができるイベントとなっており1イベントあたり500名以上が参加している。

同グループは成功する起業を増やすため、開業率は上げつつ廃業率を下げるようなビジネスを展開している。そのひとつがWEBマーケティング事業で、起業後の売上向上に貢献している。同グループ自身、WEBに強みを持ち成長しているため集客し続けるサイト制作のためのノウハウを豊富に持つ。そのため、当該事業はコミット型を採用し価格を上回る価値を顧客に約束している。同グループは新サービスの展開にも意欲的である。デジタルネイティブな世代が行う起業支援はこれからも顧客に後悔をさせない新しい展開を見せてくれることだろう。

経営者としての将来も見据える~ビジネスバンクグループ

ビジネスバンクグループが提供する起業支援サービス「起業準備.com」(起業to Go)は起業時の不安・手間・コストを解消し、起業の成功率を高めることを目的のひとつとしている。同サービスは同社経営陣の起業時における経験や起業支援で培ったノウハウをベースにしており、法人登記や名刺作成など15のサービスから構成される。同社はこうしたサービスの提供により起業家が最も欲する起業時の支援を総合的に行っている。

【図表:起業準備.comのサービス構成】
【図表:起業準備.comのサービス構成】

矢野経済研究所作成

同社は経済活動の活性化のためにも「日本の開業率を10%に引き上げます!」をミッションに掲げているが、一方では開業率を上回る廃業率に対し懸念を抱く。そのため同社は起業後の継続率向上に繋がる取り組みにも注力している。そのひとつが「PRESIDENT ACADEMY(プレジデントアカデミー)」である。プレジデントアカデミーは経営における正しい知識や技術を体系的に学び、経営力を高め続けていく会員制プログラムである。2009年に開講し、参加者の延べ人数は1万人を超えた。当プログラムでは起業家だけではなく経営者のサポートも行い、成功し続ける経営者になるための学びの場となっている。これは起業家のニーズのひとつである“如何にして売上を上げ続けるか”に繋がるもので、経営者の行動に変革をもたらす一助となっている。起業家の目的は起業することではなく、世の中に価値を提供し続けること(=経営)にあるはずだ。とすれば起業家から経営者までサポートするプラットフォームも提供する同社のサービスは起業を志す者にとって心強いものとなるだろう。

挑戦者求ム!~プロジェクトニッポン

株式会社プロジェクトニッポンが提供する起業支援プラットフォーム「DREAM GATE」はWebサービス(気軽に無料で使える便利なツールやコンテンツ提供)、教育(起業に必要な知識やスキルを学べる場の提供)、イベント(起業マインドの醸成、世の中への周知)の3つを軸に、起業の専門家への相談サービス、起業セミナー、融資の窓口など様々なサービスで、起業家や経営者を支援している。

「DREAM GATE」は2003年に国家プロジェクトとしてスタートした。プロジェクトは3年間で満了を迎えたが、起業支援の場を残しておきたいというニーズが業界などからあがり、同社が事業を継承することとなった。

【図表:DREAM GATE 起業支援プラットフォーム概要図】
【図表:DREAM GATE 起業支援プラットフォーム概要図】

出所:株式会社プロジェクトニッポン

同社が提供するサービスの強みのひとつはDREAM GATEアドバイザーと呼ばれる専門家の存在である。ユーザーが起業や経営に関する質問をWeb経由で行うと質問内容に回答するに相応しいアドバイザーが豊富な経験に基づき回答を返すサービスを提供している。アドバイザーになるためには所定の審査をクリアする必要があり、DREAM GATEでアドバイザーをしていることが専門家にとってのブランドのひとつにもなっている。

同プラットフォームには無料で提供されているサービスも多く、例えば会社設立や契約書作成などを支援するサービス「SmaBI」では様々な書類のフォームが用意されている。同サービスで提供されている会社設立キットは会社設立に必要な全13書類を無料で作成することができる。また契約書作成ツールは変えてはいけない文言と変える必要がある文言の区別を容易にするため質問形式を採用しており、質問に回答することで契約書が完成する仕組みとなっている。同社はこのように起業が容易になるツールを無料で提供し自社のサービスを使い倒してもらうことで起業に挑戦する人材の増加に貢献しようとしている。

他方では廃業率の高さに懸念を抱き、起業家が経営者となってからも支援できる体制を整えるなど長期にわたり顧客をサポートしている。専門家を身近に感じることができる同社のサービスは確かに起業家を増やしていくだろう。

小山博子

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小山 博子(コヤマ ヒロコ) 主任研究員
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