矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2009.02.24

急成長するサイト売買市場

多方面から注目を集めるサイト売買ビジネス

サイト売買ビジネスは、現在多方面から注目を集めている新しいビジネスモデルである。昨今市場では、株式譲渡を起点としたさまざまな金融商品や取引形態が発達し、企業買収や事業譲渡などが頻繁に行なわれている。
従来よりサイト売買は、これらの企業買収や事業譲渡の取引内容の一部として存在していたが、こうしたサイトは事業売却後、譲受企業の経営方針に基づいて改変または破棄されることが多く、サイト単体で付加価値を認め売却額の査定基準を明示するケースは稀であった。

昨今の「サイト売買市場」では、どんなに小規模なサイトでも、売り手の提示する売却価格や仲介業者がサイトを査定し、買い手は容易にサイトのみを購入することができる。これが従来の事業譲渡に付随するサイト売買との大きな違いである。
あらゆる業界でロングテールが示唆される昨今、中小企業のM&Aの一種として、より広範に、より低価格かつ簡便に取引できるサービスが提案されており、この潮流に伴って「サイト売買」という言葉も社会的に浸透し始めている。

サイト売買仲介には2つのパターンがある

サイト売買の業務内容については、現在、サイト売買を最初から最後まで手厚く仲介する「従来型」と、サイト売買の情報掲載サービスが中心で、売り手・買い手両者のマッチングをおもな目的とする「マッチング型」の2パターンがある。
それぞれについて、簡単な定義および最近の動向などについて、以下に触れておく。

【サイト売買パターン:1】 最初から最後まで手厚く仲介する「従来型」
従来型の事業譲渡のように、サイトの売り手と買い手の取引について、最初から最後まで手厚く仲介するパターン。このパターンの取引については、従来のM&A業務との境界線が難しい部分もあり、いまだ概念設定に異論を挟む声もある。
記憶に新しいGoogleのYouTube買収などについても、双方は紛れもなくウェブサイトの媒体であるが、このような人的資源や複雑かつ大規模な事業構成を取引するケースについて、サイト売買という表現は一面的で適当でないなど、さまざまな見解が表出している。
しかしこのような事例こそがウェブサイトに資産価値や事業資源としての価値評価が認められている事実を裏付けるものである。
サイト売買と事業譲渡の切り分けが難しいとしても、企業買収や事業譲渡の過程にはサイトを査定するという行為がある。GoogleのYouTube買収に代表される大規模な取引は、サイト売買を「内在」しているといえる。
 
【サイト売買パターン:2】 情報掲載サービスを運営する「マッチング型」
こちらのサービスを提供する事業者は、情報提供業者ともたとえられ、売り手と買い手のマッチングまでを目標としているケースが多い。売り手と買い手の契約に対する介入についても、事業者ごとに程度の差異がある。
取引への参加者は、従来M&Aとは無縁であった中小企業や、果ては個人に到るまで、売り手、買い手の双方ともに多岐にわたる。事業譲渡との切り分けについても、極限までサイトのみの販売に限定する案件もあり、ノウハウやバックリンクなど、トラブルを避けるために必要最低限のオペレーションは含みつつも、文字通りサイト売買に徹底する取引形態が増えつつある。
とくに昨今、このパターンに該当するサービスがサイト売買の裾野を押し広げており、今後の拡大が期待されている。

サイト売買市場のおもなプレイヤーとその特徴

サイト売買市場には現在、大別して「ウェブ制作を生業としている企業」「M&Aなどの事業譲渡仲介を専業としている企業」「マーケティング・広告業界の企業」の3タイプのプレイヤーが参入している。以下、それぞれについて、サイト売買市場への参入メリットおよび特徴/サイト査定の視点について解説していく。

【サイト売買プレイヤー:1】 ウェブ制作関連企業
◆参入メリット、特徴:ウェブ制作関連企業は、サイト売買という言葉のない時代から、M&Aや事業譲渡に伴うサイト移譲を仲介してきたキャリアとノウハウがあり、現時点でのサイト売買ビジネスの実情もよくわかっている。
◆サイト査定の視点:営業利益を見る点については一般的であるが、とくに他の業界からのプレイヤーと違うポイントとして、サイトの制作価値、具体的にはデザインやシステムを見る点が挙げられる。そのフィルターを通してビジネスモデルやコンテンツの価値を判断し、小規模のサイトでも、構造や骨組みがしっかりしていれば比較的高く評価する傾向にある。
 
【サイト売買プレイヤー:2】 事業譲渡仲介企業
◆参入メリット、特徴:昨今のECの肥大化に伴い、サイトの事業資産価値査定は、M&Aなどを手がける事業譲渡仲介企業にとって急務となっている。サイト売買における事業譲渡仲介企業の優位点としては、とくに大規模なサイト売買において、法務および財務の部分で万全な取引を仲介することができる点が挙げられる。
◆サイト査定の視点:事業譲渡仲介企業は、自社のノウハウを徹底的に利用し、営業利益を精細に見る。ページビューは売上より重要性の低い要素としてみている場合も多く、会員数の大規模なサイトでも、売上を解析すれば実質の会員は少ない、というようなリスクに注意して査定する傾向が見られる。
 
【サイト売買プレイヤー:3】 マーケティング・広告関連企業
◆参入メリット、特徴:マーケティング・広告関連企業にとって、サイト売買ビジネスへの参入は、従来の取引先および新規の顧客と新しい切り口で取引できるというメリットがある。さらに売れ筋サイトなどのトレンドをバックヤードから綿密に計測することが可能である。マーケティングのノウハウおよびケーススタディを蓄積できる点で、既存業務との相乗効果が大きい。
◆サイト査定の視点:デザインやシステム、プログラムやソースコードといった部分はまったく評価基準と見なさない、と明言する企業が少なくない。あくまでマーケティング資産としての価値を計上する査定を行ない、具体的にはPVやユーザー数を重視する。M&Aなど事業譲渡の仲介を行なう企業ほどに売上を重視しない。

サイト売買ビジネスにおけるサイトの査定基準は、サイト売買ビジネス参入プレイヤーのノウハウの蓄積に応じて、シビアかつ具体的な指標が設定され続けており、今後もこの傾向は続くと考えられる。ただしこれはもっとも新しいサイト売買に類する取引についてであり、近年増え続けている低額案件の自動化を目標とした流れに則している。
従来のM&Aなど事業譲渡の仲介をする企業については、これまでどおり査定基準を公開するなどの予定はなく、法務および財務に特化した事業評価を行なっていくとしている。

サイト売買市場における課題問題点-浮かび上がる3つの課題

【サイト売買市場の課題:1】 買い手の利益が損なわれがちである
昨今のサイト売買ビジネス市場においては、買い手の利益が損なわれている現状に対する危機感が高まっている。買い手はウェブサイト全般に対する知見を具備していないと損害を被る可能性が高く、契約がひとまず成功したとしても、その後に利益を得ることが難しい。サイト売買市場の信用の構築には、買い手の成功例がより必要であると考えられる。
そのためにサイト売買ビジネス参入企業各社がすべきことは多数存在する。まずは、買い手や売り手に対する普及啓蒙活動である。
ウェブは不動産と違う、ということを正確にアナウンスする必要があり、現在のサイト売買査定基準が不動産と似通っている現状においては、なおさらこのことの周知徹底が必要となってくる。
ウェブはあくまで無形資産であり、サイト売買ビジネスは未知のサービスなので、不動産取引よりもトラブルが多い、ということを包み隠さず公言しなければならない。
また、サイトはモノではなく、運営能力で価値が変わってくる。買い手のマインドの高まりや、意欲の向上を啓蒙することが課題である。
 
【サイト売買市場の課題:2】 サイトの適正評価がされていない
参入企業各社がさまざまな評価基準を持ってサイトを査定しているため、同じサイトが仲介サイトごとに違う売買金額で提示されている。これではサービス利用者が混乱し、その結果サイト売買市場から離れてしまう。
ただでさえ、サイト売買ビジネスには不透明な要素が多い。業界ルールがなく、法的整備が現状ないに等しいため、あらゆる不当行為や不法行為がまかり通っている。
具体的には、仲介業者自身が自社の事業資源とするため売却サイトを買い叩いて公平に査定しないケースや、小額案件における無責任な放任主義に起因したトラブルの増加、実態のないサイト売買事業者によるサイト売買市場のかく乱などがある。
 
【サイト売買市場の課題:3】 構造的に薄利である
サイト売買ビジネスは構造的に、マッチングやアフターフォローなどを誠実に行なうほどに、手間に対して極端に薄利なビジネスとなっていく点も問題である。人材の育成、売買に関わる法務、財務の専門家など、手間はかけようと思えばどこまでも続く。

上の3つのの課題問題点を受けて、サイト売買市場では独立した第三者機関の必要性が高まっており、各所でサイト売買ビジネスにおける業界ルール策定を目的とした協会が設立されている。今後はこれら協会の具体的なアクションが期待されている。

サイト売買取引(ビジネス )市場規模推移
サイト売買取引(ビジネス )市場規模推移

矢野経済研究所推計

2007年度カテゴリー別市場規模
2007年度カテゴリー別市場規模

矢野経済研究所推計

カテゴリー別平均単価と各市場規模の変化(概念図)
カテゴリー別平均単価と各市場規模の変化(概念図)

矢野経済研究所が取材をもとに作成

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