矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2014.11.06

これが専用端末の生きる道 ~問われているその存在意義

ハンディターミナル市場はなぜ底堅いのか

電子書籍端末、デジタルカメラ、携帯音楽プレーヤー、家庭用ゲーム機器といった、いわゆる「専用端末」市場の多くは縮小傾向にあり、参入メーカーの退出も続いている。いずれもスマートフォン(高機能携帯電話)やタブレットなど「スマートデバイス」の急速な普及が大きく影響しているとされる。

弊社では、定期的にハンディターミナル市場に関する調査レポートを刊行しており、先日最新版(「2014年 ハンディターミナル/業務用タブレット市場の動向と展望」)を発刊した。

ハンディターミナルとは、主に業務用またはFA用で使用するハンディサイズのデータ収集に特化した専用端末である。主な装備は、バーコードスキャナやプリンタ、タッチパネル式ディスプレイなどであり、近年は無線通信機能(Wi-FiおよびBluetooth)が搭載された機種が主流になっている。
ハンディターミナル市場は、特定業種におけるリプレース需要に支えられた成熟市場であり、数年前から他の専用端末と同様にスマートデバイスの影響が危惧され続けている。
しかしながら、詳細な数値は控えるが、最新の調査結果においてもハンディターミナルの出荷台数は横這いを維持し、スマートデバイスの影響は今までのところは杞憂に終わっている。さらにユーザー調査の結果でも「今後もハンディターミナルを使い続ける」との意見が多く聞かれている。

他の専用端末とは異なり、ハンディターミナル市場が堅調な理由はどこにあるのだろうか。
確かに、堅牢性、業務に使い易い、基幹業務システムとリンクしているため変えられない・・・など業務用端末とコンシューマ用端末という大きな違いはあるが、それ以上に専用端末が生き残るための重要なヒントが隠されている。
今回、ハンディターミナルと同様に、スマートデバイスの攻勢に屈することなく健闘している2つの専用端末「アクションカメラ」と「従来型携帯電話(以下、フィーチャーフォン)」の事例も用いて検証していきたい。

スマートデバイスに立ち向かう専用機

ここ数年、急速に市場が縮小しているデジタルカメラ/デジタルビデオカメラ。
弊社調べでは、グローバル市場における2013年の出荷台数は9,402万台で、2012年実績の1億1,535万台を大きく下回った。2014年には8,850万台と今後も減少傾向は続くと見込んでいる。
このよう中で、拡大を続けているのが「アクションカメラ市場」である。
アクションカメラとは、人体や自転車・オートバイ、自動車のダッシュボード上に装着して使用することを目的に開発され、既存のデジタルカメラやスマートフォンでは不可能だった撮影を可能にするのが最大の特徴である。
グローバルにおける2013年のアクションカメラ出荷台数は530万台で、2012年実績285万台を大きく上回った。さらに2014年には850万台にまで拡大する見通しとなっている。今後も先進国を中心に世界各国へ普及が進み、2017年の出荷台数は1,950万台に達すると予測されている。(参考「2014年版 スマートフォン連携サービス・機器・NFC市場展望」)

また、フィーチャーフォンも、スマートフォンとの対比においては音声電話やEメールなどの「コミュニケーション機能に特化した専用端末」と捉えられる。
同社調べでは、2013 年度の国内市場におけるハンドセット(フィーチャーフォン+スマートフォン)の出荷台数は3,353万5,000 台で、2014年は3,220万台を見込む。
そのうち、スマートフォン出荷台数は2013 年度で2,873万5,000 台、2014年度は2,824万台を見込む。一方のフィーチャーフォンは、2013年度480万台(ハンドセット全体の14.3%)となり、2014年度も396万台(同12.3%)が見込まれる。
この「14.3%」、「12.3%」という数値をどう捉えるかは意見が分かれるところであろうが、スマートフォンの普及が進んでいる陰で、フィーチャーフォンが根強い需要を維持していると筆者は評価している。
また、総務省「平成26年版 情報通信白書」によると、国内のフィーチャーフォン保有率は28.7%であり、米国、英国や韓国などの世界6カ国の中でも最も高いとされる。背景には高齢者を中心に依然として利用者が多いことが挙げられ、ここからも絶対数こそ多くはないものの、依然としてフィーチャーフォンを求める一定の層が存在することが分かる。

キーワードは、「ニーズの明確化」と「特化した機能」

これら2つの事例から見えてくる共通項は、「明確なニーズ」の存在とそのニーズを満たすために最低限必要な「特化した機能」を備えているという点である。

現在でこそ、アクションカメラ市場はJVCケンウッド、ソニー、パナソニックなど国内メーカーの参入によって拡大を続けているが、その火付け役となったのは米国のベンチャー企業が開発した「GoPro」であるとされる。
このGoProは、広角レンズで動画と写真が撮影可能というシンプルな機能しか備えておらず、撮影画像を確認する液晶モニターすら標準装備していない。モータースポーツやサーフィン、自転車といったアウトドアスポーツを楽しむ人々にターゲットを絞り込んだ製品であり、基本機能は必要最低限に抑え、ユーザーの用途に合わせて防水・防塵用のケースやさまざまな場所に設置するためのアクセサリーなどをオプションとして準備している。これは、手軽に自分自身を撮影し、動画共有サイトやSNSで共有したいというユーザー層のニーズに特化した戦略である。
一方、スマートフォンが主流となるなか、実は毎年フィーチャーフォンの新機種も発売され続けている。
フィーチャーフォン利用者がよく使う機能は、「通話機能」と「メール機能」と「カメラ機能」とされ、シンプルな機能と使いやすさが固定層の支持を獲得しており、一度はスマートフォンに移行したが、フィーチャーフォンに逆戻りする層も少なくないとされている。さらに、利用スタイルに合わせた割安な料金体系も高く評価されている。
そのような中で、国内メーカー各社はフィーチャーフォンユーザーの細かいニーズに合わせた商品を投入し続けている。フィーチャーフォンの機能的特徴は「端末の薄さ」や「ボタン操作のしやすさ」「電池の持ち時間の長さ」などであり、高機能・高性能化を競うスマートフォンとは一線を画して、シンプルな機能と低価格路線へとシフトしている。

ここで注目したいのは、いずれの事例もスマートデバイスの攻勢を受けつつも、ユーザーの本質的ニーズを探し出し、そのニーズに対して最適な機能を提供している点である。
デジタルカメラ/デジタルビデオカメラ市場が不振に陥っているが、むしろ以前にも増して気軽に動画を撮影して、動画共有サイトやSNSに投稿するという楽しみ方は増えている。つまり、「自分で画像や動画を撮影するというニーズ」がなくなった訳ではない。
また、フィーチャーフォンに一定の利用者層が存在するのも、通話や電子メールなど「コミュニケーションに対するニーズ」が存在しており、その点のみを重視するユーザーに対しては機能的に優れるスマートフォンよりも高い満足度を提供できていることを示していると考えられる。

専用端末とは、本来はユーザーニーズに対して、特化した機能を提供することで発展してきたものであり、そこに存在意義があるものと考える。
冒頭に挙げたハンディターミナルの本質は、バーコードを読み込んで業務を効率化したいというニーズに対して、「読み取り機能(スキャン機能)」と「堅牢性」を提供している点にあり、この点こそがスマートデバイスとの差別化を実現し、既存ユーザーを離さない要因となっているのである。
他の専用端末も、販売不振の理由を「スマートデバイスの普及」にだけ求めることなく、ここはひとつ原点回帰して、ユーザーの声に耳を傾け、スマートデバイスの追従ではない専用端末ならではの機能を提供することで、改めてその存在意義をユーザーに問うてみてはいかがだろうか。
ユーザーが専用端末を選択するか、汎用的なスマートデバイスを選択するかは、あくまで結果に過ぎない。彼らは自らが満たしたいニーズに対し、最適な形で機能を提供してくるものを選択するのみである。

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