矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2014.10.15

ロボットに期待

2014年9月現在、日本の総人口は約1億2,700万人(総務省統計局の概算値)。国立社会保障・人口問題研究所の予測では、総人口は2040年に約1億700万人、2060年には約8,700万人に減少するとしている(出生中位・死亡中位での推計値)。
加えて日本は、世界でも類まれなスピードで高齢化が進行している。現在、日本の高齢化率(65歳以上人口比率)は25%を超えており、世界トップクラスの高齢社会に突入している。将来、これがさらに進展して、2040年の高齢化率は約36%、2060年では約40%に達するとの予測が出ている。
この予測が意味するものは日本社会の縮小であり、経済規模だけではなく、行政サービスや地域社会も縮小する。一例としては、現在の生産性(1人あたりのGDP)を維持したまま2060年を迎えたとすれば、日本の経済規模はほぼ半減することになる。

日本政府では、2014年9月に「ロボット革命実現会議」を開催し、ロボット活用による産業振興、生産性向上、人材減少への代替措置といった人口減社会に対応した施策を打ち出した。人口減社会への対策としては、女性や高齢者、外国人活用といった流れもあるが、選択肢としてのロボット活用の強化は不可避であろうし、個人的には最もポテンシャルの高い選択肢と考える。

ここで日本におけるロボット開発の実態はどうだろうか。
個々の企業では素晴らしい成果を出しているところは多い。特に人型ロボットでは、世界の先端を走っている。また大学でも、世界トップレベルの研究実績を残しているところが多々ある。しかし一方で、危惧を抱かざるを得ない動きも見られる。
2013年12月、米国で行なわれた災害対応ロボットコンテスト(米国防省DARPA主催)において、東大OBが母体となっているベンチャー企業「SCHAFT」がトップになった。このニュースはTVや新聞でも大きく取り上げられたが、同社は米グーグル社に買収されている。また2014年4月に米オバマ大統領が来日した際には、日本科学未来館を訪問して「SCHAFT」のスタッフと会っている。
グーグルに買収された注目企業とは言え、小さなベンチャー企業を米国政府が注目している様を物語る出来事として、特記すべきである。
グーグルは「グーグルカー」とも称される自動運転カーを開発し、自動車業界に衝撃を与えた。グーグルカーはある意味でロボットであり、同じ文脈で見ると、グーグルによるロボット分野でのM&Aへの積極姿勢も得心がいく(既に複数のM&Aが成立)。つまりグーグルは、ロボットを次世代の成長エンジン/ターゲットにしていることが伺える。さらにオバマ大統領の行動を見ると、アメリカは着々とロボット技術の集積、強化に乗り出している様子が伺える。

一方、日本におけるロボット政策はどうだろうか?
前述した「SCHAFT」の例でも明らかなように、日本の大学の頂点に立つ東大といえども、ロボット開発環境は容易ではない状況にあることを示唆している。特に予算面での制約は大きく、この件においては大学や行政、関連企業、投資ファンドといった開発資金を用意すべき組織が機能しなかった事は誠に残念である。個人的には、日本のベンチャーキャピタリストの失点であると思う。
一方で、新たなロボットビジネスの隆盛を予感させる動きもある。2014年3月、介護・福祉向けロボット開発ベンチャー「サイバーダイン」が東証マザーズに上場。初日は、公募価格の3,700円を大きく上回る終値9,600円であった。この証券市場の動きは、マーケットが‘ロボット’に対する大きな期待を持っていることを示唆している。投資ファンドや行政の動きよりも、マーケットが先んじているのだ。
「サイバーダイン」は筑波大学発ベンチャーで、そこで開発したロボットスーツ「HAL(装着型ロボット)」は、以前からテレビや雑誌、新聞等で取り上げられ、大きな注目を集めている。そしてロボットスーツ「HAL」は、欧州では既に医療機器としての認証を取得しており、大きな反響を呼んでいる。さらに米国やアジア地域でも、医療機器としての認証取得に向けた準備が進んでいる。
しかし日本では、医療・福祉関連施設での導入は進むものの、医療機器認証に関しては実証実験や治験に向けた取り組みが進んでいる段階で、本格的な医療機器としての展開は先になる。このように、欧米やアジア諸国に比べたスピード感の違いは、門外漢としても歯がゆい思いがある。

「CEATEC JAPAN 2014」で出展企業数が過去最低を記録する等、かつては日本のお家芸であった家電やエレクトロニクス分野の地盤沈下が顕在化するなか、依然として相対的に高い技術力・競争力を持つロボット分野は、将来的に大きな成長が期待できるカテゴリーの一つである。極論すると、自動車と双璧をなすとも考えられる。
工場などで普及している産業用ロボットだけではなく、アイボ(ソニー)やアシモ(ホンダ)で世界をリードしてきた日本のロボット技術を適正に評価し、それを将来に向けたエンジンとして発展させていくことは、日本が目指す成長戦略の柱とすべきである。
ロボット産業発展のためには、行政、産業界、大学に加えて、投資サイドのスキルアップも重要である。将来社会や技術への目利きを磨いて欲しいと思う。
家庭用、業務用、産業用といった各カテゴリーにおいて、日本のロボット技術/ロボット産業が担うべき役割は大きく広がっている。このチャンスを見逃さずに、大きく飛躍して欲しいと考える。

早川泰弘

早川 泰弘(ハヤカワ ヤスヒロ) 主任研究員
産業調査/マーケティング業務は、「机上ではなく、現場を回ることで本当のニーズ、本当の情報、本当の回答」が見つかるとの信念のもと、関係者各位との緊密な関係構築に努めていきます。日々勉強と研鑽を積みながら、IT業界の発展に資する情報発信を目指していきます。

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