矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2014.07.16

情報過多の時代に輝くキュレーションサービス

インターネットがもたらした恩恵と弊害

インターネットの登場によって多くの情報が手軽に取得できるようになった。検索エンジンに関心のあるワードを入力すれば、関連する情報が何万件と出てくる。このように、情報量が豊富であることは便利なようにも思えるが、実際は、本当に必要な情報を探すのが困難なケースもある。総務省が発表している調査では、流通情報量が年々増えているのにもかかわらず、個人が取得できる消費情報量は低下傾向にある。このことは、世の中に出回る情報を個人が網羅するのに限界が来ていることを示唆している。また情報提供者側からしても、自ら発信した良質なコンテンツが膨大な情報量に埋もれてしまうことは不本意なことである。

このような情報過多によって引き起こされる弊害を解決してくれるのがキュレーションサービスだ。キュレーションサービスとは「目的や意図を持って情報収集して、そこから不要なものを切り捨てて、人々の関心・興味を新たに喚起する形式で集約化し、共有するサービス」を示す。

「キュレーション」とはバズワードの一種とも言え、その概念は曖昧だ。従来から情報流路の一つとしてある【新聞記者が様々な場から情報を集めて分かりやすい記事に加工して世の中に提供すること】も、「キュレーション」の概念とほぼ同義だ。しかし、近年、「キュレーション」と言われているサービスが持つ意味合いとして従来の概念とは異なるのは、基本的に【加工するソース元は外部の1次コンテンツであり、まとめる作業がWeb上に移行した点】であろう。

キュレーションサービスの種類は様々で、散在するニュース情報をまとめるニュース配信や雑誌のようなスタイルをとっているキュレーションマガジンなどの「情報系キュレーションサービス」、専門家が選ぶ商品のみを扱うような「キュレーション型EC」、その他「コンサル・プラットフォーム構築」等がある。キュレーションサービスは移動時間や休憩時間等の短い合間に効率よく情報を取得できる点が魅力であり、情報過多となっている現代において、そのニーズは更に高まっていくと予想する。

【図表:キュレーションサービスの市場規模推移予測】
【図表:キュレーションサービスの市場規模推移予測】

矢野経済研究所推計
注:事業者売上高ベース
注:2013年度は見込値、2014年度以降は予測値
注:「NAVERまとめ」や「Gunosy」、「SmartNews」、「NewsPicks」、「Antenna」などユーザーを集めて広告・課金収入等で運営する情報系サービスや、「Origami」や「HATCH」などEC(電子商取引)の手数料・物品販売収入で運営するECサービス、キュレーションサービス機能を提供するプラットフォーム構築やキュレーションサービス展開のためのコンサルティングで収入を得るサービス等を対象として、市場規模を算出した。

様々な企業で活用できるキュレーションサービス

情報系キュレーションサービスの特性として、コンテンツがユーザーの興味・関心を得やすい形式で発信されていることから大きなトラフィックを得やすい点が挙げられる。中でも映像・画像に特化しているバイラルメディアは、SNS上で拡散されやすいコンテンツを扱っている点が魅力的だ。このような特長を持つキュレーションサービスは広告に活用しやすい。ニュース配信しているニュースアプリ事業者やライフスタイルにまつわる情報発信をしているキュレーションマガジン等の売上の大半は広告収入となっている。特にネイティブ広告を手掛けている事業者が多く、広告を発注する企業は効果的なマーケティングを行うことが可能だ。
メディア業界にとっても、情報系キュレーションサービス事業者と提携していくことで、自社コンテンツのPV数向上につながる可能性が高い。基本的にキュレーションサービス事業者が他社のコンテンツを扱う場合には、一部のみをキュレーションサービス上に掲載して、全文を読むためには、そのコンテンツを提供しているメディアのサイトに移行しなければならない仕組みになっているためである。更に、キュレーションサービスの中には、ユーザーのコメント機能を持つものもあり、情報がリベラルな状態で発信されやすいため、1次コンテンツに付加価値をつけることができているものが多い。

一方、キュレーション型ECはコンバージョンを取りやすいというメリットがある。特にSNSと連動しているようなキュレーション型ECであれば、ユーザーの趣味・嗜好に関する情報を取得しやすいため、より効果的にマーケティングを行うことが可能だ。近年では、百貨店等の小売業が、このようなキュレーション型ECのユーザーをリアル店舗に流そうとして、キュレーション型EC事業者と提携することでO2Oマーケティングを手掛けるケースもある。

その他、キュレーションサービスの特長として良質なコンテンツを膨大な情報量から掘り起こす機能を持つ点が挙げられる。ビッグデータの活用の在り方が問われる中、このような特長を持つキュレーションサービスが全自動で提供されるようになれば、ビッグデータ分析における、そのニーズの潜在性は大きい。このようなキュレーション型のプラットフォームが構築されれば、業界を問わずにキュレーションサービスを活用していく流れになるだろう。

キュレーションサービス市場の今後

情報系キュレーションサービス事業者の大半は、近年になって、ようやくマネタイズに着手し始めた。その背景にはユーザーのトラフィック獲得が軌道に乗り出したことにある。キュレーションサービスは小さい投資で大きなトラフィックを作れる点が魅力となっているが、マネタイズの視点から見るとそう単純に上手くいくビジネスとは言えない。マネタイズが前面に出た途端、それまでキュレーションサービスに魅力を感じていたはずのユーザーが離れていく危険性があるためだ。故に、ユーザーからマネタイズをするのではなく、広告収入等のB to Bビジネスでマネタイズに取り組んでいる事業者が多い。
しかし、特に情報系キュレーションサービスは、広告収入だけでは今後の収益を上げていくことは難しいだろう。情報系キュレーションサービスはメディアから1次コンテンツを提供してもらうことで成り立つビジネスであり、従来メディアが保持してきた広告収入のパイを取り続けるわけにもいかないためだ。

一方、キュレーション型ECであれば、ユーザーが購入に至るまでの確固たる導線が引かれていれば、事業開始後間のない段階でマネタイズしていくことも可能だ。最近では、情報系キュレーションサービス事業者の中でもキュレーション型ECに乗り出す企業が出てきた。それは、情報系キュレーションサービスの扱うコンテンツはユーザーの興味・関心に訴求する内容が多く、特にモノに関するコンテンツでは購買意欲を掻き立てることが可能なためである。情報系キュレーションサービスを利用するユーザー側からも、コンテンツを見て興味を持ったモノをすぐに購入したいという声があるため、今後もこのような流れは増えていくだろう。
また、情報系キュレーションサービス事業者の中には、広告収入が伸び悩むことを見込み、課金の導入をしている事業者もいる。ただし、課金をするからには、他の情報系キュレーションサービス事業者と差別化されている尖ったコンセプトを持っている必要がある。
このような情報系キュレーションサービス提供事業者の動きを見てもわかるように、キュレーションサービス市場はキュレーションサービス提供事業者の派生的な事業拡大によって市場自体も拡大していくことだろう。

キュレーションは一種のバズワードでもある。しかし、情報量の増加が続く限り、この概念に対するニーズは消えることはない。たとえ「キュレーション」という言葉に変化が生じたとしても、この概念に対するニーズは今後も高まっていくことだろう。今後もキュレーション市場の動向に注目したい。

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