矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2014.01.06

クラウド~CloudとCrowd~

クラウドと言えば

「クラウド」と言えばIT業界の多くの人が雲を意味する【Cloud】を思い浮かべるだろう。つまり、コンピューターで行う業務をインターネット上で処理する利用形態のことを一般的に示す。
しかし、昨今では同じ「クラウド」でも群衆を意味する【Crowd】というワードも多く見かけるようになってきた。「クラウドソーシング(crowdsourcing)」と「クラウドファンディング(crowd funding)」である。前者はインターネットを介在として不特定多数の労働者と企業等のビジネスマッチングを図るサービスを示し、後者はインターネットを介在として不特定多数の人々からビジネスを行うための財源の提供や協力を図るサービスを示す。

両者とも共通して言えるのはインターネットを介在としており、働き方に大きな影響を与えられるサービスであることだ。例えば、クラウドソーシングであれば、距離と時間を選ばずに働ける環境を提供することでき、地方在住の人々やシニア層、主婦等、これまで労働力として活用されることが少なかった人々にも働く機会を与えている。クラウドファンディングであれば、起業や政治運動、アーティストの支援、映画製作等、様々なプロジェクトをサポートするサービスとなっており、起業のチャンスを増やすことが出来る。
どちらも手軽さが魅力であるが、一方ではコスト競争を激化させ、労働者や企業の持つ実力の真価を露わにしてしまうサービスとも捉えられる。というのも今までは仲介業者が介在してきたものをインターネットに代用してコストを下げるため、低価格化につながる可能性がある。また、クラウドソーシングであればビジネスを担う不特定多数の中で仕事をもらえる人とそうでない人の格差は出てくるであろうし、クラウドファンディングであればビジネス等新規プロジェクトに対する不特定多数からの評価が集まる資金の額に格差が現れやすくなるであろう。

日本国内におけるクラウドソーシングの現状

ここでは2013年8月に協議会が発足されたクラウドソーシング市場に焦点をあてて現状を見ていきたい。クラウドソーシング市場はBPO市場にも、「価格破壊」「中抜き」「大口案件の減少」などといった芳しくない影響を与える可能性のあるサービスと言えるが(「BPO事業者はクラウドソーシング市場を注視せよ!」参照)、弊社が推計する市場規模は下記の図の通り、2013年度時点で990百万円となっており、BPO市場の3,426,638百万円と比べて圧倒的に小さく微々たるものになっている。

【図表:クラウドソーシングの市場規模推移予測】
【図表:クラウドソーシングの市場規模推移予測】

矢野経済研究所推計

このように市場規模は小さいものの国内では既に約60社がクラウドソーシングを手掛けている。一口にクラウドソーシングといっても企業によって、その特性は様々だ。例えば、「ライティング・事務」に特化して手掛ける企業もあれば、「開発・デザイン」に特化している企業、「マイクロタスク・ポイント収集」に特化した企業、あらゆる業務を「総合的」に取り組む企業等がある。

各社の売上は一般的に、インターネット上でビジネスマッチングを図り、成約につながった案件に支払う額の一部を手数料として吸いあげることで成り立っている。「各社のサイト上に登録する労働者数」と「業務委託の依頼案件」の母数が多いほど、成約の割合も上げやすい。そのため、各社ともサイトの使いやすさや労働者に対するフォロー等、差別化を図ることで母数を増やしていっている。

日系クラウドソーシング企業の今後

クラウドソーシングはインターネットを介在として不特定多数の労働者に業務委託をしているために、海外マーケットにも訴求しやすい。裏を返すと先進的にクラウドソーシングを行っている米国の事業者が日本市場での展開を本格的に手掛けてしまう懸念もある、ということだ。近年では中国でもクラウドソーシングが普及しており、世界のクラウドソーシング市場は競争が激化していくことが見込まれる。
一方で、新規にクラウドソーシングに参入する企業が増加している。AppleやGoogleのようにクラウドソーシング企業を買収するケースもあれば、BPO事業者がクラウドソーシング事業を新規に手掛けていくケースもある。以上を背景にしばらくの間はクラウドソーシングを手掛ける企業数は増加をしていくだろう。しかし、競争が激化する中、淘汰されていく企業やM&Aが増えていくと予測され、その数は減っていくだろう。

以上を踏まえた上で、日系クラウドソーシング事業者が競争に生き残るには、1)サービスの差別化、2)積極的な外部企業との連携が必須になってくる。
1)の差別化については、専門性を持たせて分かりやすい形で市場に訴求していくこと、もしくは、サイトの利便性や労働者に対するサポートを改善することが望ましい。専門性を持たることにより、ターゲットが絞られ、「特定の分野であれば、このクラウドソーシングを使う」、というイメージ付けが可能になる。一方、サービスの質の向上については労働者の登録数を上げることにつながる。
2)の積極的な外部企業との連携については、自社の弱みを補填するような企業との協業が理想的だ。例えば、BPO事業者が挙げられる。クラウドソーシングの特性として安価に小口の業務を委託できるが、改善活動を含めたアウトソーシング業務には弱い点が挙げられる。というのも、不特定多数に業務委託をするため、大規模案件をワンストップで提供していくことが困難なためだ。一方、BPO事業者の特性として、改善活動を含めた大口案件には対応できるが、一定数以上のFTE(full-time equivalents)がないとコスト削減効果が薄れて小口案件への対応には弱い点が挙げられる。BPO事業者は自社で多くの業務処理要員を抱え、営業担当や間接部門要員などの人件費が掛かっているためだ。そのような両者の特性を踏まえると、クラウドソーシング事業者とBPO事業者がメリット、デメリットを補完し合うことでアウトソーシング効果を最大にすることのできるサービスを作ることができる、と考える。

2014年初頭にはクラウドソーシング協議会によって、本格的なクラウドソーシング協会が設立される予定だ。その動きに注目していきたい。

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