矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2008.12.25

岐路に立つ携帯電話キャリアのビジネスモデル

販売方式の変更でシュリンクする携帯電話端末の販売

2007年、各携帯電話キャリアは、従来の携帯電話端末の販売方式と通信料金の体系を一部変更した。これは、頻繁に携帯電話端末を買い換える加入者の端末の値引き分を、そうでない加入者の通信料から回収する、という構造を見直すものであった。

新たな販売方式は、携帯電話端末の購入者から直接的に代金を回収するもので、携帯電話端末の販売価格がユーザーに明確に示されるとともに、その支払い方法について、一括や分割を選択できるようになった。

この結果、携帯電話端末の価格が総じて高くなったように感じられることとなり、ユーザーとしては、これまでのように気軽に買い替えができなくなった。その影響もあり、携帯電話端末メーカーの出荷数量が大幅に減少するという結果を招いており、端末メーカーにとっては極めて深刻な局面を迎えているのである。

見直しが迫られる携帯電話端末への依存

元来、日本国内市場では、ユーザーの携帯電話端末に対する要求スペックが、諸外国と比較して非常に高いといわれている。また携帯電話のキャリア側は、顧客の囲い込みを目的として、季節ごとに最新の携帯電話機種を大量に市場に投入する戦略をとってきた。選択肢の増えるユーザーにとっては喜ばしい限りだが、こうした過度の新製品投入と開発競争の結果、携帯電話端末メーカー各社は横並びで頻繁に新製品を投入しなければならなくなり、開発投資負担は非常に重いものとなっている。
そして、限られたパイのなかでこうした過度な新製品の投入を続けることで、携帯電話の一端末あたりの販売台数は限定的なものとなり、携帯電話端末メーカーの利益も奪う結果となっている。

それでも、こうして切磋琢磨して開発した携帯電話端末を海外に展開できればまだ意義はあるが、残念ながら、国内の携帯電話市場は国際的に孤立してしまっているのが現状であり、携帯電話端末メーカーの海外展開は困難な状況となっている。

これまで国内の携帯電話端末メーカーは、ドコモのモデルに見られるように、主としてキャリア主導で携帯電話端末の開発を進めてきた。携帯電話の国内の規格が国際規格に沿っていた時代はそれでもよかったが、とくに第三世代では、日本が先行するとともに、国内キャリアの規格が二分したことで、携帯電話端末メーカーの開発負担はさらに増加することとなった。

しかも、ドコモの推していたW-CDMAが携帯電話の国際規格化競争に敗れたことから、日本の携帯電話端末メーカーにとって、国際展開の道は狭きものとなった。多くの携帯電話端末メーカーが海外展開に挑戦するも、いまだ大きな成功事例は見受けられないのが実情である。
そしてその結果、複数のメーカーが携帯電話事業を手放すなど、国内の携帯電話端末メーカー間での事業の統廃合が進むとともに、今後も生き残りを賭けて、限られた国内市場のなかで過激な競争に勝ち残っていかなければならないのである。

携帯電話キャリアのビジネスモデルはターニングポイントに

こうした状況を鑑みると、国内の携帯電話キャリアにとって、これまでのビジネスモデルはすでに限界に差し掛かっていると感じざるを得ない。つまり、携帯電話端末のバラエティ化による利用者の囲い込みモデルは、今後は思うに任せないと考えた方がよいだろう。

かつて携帯電話の利用方法で革命的な出来事は何度かあったが、残念ながらその多くが端末の進化に伴うものであった。携帯電話端末は、古くは着メロから、その後、カメラの搭載、ICチップの搭載、ワンセグや音楽再生機能対応など、さまざまな機能的な進化を経て、われわれの生活を便利に、楽しく演出してきた。最近も話題に上ったのは、ソフトバンクがiPhoneを販売し始めたことや、スマートフォンがいよいよ普及を迎えようとしていることなどである。

ところが、携帯電話端末と比較してキャリアの通信サービスそのものは、なかなかユーザーの生活を劇的に変化させるには至っていないように感じられる。かつて、iモードが、携帯電話をインターネットに繋ぐというエポックメイキングな出来事もあったが、それもすでに遠い過去の出来事となった。通信サービスというインフラを提供する事業の宿命なのかもしれないが、携帯電話ユーザーに与えてきたベネフィットは、端末によるものと比較すると、携帯キャリアのそれは随分見劣りするように感じられるのである。

圧倒的優位なポジションに立つ携帯電話キャリア

客観的に見た場合、持ち運びが可能でありながらそれ自体がネットワーク機能を持ち、また国民のほとんどがその端末を日常的に携行しているサービスは、過去に類を見ないほどに有望なサービスといえる。また、そのなかでも、端末メーカーやコンテンツベンダー、またエンドユーザーなどの中心にいる携帯電話キャリアという存在は、限りなく優位で特権的な地位にある。他の事業者から見れば垂涎の的に違いない。ところが現状、携帯電話キャリアは、その圧倒的優位なポジションを十分に生かしきれていない、というのが正直な思いである。

携帯電話の普及率が飽和に向かい、また、定額制の普及で将来の収入増は限定的と予測されている。さらに、端末に依存した顧客囲い込みのビジネスモデルが崩れ始めたいま、携帯電話キャリアは、これまでの戦略から脱却し、新たなステージに向かわなければならないだろう。そしてそれは、ユーザーに対してモバイル通信サービスそのものがもたらす、これまでにない新たなベネフィットでなければ、携帯電話サービスの未来の明るい展望は開けてこないと考える。
これが、今後の携帯電話キャリア各社の最大の経営課題になるであろう。

野間博美

野間 博美(ノマ ヒロミ) 理事研究員
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