国内通信事業者だけではなく、海外の移動体通信事業者も含めここ数年、大型の買収、出資が続いている。
今回は移動体通信事業者の戦略方向性の分類と具体的取り組みの例を見るとともに、さらにこの先、どこへ舵を取ろうとしているかを述べていきたい。
まず、現状について整理する。2008年のリーマンショックにおいても移動体事業者においては、他の産業と異なり、大きな打撃を受けることなく順調に業績は推移してきた。
しかし、先進国の移動体通信事業者においては、劇的な収益や利益の増加が見込めなくなっている。理由は下記が挙げられる。
日本国内においては、新たな契約者獲得のために、乗り換えキャッシュバックや家族割引などのインセンティブが多用され、競争が激化している。
また、移動体通信事業者においては、OTT(Over The Top)の影響は大きく、iOSやAndroidOSアプリによる、本来獲得できたであろう(または獲得してきた)アプリビジネスの収益を通信事業者の経路を使って「中抜き」されているのが実態である(いわゆる土管化)。
そのため、通信事業者としては収益確保・向上と費用逓減のための施策を模索している。
こうした状況下、国内移動体通信事業者の主な取組みとしては、下記が挙げられる。
1.の水平展開においては、買収元にとって新たな契約者・収益獲得のとなる一方で、投資・運用コスト削減の戦略として実施する側面もある。SoftBankがブライトスター社を買収したのも端末の購買力をあげることで、調達価格の低減を図ることができる。
さらに、近年はSDN(Software-Defined Network)/OpenFlow、NFV(Network Functions Virtualization)などのネットワーク仮想化技術を利用して、新サービスへの即時対応、運用コストの削減に貢献しようとの動きが広まっている。
つまり、こうした仮想ネットワークを駆使することで、従来個別の国や地域で対応していた運用を、総合的・一元的に運用することで、コスト削減につなげていこうとする動きである。
これらの動きは、基地局やユーザ管理システムなどを提供する通信機器事業者が火付け役となっており、ノキア・シーメンス、アルカテルルーセント、HP、IBM、NECなどグローバルで競争が激しくなっている。
特に、国境が大陸にある北米、ヨーロッパの事業者は、グループ化、地場の移動体通信事業者との提携、出資などの関係性を強め、運用コストの低減を図る傾向にある。
国内においてはSoftBank Mobileによるイー・モバイル社また米国Sprint社、最近ではスーパーセル社(スマホ向けゲーム販売で世界首位)、ブライトスター(携帯電話の卸売販売で世界大手)を買収している。
2.の垂直展開においては、同じ国において、動画やコンテンツ、アプリケーション事業者との提携、出資、買収が続いている。
国内ではNTT docomoはiPhoneの取り扱いを開始するとともに、らでぃっしゅぼーや(食品)、日本アルトマーク(メディカルデータ)、ABCクッキングスタジオと、相次いでインフラ事業以外の企業の買収を続けている。
ここでポイントとなってくるのは、SNSやソーシャルゲームなど、ユーザプラットフォームを有する事業者との提携である。
こうした動きは日本国内だけではなく、海外でもその国特有のアプリケーションベンダーとの提携、出資、買収が繰り広げられている。
今後、移動体通信ユーザの伸びということでは、東南アジア、中東、アフリカ、南アメリカが注目され、先進国ですでに展開している通信事業者は、現地事業者との出資、提携、買収などを模索している。
また、通信事業者の競争優位性という点では、改めてエリアカバー率と回線品質に左右される傾向にある。そのため、どの周波数帯の免許を確保することができるかにより、サービス及びインフラ投資金額への影響が大きくなる。
また、スマートフォンやタブレットPCなどのスマートデバイスが増加する中で、柔軟なデータ通信料金を提供する必要がある。
日本と韓国など一部の事業者においては、2年間利用を条件に、端末購入代金の分割払い及び定額データ通信料金制度が主流となっているが、これらのモデルを欧米はじめ、採用する傾向がある。従来は、音声通信サービスにおいてプリペイド型が一般的であり、データ通信も同様のサービスとして提供している。
近年では音声だけではなく、日本国内では一般的なMVNOによるデータ通信サービスも、ニッチ層や低下価格を訴求したサービスが増加するため、通信事業者にとっては線引きが必要である。
また、動画、書籍、ゲームなどを扱う「コンテンツ及びプラットフォーマ」との提携はさらに続く。従来のメジャー型提携から、ベンチャーも含めた小規模事業者との提携が続くであろう。その際、コンテンツ提供は都度課金から定額配信型が主流を占めることが考えられる。移動体通信事業者もコンテンツ事業者及びプラットフォーマも毎月安定して収入を確保できることは大きい。
ただし、フリーミアムモデルが席巻する中においては、セキュリティが確保された環境下、安全に利用できるアプリを提供することが差別化となる。
移動体通信事業者の巨大なキャッシュフローは、世界経済、その国の経済を席巻し、今後も各事業者の戦略に注目が集まる。
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