矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2013.05.10

大きく変わる一般消費者のコミュニケーション

無料通話が余る、キャリアメールを使わない?

最近弊社が一般消費者に対して実施した調査の中で、気なる結果がいくつか出た。

■携帯電話の無料通話があまりだしている
LINEなど音声無料アプリ使っているようだが、テキストメール、アプリを使う頻度が増えている
■SNSなどの利用により、PCメール、キャリアメールの利用頻度が減少していた
メッセージの「吹き出し」によるコミュニケーションのわかりやすさ、タイトル入力の手間がないため。

スマートフォンが普及する中で一般消費者における「コミュニケーション」が大きく変化している。特に携帯電話(フィーチャーフォン)が普及し始めたころから、消費者におけるコミュニケーションに費やす時間・頻度は大きく増加している。
本稿では過去のコミュニケーション(端末、サービス、回線、アプリケーションなど)の変遷を見るとともに、今後のコミュニケーションにおける課題と変化ついて考察していきたい。

コミュニケーションが大きく変わったポイント

1990年代以降、一般消費者のコミュニケーションは時間的にも大きく伸びており、コミュニケーションが変化したポイントがいくつかある

■ADSL及びPCの普及(e-mail)
一般消費者のコミュニケーションにおいて、「固定電話からPCなどによるコミュニケーションへの変化」の第一歩となった。固定電話による音声通話、FAXから、パソコンによるe-mailでのコミュニケーションの利用頻度が多くなった。これらは、「リアルタイム型コミュニケーションからストック型への移行」も意味する。
■携帯電話(ケータイメール)の普及
固定電話やPCなど、「家(世帯)共有の端末」から「個人端末」が普及するきっかけである。携帯電話による音声コミュニケーションはいつでもどこでも相手とコミュニケーションをとりたいという、大きな欲求に応えたサービスである。また、いわゆる「携帯メール」により、「音声からテキストコミュニケーション」の移行をさらに進めたという意味でも、コミュニケーションの方法を大きく変えた出来事と言える
■スマートフォン・タブレットの普及
日本国内の場合、PCサイトとケータイサイトの垣根を無くすことなった。また、上記の移動体通信事業者にクローズされていた世界が、アプリケーションベンダーに主導権が移った象徴的な出来事ともいえる。
SNSやソーシャルゲームなどのサービス・アプリケーションが「フリーミアム(基本サービスは無料、オプションは有料)」で提供されているのも大きな特徴である。消費者が自由にサービス・アプリケーションを利用できるという点も見逃せない。
SNSやソーシャルゲームにより、過去、現在、そして新たなつながりを生んだということでは、新たなコミュニケーションツールが誕生したといえる(日本の場合はケータイゲームなどが先行していたが)。

このように、固定電話(システム)が発明された1900年から2000年までの約100年間以上に、ここ20年間でコミュニケーションサービス、ツールに大きな変化が起きていることがわかる。
特に、SNSなどによる「見ず知らずの人」との接点の増加は著しく、特定の知り合いとコミュニケーションすることから、趣味、仕事、友達の友達などとコミュニケーションするケースが増加してきた。

【図表:コミュニケーションツールと量の変化(イメージ)】
【図表:コミュニケーションツールと量の変化(イメージ)】

矢野経済研究所作成

前提条件が崩れるとフリーミアムモデルは崩壊する可能性も

では、今後の一般消費者のコミュニケーションはどのように変化していくのか。その前に、現在のコミュニケーション市場における課題を挙げたい。

1)データ通信料金は月額定額料金となっているが、これらを前提としたサービス・アプリケーションとなっている。
2)フリーミアムモデルにおける個人情報(アドレス、検索、閲覧、コミュニケーション、場所の履歴など)の収集とパーミッション(許可)。
3)コミュニケーションツール・サービス依存による疲れ、ブラックボックス化
 

1)FTTHや3Gなどのアクセスサービスは月額定額料金が主流となっているが、LTE導入をきっかけに、段階的な月額定額料金制にシフトする流れとなっている。特に、移動体サービスにおいては、動画コンテンツなど大量のトラヒックが発生するアプリケーション利用が増えたことで、通信事業者の設備負担はかなり大きくなっている。現在は、「利用公平性」の観点から、事業者は大量のトラヒックを利用するユーザへの課金強化を実施するとともに、国家レベルでは、コンテンツプロバイダー(特にフリーミアムモデルのプロバイダー)に対する「接続トラヒック」への課金が検討され始めている。これら「フリーライダー」については、以前からも問題として指摘されている。市場全体の収益配分や費用負担の公平性の観点から、接続料金の精算との事態となれば、「フリーミアムモデルの崩壊」を招きかねない事態となる。

2)現在、スマートフォンやタブレットを中心として、Google playやApp Storeなどからダウンロードして(コミュニケーション)アプリを利用するケースが増えている。こうしたアプリにおいては、サービスの無料利用を前提に、広告の掲示、端末内の(個人)情報の利用における利用許諾(パーミッション)が求められる。
しかし、皆様も経験があるように、数ページにもわたる利用規約や内容について、一般消費者がリスクを判断することは現実的ではないケースが多い。また、ユーザ側には圧倒的な不利な状況でのパーミッションとなっている。事業者側はこうしたパーミッションを盾にリスクを回避しつつ、悪意の事業者は個人情報を悪用することとなる。
パソコンと比較してスマートフォンは個人情報の塊であり、何かあった場合の被害は甚大である。その意味、ユーザ自身におけるセキュリティの確保と国家レベルでの明確な指針が求められるところではある。

3)コミュニケーションツールが個人化することにより、いつでも、どこでも、誰とでも連絡が取れる状況になった。しかし、図にもあるようにコミュニケーションツール・サービスに費やす時間が大幅に増加することとなり、様々な問題を引き起こしているのも事実である。スマフォ依存、即レスへの切迫感、端末を持たない、サービスが使えないことによる差別、コミュニケーションのブラックボックス化など、様々な疲弊感を感じる。

今あるつながりを大事にする

今後の一般消費者のコミュニケーションはどのようになるのか。スマートフォンをはじめとした個人端末を所有することは当たり前の行為となり続ける。最近では、リストウォッチ型、メガネ型などのウェアラブル端末が注目されており、こうしたものを利用したサービスが提供される。
人とつながりたい、つながっていたい、表現したい、理解したい、されたいとの人間の本質的な欲求を満たすサービスが提供されていく。
当面は新たなつながりを求めるよりも、家族、友人など、今あるつながりの「深さや頻度(親密度)を増やす」ことを求めるサービスが普及すると考える。サービスがグローバルを視野に入れて提供される昨今、寡占化が進む中で、新たなニッチサービスが登場し、新たな巨大アプリケーションベンダーになるのも、「フリーミアム」の世界である。
ただ、課題でも指摘したとおり、適切な費用負担関係が必要で、ユーザ及び業界の健全な発展のためにも、事業者間トラヒックにおける費用負担の制度確立が求められる。さらに、フリーミアムにおけるリスクの徹底とそれを許容する判断能力が求められるところである。
個人的には、現在のサービスは確かに便利にはなったが、人生が豊かになったかといわれると、あまりにも時間が費やされるため、やや疑問を感じざるを得ない。

YanoICT(矢野経済研究所ICT・金融ユニット)は、お客様のご要望に合わせたオリジナル調査を無料でプランニングいたします。相談をご希望の方、ご興味をお持ちの方は、こちらからお問い合わせください。

YanoICTサイト全般に関するお問い合わせ、ご質問やご不明点がございましたら、こちらからお問い合わせください。

東京カスタマーセンター

03-5371-6901
03-5371-6970

大阪カスタマーセンター

06-6266-1382
06-6266-1422