矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2013.03.01

多様化するメディアの中で求められる新聞社の役割とは

溢れかえる大量の文字情報

消費者が新聞紙に費やす金額が激減している。また、同様に活字離れという言葉が使われるようになって久しい。
しかし実際には、消費者が文章を読まなくなったというわけではなく、むしろ人類が今ほど大量のテキストに囲まれているのは、歴史上初めてであり、日々大量のテキスト情報に触れているのが実態である。
特にモバイルツールの普及によって、人々は肌身離さずディスプレイを持ち歩き、暇があれば、何らかの情報に触れているのが常態化している。
情報伝達の手段がこれまでの紙メディアから、ディスプレイに移行しただけでなく、更に進化して、手軽に持ち歩きが出来るようになったのである。しかし、我々が必要としている情報や機能は、根本的には以前と全く変わっていないように思われる。
従来の手紙や電話はSNSやメールに置き換わり、新聞はニュースサイトやポータルサイトに、小説やコミックはケータイサイトや電子書籍などに移行しつつある。結局、情報の媒介手段は代わっても、人が求めている情報は、友人や家族とのコミュニケーションであり、最新の世の中の動きであり、心震わせる物語なのであろう。古くは紙の発明、さらに活版印刷技術の発明、最近ではインターネットの登場などの契機を経て、我々が求める情報の伝達方法は変わっても、その中身は根本的には変わらないのだ。

苦悩する新聞社

最近、いくつかの新聞社に訪問する機会があった。各社とも、紙メディアの急激な発行部数の減少に、大きな打撃を受けているという。
それ以前から、多くの新聞社では、デジタル戦略部隊を組織化し、紙以外のメディアへの展開を模索してきた。これまでのところ、多くの新聞社のデジタル化部隊は、自社サイトに、紙面に掲載している記事を転用する一方で、ポータルサイトや他社のDBに情報を配信するに留まっている。日経新聞や朝日新聞のように、自社の電子メディアを有料で配信するという取り組みは、まだ少数派であるという状況である。
新聞社の収入源としては、読者からの購読料の一方、企業からの広告費も大きな柱となっているが、発行部数の減少は広告収入にも影響するという。無料で記事を掲載している自社のWebサイトにも広告を掲載しているが、紙面の広告費の減少を補うには至らない。このように、広告収入が大きな柱となっているために、報道機関としての新聞社は、必ずしも完全に中立な立場ではいられないことは、読者も承知していることである。

かつてない大きな課題に直面している新聞社は、大きく全国紙と地方紙に分けることができるが、地方紙と全国紙では大きく事情が異なっているようだ。
例えば、沖縄には日経新聞を除く全国紙が進出していないという。勿論理由は様々あるのだろうが、大きいのは、沖縄県民の関心事と、全国紙の取り扱う記事の内容が、大きく異なるためであるとされる。沖縄の新聞には、一面から地元のニュースが大きく取り上げられていることに気付く。沖縄の新聞社は、地元読者のニーズを捉えた、沖縄特有の記事を中心に取り扱っており、県民にそれが受け入れられているということであろう。とはいえ、発行部数の減少は避けられていないのが実態だ。
また、全国紙に関しては、現在の記者クラブ制度のもと、全国紙各紙が取り上げる記事や論調には、明確な差が出にくいと考えられる。近年のように、読者の多くが新聞社の記事を、各社の紙メディアやサイトではなく、それらをとりまとめるニュースサイトやポータルサイトなどで閲覧するようになると、ますます新聞各社の違いやアイデンティティが曖昧になっていく。また、各社が同じようなテーマの記事を同じサイトに配信することで、むしろ各社のニュースの相対的な価値を下げているようにも見える。

新聞社はどこに向かうのか

今後、タブレット端末の急速な普及により、さまざまな紙メディアの需要が衰退していく速度は、ますます速まると考えられる。そのような中、ニュースという情報の伝達で、今後も消費者から対価を得続ける報道機関でいるために残された道は、それほど多くないように思われる。

ひとつには、情報の受け手の絞込みである。つまり誰に向けて情報を伝えるのか、ということである。日経新聞を除く全国紙は、この点では依然曖昧であり、様々な試行錯誤の末、未だにこれを実現することができないでいるように思われる。 もうひとつは、伝える情報の選別である。ネットの普及で流通する情報量が飛躍的に増加している中で、新聞社がもつ情報のフィルタリング機能が、これまで以上に高まっていくと考えられる。
最後に期待されるのは、広告モデルからの脱却である。上記の二つの条件が満たされていれば、広告スポンサーに影響を受けない、全く公正な報道機関としての存在価値が得られるのではないか。

幅広い取材網をもつ新聞社は、極めて有用なコンテンツホルダーであると考えられるが、折角の貴重なコンテンツを、多次元で活用するという取り組みが進んでいない印象を受けた。
紙メディアからの消費者の離脱の流れはもう止まらないだろう。そのような中で、既存の新聞社それぞれの選択が注目される。

野間 博美(ノマ ヒロミ) 理事研究員
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