矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2012.09.13

大企業信仰を脱し国内製造業の復活をはかるべし

ICT業界の世代交代の時期を逃すな

アップルとサムスンの、スマホをめぐる訴訟が世界各国で激しく行われているが、残念ながらその舞台には日本のメーカー名は影も形もなく、ものづくりの国を謳う日本にとっては極めて寂しい状況である。
今や世界において最新のICTデバイスと言えば、スマートフォンとタブレットであろうが、国内メーカーに関しては、グローバル規模では言うに及ばず、国内でも全く存在感がない。アップルに関しては、この分野で世界の最先端を行く企業であり、大きく水をあけられているのも致し方ないと思える。しかし、それに実質的に追随できているのが、韓国メーカーのサムスンであり、ついこの間まで日本メーカーに追いつき追い越せという目標を持っていた企業であることを考えると、実に情けない状況であると言わざるを得ない。

代謝の進まない日本のICT業界

パナソニック、ソニー、シャープなど、かつて世界を代表する存在であった家電各社は、前期に大幅な赤字を出し、現在社長の若返りなどを図ることで経営の再建に必死である。中でもシャープにいたっては、本稿執筆時点で、台湾企業からの出資支援を仰ぐための交渉を継続している状態である。
思えば、日本でICT業界を代表する企業として、大きく成長を遂げた新興企業が出なくなって久しい。日本のICT業界を代表する企業として思いつくところとして、三菱、日立、東芝は日本の代表的な老舗企業である。パナソニック、ソニー、シャープは、かつてはベンチャー企業として戦後日本の成長を支えてきた企業ではあるが、言うまでもなく日本を代表する大企業となって久しい。また、NEC、富士通と言ったIT系企業も、電電公社時代のファミリー企業であり、決して若い企業とは言えない。こうした顔ぶれを見ると、日本のICT業界は、今や老舗ばかりで、かつ国際競争力に乏しいドメスティック企業ばかりになってしまった印象である。
一方、先述のアップルは、言うまでもなく、スティーブジョブズが一代で築きあげたベンチャー企業の典型例であるといえる。マイクロソフトやGoogle、Facebookに見られるように、アメリカの強さは、常に新しい世代のベンチャーが勃興し、業界の世代交代を進めていく点にあろう。アジア各国では、韓国のサムスンの設立は1969年とやや古いものの、近年急成長を遂げているし、中国、台湾では、政治的な背景もあって、新興企業が急成長し、また積極的にグローバル展開を図っている。

グローバル化が進まない日本企業

韓国企業の世界的成功を語る際に良く言われるのが、韓国の国内市場の小ささゆえに、最初からグローバル展開を意識せざるを得なかった、と言う論点である。確かにそういう側面もあるだろう。しかし、これだけグローバル化が進んだ時代にあって、製造業であえて国内に閉じて成長を図る企業があろうはずもない。逆に言えば、グローバル化が進む昨今の経済下で、世界を相手に成長を遂げてきた若い企業が輩出されていないのが、日本の実態と言えるのではないか。つまり、国内で成長を遂げてこれた前述の大手企業以降、日本のICT産業でグローバルに成長を遂げたベンチャー企業が生まれていないと言うことであろう。
この原因として、日本における旧態依然とした超大手企業に対する盲目的な信仰と、ベンチャースピリッツの欠落があると思われてならない。
大手企業各社は、過去何度かの経営不振からリストラを断行してきた。この際に退出した社員や技術者の多くは、自分で起業するよりも、韓国系企業や中国、台湾系の企業に流出したと言う。そしてそれらの人材が、逆に国内メーカーでのノウハウを生かして、各国企業の技術の発展に貢献し、その結果、日本メーカーは自分で自分の首を締める結果となった、というのが一説となっている。

ベンチャーの生まれるシステムを構築せよ

言うまでもなく、大企業になればなるほど、意識決定に関与する人間が増え、その結果は中庸化され、ユニークなアイデアは埋没する。そういった大企業からは、世間があっと言うような革新的な製品は生まれない構造になっているのである。むしろ、かつてのソニーがユニークな製品を出し続けられたのは、特殊な例と考えるべきである。特に日本のような合議制で意思決定がなされる経営システムでは、より一層ユニークなアイデアを生かすことは難しいのである。従って、日本の大手企業から、アップルのような革新的な製品を望むこと自体が、本来非常に困難であると考えるべきなのである。競争力の落ちた大手企業を保護するような政策は、逆に業界全体の活力をじわじわと失わせていく悪政でしかないと気付くべきである。
国全体で見た場合にこうした事態を避けるためには、新興のユニークな企業が随時輩出され続けるシステムを構築しなければならないのである。
しかし、日本では依然として大企業信仰が根強く、新卒の学生に留まらず、先ほど触れたような大企業をスピンアウトした技術者なども、国外の大手企業に流出していく。
長らく叫ばれているように、日本においてベンチャースピリッツを醸成し、金融機関や大企業にストックされている金融資産を、そういった政策に回していくことが最大の解決策である。典型的なファブレスであるアップルの今の成功を見て、円高や国内のインフラコストが、必ずしも国内製造業の衰退の原因ではないということに、早急に気付くべきである。
いつまでたっても、国内のシリコンバレーと呼ばれる地域が出てこない原因を、日本全体で解決していかなければならない。最早、日本で迷走しているのは政治だけではない。

野間 博美(ノマ ヒロミ) 理事研究員
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