矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

レポートサマリー
2017.06.02

生命保険領域における国内InsurTech市場に関する調査を実施(2017年)

AIなどによる業務の効率化・高度化の範囲拡大、APIの公開など支援環境の整備がカギ。

国内InsurTechの市場概況

2016年度の国内InsurTech(インシュアテック)市場規模(参入事業者売上高ベース)は、460億円の見込みである。特にAIなどを活用した業務の効率化・高度化ソリューションが市場をけん引した。生命保険会社の業務プロセスのうち、引受査定や保険金・給付金の支払いなど、一部の領域においてAIなどの導入が進んでおり、業務プロセス改革も併せて取組むことによる成功事例も生まれている。また生命保険会社を中心に健康増進型保険1や疾病管理プログラム2など、従来にはない新しい保険商品・サービスに向けたデータ収集などを進めており、徐々に盛り上がりを見せ始めている。
一方、法改正のほか、金融機関やSIerを中心とした、ベンチャー企業の支援環境整備が進むFinTech(Financial Tecnology、フィンテック)と異なり、InsurTechにおけるベンチャー企業の支援環境はまだ僅かに留まる。今後の支援環境の整備が期待される。

※1. 健康増進型保険とは、従来の実年齢によって保険料が決定する手法とは異なり、健康診断結果やライフログデータを基に、保険加入者の健康状態や健康増進に向けた取組み度合いに応じて、保険料が変動する保険商品。
※2. 疾病管理プログラムとは、啓蒙活動から実際の行動変容、そして異常が見つかった際の最適な医療アクセスの提供、そして給付金の支払いまで一貫してサポートしていく取組み。

【図表:国内InsurTech(インシュアテック)市場規模推移予測】

【図表:国内InsurTech(インシュアテック)市場規模推移予測】
  • 矢野経済研究所作成
  • 注:本調査における8領域の参入事業者売上高ベース
  • 注:2016年度は見込値、2017年度以降は予測値

国内InsurTechの注目すべき動向

■AIなどを活用した業務の効率化・高度化ソリューションが市場の牽引役、今後は健康増進型保険、疾病管理プログラムに期待

2016年度は、特にAI(人工知能)などを活用した業務の効率化・高度化ソリューションが市場を牽引した。現在、引受査定や保険金・給付金の支払などの領域に限定してAIなどの導入が進んでおり、2017年度以降も引き続き、AIなどを活用した業務効率化・高度化の範囲が広がっていくとみる。
2017年度以降に市場を牽引する領域としては、上記の市場に加えて健康増進型保険や疾病管理プログラムが期待される。まず国内の大手生命保険会社を中心に、健康診断データやライフログデータの収集を通じて、健康増進型保険の開発を進めているほか、外資系の生命保険会社を中心に進む、疾病管理プログラムの充実に向けて、スマートフォンアプリを含めたサービス開発を今後、更に加速させていくとみる。特にデータ収集にあたっては中央省庁や地方自治体の保有する公共データのオープン化(オープンデータ)なども進むことが期待される。

■ベンチャー企業支援を中心に、法整備や技術など、InsurTech市場の拡大には課題も

まず法律的環境の整備について、FinTechは後押しする法律が相次いで成立する一方、保険業界は、保険業法等の改正の動きはなく、FinTechと比較して事業環境がまだ未整備である。ただし、2016年12月に成立した、官民データ活用推進基本法によって、中央省庁や地方自治体によるデータの公開を通じて、医療系データの取込みが進むことが期待される。
次にベンチャー企業の支援環境の整備について、FinTechはメガバンクや地方銀行、SIerによる積極的なベンチャー企業育成イベントが積極的に行われている。一方、InsurTechにおける同様のイベントは限定的である。法規制などの障壁は大きな影響を与えるものの、そうした規制を回避する上では、生命保険会社やSIerなどによるベンチャー企業に対する支援・育成が不可欠であるため、今後のこうした活動を期待する。
更に、技術的な環境整備として、特に期待されるのはAPI(Application Programming Interface)の公開である。APIを構築することで新たな保険商品やサービスが創出される可能性も出てくることが期待される。費用対効果を鑑みつつ、早急に検討を開始すべきと考える。

国内InsurTechの将来予測

今後は官民データ活用推進基本法によって、中央省庁や地方自治体によるデータの公開を通じて、健康増進型保険や疾病管理プログラムの開発が進むことが期待される。技術面では現在、活発化する銀行API(Application Programming Interface)の公開に続く、保険領域におけるAPIの公開に向けた議論が今後、進むとみる。
更に大手生命保険会社を中心に、InsurTechベンチャー企業向けイベントの開催や法的支援をはじめ、ベンチャー企業の育成・支援に向けた環境が徐々に整っていくと考える。
こうしたことを背景に国内InsurTech(インシュアテック)市場規模(参入事業者売上高ベース)は2018年度に565億円、2020年度には1,100億円に達すると予測する。なお、本調査では8領域に分類したが、今後、領域自体も、主たる事業者も変化していくことが予想される。

また現在、健康増進型保険の開発を軸に進めているものの、将来的には同保険を軸としたエコシステム(生態系)の構築競争が加速していく可能性もあるものとみる。もしくは、先制医療(発症前に予測・診断し治療介入すべく研究が進む医療分野)を含め医療技術の発展や、ユーザー(一般生活者)の健康に対する意識の変化などを背景に、予防や予後まで含めた疾病管理プログラム間での競争に移行していくとみる。
いずれにしてもInsurTechによって、生命保険会社は従来の支払事由が発生した際に保険金を支払う位置づけから、支払事由を回避する上で、加入者に寄り添い支援していくパートナーとしての位置づけに変わっていくことが期待される。


調査要綱

調査期間:2017年3月~5月
調査対象:国内の生命保険会社、少額短期保険事業者、SIer、InsurTechベンチャー企業等
調査方法:当社専門研究員による直接面談、電話・e-mailによるヒアリング、ならびに文献調査併用

※InsurTech(Insurance Technology)および InsurTech(インシュアテック)市場とは:InsurTech(インシュアテック)とは保険(Insurance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語である。従来の生命保険会社では提供できなかった新たな保険商品・サービスの開発や業務の効率化・高度化などにおいてIT技術を活用して提供する生命保険関連サービスを意味する。

本調査におけるInsurTechは次のように分類し、「個人ごとの(健康増進型)保険商品の開発」「疾病管理プログラム」「AIやチャットボットなどを活用した保険見直しコンサルティングや保険相談サービス」「AIを活用したアンダーライティング(引受)の自動化」「受診勧奨から受診、異常告知を受けた場合における診療までのトラッキング」「アプリなどによる契約者および契約者の家族向けアフターサービス」「AIやBRMS(ビジネスルール管理システム)などを活用した支払査定の自動化」「インフラとしてのブロックチェーンの活用」の8領域を対象とする。
※ブロックチェーンとは利用者同士をつなぐP2P(ピアツーピア)ネットワーク上のコンピュータを活用し、権利移転取引などを記録、認証するしくみ

国内InsurTech市場規模は従来の生命保険会社が提供していなかった新しい保険商品・サービスの開発や業務の効率化・高度化をサポートするベンダーやベンチャー企業に焦点を当て、当該参入事業者の売上高ベースで算出している。

山口 泰裕(ヤマグチ ヤスヒロ) 研究員
ITを通じてあらゆる業界が連携してきています。こうした中、有望な業界は?競合・協業しうる企業は?参入障壁は?・・・など戦略を策定、実行に移す上でさまざまな課題が出てきます。現場を回り実態を掴み、必要な情報のご提供や戦略策定のご支援をさせて頂きたいと思います。お気軽にお声掛け頂ければと思います。

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