矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2021.11.01

コロナ禍で急速に伸長する仮想オフィスツール市場の実態と将来展望

仮想オフィスツールとは

仮想オフィスツールとは、オンライン上でリアルタイムに双方向のコミュニケーションを行う仕組みを提供するソリューションである。音声や映像を通じて即時性の高いコミュニケーションが可能となる点が特徴である。インターネット上の仮想空間に擬似的なオフィスを構築する仮想オフィス機能やチャット機能(音声・映像・テキスト)、画面共有機能、入退室ログ機能などがあり、各製品のコンセプトにより機能の種類に違いがある。

【図表:主要な仮想オフィスツール】

【図表:主要な仮想オフィスツール】

出所:各種公開情報をもとに矢野経済研究所作成

2021年度の市場規模は前年度比800.0%の20億円と予測

【図表:仮想オフィスツール市場規模推移(2019年度~2025年度)】

【図表:仮想オフィスツール市場規模推移(2019年度~2025年度)】

矢野経済研究所推計
注:CRGRは2019年度からの年平均成長率

仮想オフィスツール市場の市場規模は、2019年度に4,000万円、2020年度に前年度比625.0%の2億5,000万円となった。2020年度に急速に成長し、参入企業が増加したことで本格的に市場が形成された。

コロナ禍を契機としてテレワークを一定期間実施する中で、コミュニケーションが不足し、孤独感や疎外感を感じる従業員の増加や、組織の一体感の喪失が課題となる企業が増加している。仮想オフィスツールには、同じ空間を共有できる仮想オフィスの仕組みや、予約なしで即時に声掛けできる機能、従業員の状況を可視化する機能などがあり、実際のオフィスに近い環境をオンライン上で構築できるため、コミュニケーションに課題感をもつユーザ企業を中心に導入が進んでいる。新規参入企業も増加しており、市場は活況を呈している。

2021年度は、前年度比800.0%の20億円に伸長すると予測する。コロナ禍の収束が見通せない中、前年度に引き続き2021年度も仮想オフィスツールの導入が極めて好調に推移している。また、冒険法人プラコレのRemorks(2021年4月、β版提供)や富士ソフトのFAMoffice(2021年6月提供)など新たに市場に参入する企業もあり、市場は盛り上がりを見せている。

コロナ禍を契機にテレワークを実施した企業にとっては2年目に入り、コミュニケーション不足を起因とするチームとしての一体感の喪失や、従業員エンゲージメントの低下などを課題として認識する企業も増加してきている。2020年から2021年にかけて仮想オフィスツール市場の認知度が急速に向上した中、コミュニケーション関連の課題を解決する手段の一つとして導入するケースが今後さらに増加すると見込む。

将来展望と仮想オフィスツールの普及に向けた課題

今後は、テレワーク環境下での各種コミュニケーション課題を解決するツールとして活用される他、働き方の多様化に伴い、リアルオフィスに置き換わって活用されるケースや、リアルオフィスとテレワークを繋ぐプラットフォームとして活用されるケースなど、仮想オフィスツールの在り方が多様化していくとみる。

市場規模は、2022年度に前年度比225.0%の45億円、2023年度は同比177.8%の80億円、2024年度は同比168.8%の135億円と推移し、2025年度には同比133.3%の180億円まで伸長すると予測する。2019年度からのCAGR(年平均成長率)は176.8%である。

仮想オフィスツール市場が成長するにあたり、次の2点が課題として挙げられる。
まず、2020年度に急速に注目を集めた仮想オフィスツールではあるものの、市場全体の認知は依然として低い状況にある。特にコミュニケーションツールという観点で比較すると、Web会議システムやビジネスチャットなどとは認知度に大きな開きがあるだろう。
現状、様々な仮想オフィスツールが乱立して市場は混沌とした状況にある。認知度の向上に対しては、用語の定義や事例の創出など、市場に参入するベンダ各社が様々な取組みを進めることが求められる。こうした中、oViceが2021年にテレビCMを出稿したことは、仮想オフィスツール市場にとってプラスに働くとみる。

また、様々なコミュニケーションツールが普及している中、仮想オフィスツールを活用せずとも最低限のコミュニケーションを行うことができる状況にある。言い換えれば、仮想オフィスツールは事業活動を遂行する上で必須の手段ではなく、より円滑なコミュニケーションを実現するための付加価値の要素を持った製品である。そのため、仮想オフィスツールを活用する動機付けが明確にならない場合、ユーザの利用頻度は次第に低下していくと考えられる。

コミュニケーションの活性化や勤務状況の可視化など、仮想オフィスツールの活用を通じて得られるメリットをユーザが享受できるよう、ユーザとベンダが一体となって施策を検討し実行する必要がある。また、ユーザへの定着に向けて重要となってくるのがカスタマーサクセスの体制であり、今後は製品導入時の支援や導入した後の継続的なフォローの重要性が更に高まるとみられる。

星 裕樹

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