矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2021.08.26

商用車におけるDXの機会

商用車のうち、事業用トラックを運行する運送事業者の96.9%が従業員100人以下の中小企業である。また、車両の保有台数規模でもほぼ同様の構成であり、車両保有台数100台以下の事業者が98%である。この傾向は長期的に変化がない。

【図表上:運送事業者の車両保有規模別構成比(62,176事業者)】
【図表下:運送事業者の従業員規模別構成比(62,176事業者)】

図表:運送事業者の車両保有及び従業員規模別構成比

国土交通省の資料を基に矢野経済研究所作成、2016年3月末時

中でも10人以下の事業者は49%に達する。こうした小規模企業では、事務処理量も限定的であるため、手書き帳票から一般的な表計算ソフトへの転記されるような業務が一般的である。
一方で、労働基準法の改正によって、2024年4月から自動車運転業務(運送業ドライバー)の年間残業時間上限が960時間に定められた。ただし、1月当たりの制限はなく、年間を通じて960時間を超えなければよいというものである。また、2023年4月から、月60時間までの時間外労働への割増賃金率は25%、月60時間超過分の割増賃金率は50%となる。こうした法改正によって複雑化する労務管理では、日々の運行記録やドライバーの乗務記録の重要性がより高まることになる。
運送事業者のトラックドライバーの勤務体系には、労働時間、拘束時間、休憩時間、休息期間と複数の概念が存在し、荷待ち時間を休憩とする場合などグレーな部分も多い。従来、36(さぶろく)協定によって形骸化されていた労働時間に対する規制が厳格化されることもあり、法令を遵守するためだけに装着されるタコグラフが労務管理の切り札としてデジタコに置き換わる大きなチャンスと言える。

他方、旅客輸送を担うバス・タクシーでは、乗合バス(路線バス)のICカード導入やタクシーでのキャッシュレス決済導入が進んでいることもあって、必然的に運賃計算などはデジタル化が進展している。
乗合バスもまた、小規模事業者(保有車両10両以下)が70%を占めるが、同時に100両以上の車両を保有する大規模事業者も多い。こうした大手バス会社を中心に、バスの走行位置を乗車予定者のスマートフォン上に表示する「バスロケーションシステム」を導入し、乗客の利便性を測るといったようなDXへの取り組みが進んでいる。さらに、コロナ禍にあっては、混雑状態を可視化するための乗降センサや社内カメラ画像の活用なども行われており、安心して移動できる環境の提供に取り組んでいる。

【図表上:乗合バス事業者の車両保有規模別構成比(2,217事業者)】
【図表下:乗合バス事業者の従業員規模別構成比(2,217事業者)】

図表:乗合バス事業者の車両保有及び従業員規模別構成比

国土交通省の資料を基に矢野経済研究所作成、2015年3月末時

貸切バスは、2000年の規制緩和によって新規参入事業者が増加し、コロナ禍前のインバウンド需要を支えた。2016年に発生した軽井沢スキーバス事故をきっかけに、貸切バスへのドライブレコーダー搭載が義務化された。同事故の原因の一つがドライバーの経験不足と予定運行ルートを外れたことにあると考えられ、ドライバーへの指導監督や運行管理制度の見直しと併せて行政処分が厳罰化されている。
貸切バスの事業者は、乗合バスに比べると小規模事業者が主体である。バスツアー企画時の旅程や走行距離から自動的に見積もりを作成するシステムなどが提供されているが、利用は限定的とみられる。しかし、装着義務化されたドライブレコーダー等に搭載されたGPS位置情報を活用して運行動態管理を行うことで、厳格化された運行管理制度に対応するなど、規制をきっかけとしたデジタル技術導入の機会はまだ残っている。

【図表上:貸切バス事業者の車両保有規模別構成比(4,508事業者)】
【図表下:貸切バス事業者の従業員規模別構成比(4,508事業者)】

図表:貸切バス事業者の車両保有及び従業員規模別構成比

国土交通省の資料を基に矢野経済研究所作成、2015年3月末時

タクシー事業者も、これまで同様保有台数10両以下の事業者が66%を占める。タクシーメーターの高機能化に伴って、ドライバーは乗務終了後にプリンタから乗務記録を印字して提出するだけで良いなど、業務の効率化が進められている。また、クレジットカード、交通系ICカード、QRコード※決済など多彩な決済手段に対応することで、必然的にデジタル化が進んでいる側面がある。更には、タクシー配車アプリ経由での配車依頼に応えるためにタブレットを搭載するタクシーも増えている。
地域によってデジタル技術導入に濃淡があるのもタクシーの特徴で、依然として電話による配車依頼が主体の地方では、タクシー配車アプリの存在感は薄い状況にある。

※「QRコード」は、株式会社デンソーウェーブの登録商標です。

【図表:タクシー事業者の車両保有規模別構成比(14,319事業者)】

図表:タクシー事業者の車両保有規模別構成比

国土交通省の資料を基に矢野経済研究所作成、2010年3月末時

上記各業種の中で、今回は事業規模のみを見たが、事業者数で圧倒的に多い運送事業者が魅力的なターゲットに思える。物流MaaSや物流DXといったキーワードが話題になる中、運送事業者の運行記録は極めて重要なデータになる。更には、保有台数としては営業用トラックの約140万台の4倍以上、約600万台の自家用トラックは無視できない。
そして、MaaSの一翼を担うバス・タクシーもまた、検索~予約~決済までを一貫して実行するためにもデジタル化は必須である。
しかしながら、車両そのものが発信するデータは各商用車メーカーごとに仕様が異なるなど、利用に課題も残っている。そのため、経済産業省が音頭を取って「トラックデータ連携の仕組み確立」に向けて動いているところである。
カーボンフットプリントの点でもインパクトの大きい商用車部門のDXによる効率化の今後に注目したいところである。

古舘渉

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古舘 渉(フルダテ ワタル) 主任研究員
新規事業コンサルティング部門、上海現地法人、海外部門を歴任し、新規市場開拓のお手伝いには自信があります。

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