現在、2021年9月のデジタル庁(仮称)(以降デジタル庁)発足に向けた取り組みが進められている。以下ではデジタル庁設置の考え方について紹介している。デジタル庁の業務の中でも、ここでは「地方共通基盤のデジタル基盤」「マイナンバー」について焦点をあて、現状の自治体システムの標準化対応の取り組み状況とマイナンバーカードの利活用状況にふれていく。
【図表:デジタル庁(仮称)設置の考え方】
出所:デジタル・ガバメント閣僚会議(第10回)議事次第「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針(案)の概要」より矢野経済研究所作成
自治体システムの標準化や共同化に向けて、現在は総務省が主体となり取り組んでいる。地方自治体におけるシステムの重複投資をなくすことや、自治体のデジタル化に向けた基盤整備を目的に、自治体の情報システムや様式・帳票の標準化等に向けた検討を進めている。
2019年8月より自治体17業務を対象にシステム等の標準化検討を開始し、原則2025年度までの標準仕様に準拠したシステムの導入完了を掲げている。対象の17業務のうち、既に住民記録システムと税務システムの検討会が開催された。ベンダからは自治体ごとの特色がほとんどない住民記録システムの標準化は進めやすいが、各自治体で算出方法などの細部が異なる税務システムのほか、福祉システムにおいても、どこまで全国一律で標準化できるのか、という声も聞かれた。
政府は今後、システム更新にともなう契約変更や関連ベンダの業務負荷の集中や、自治体における関連経費の負担なども考慮し、財源面を含めた国主導の支援に取り組む予定としている。
各自治体で個別に情報システムの発注・維持管理や制度改正対応していることで人的・財政的負担が増大していることに加え、個別調達によって自治体間でシステムの内容が異なることから、共通プラットフォーム上のサービスを利用する方式への移行の妨げにもなっている。そのため、自治体システムの標準化を推進することで、職員の業務負担の軽減やコスト削減、住民サービスの向上にもつながると期待されている。
【図表:11 地方自治体の業務プロセス・情報システム標準化の対象17業務】
出所:内閣官房IT総合戦略室「地方自治体業務プロセス・情報システム標準化の取組について」より引用
続いてマイナンバーカードの利活用状況について見ていく。政府では「今後5年間、集中的に、行政を含むあらゆる分野において、マイナンバー制度を基盤として、データ・AIを最大限利活用できるシステムへの変革に取り組むことが重要」とし、マイナンバー制度および国と地方のデジタル基盤の抜本的な改善に向けた「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」にて検討を進めている。直近は2021年3月よりマイナンバーカードを健康保険証として利用できるようになることが予定されている。2022年度中にマイナンバーカード機能のスマートフォンへの搭載や2026年度までに運転免許証との一体化に向けた検討も進められている。
2020年度はマイナンバーカードの普及およびキャッシュレス決済の拡大に向け、マイナポイントによる消費活性化策が取り組まれていたほか、コロナ禍に関連して申請業務でのマイナンバーカード活用が注目されたものの、マイナンバーカードの交付率は未だ3割程度にとどまっている。
【図表:マイナンバーカードの市区町村別交付枚数(令和3年2月1日現在)】
出所:総務省「マイナンバーカードの市区町村別交付枚数等について(令和3年2月1日現在)」より矢野経済研究所作成
上記で自治体システム標準化に向けた取り組み状況やマイナンバーカードの利活用状況についてふれた。以降は自治体システム標準化による影響や、マイナンバーカードの今後について考察する。
自治体システムの標準化により具体的にどのような影響が考えられるのか。自治体システムの標準化にともなう対応は2021年度以降本格化する見込みで、現在ベンダ各社は国の動向を注視しつつ情報収集を行っているほか、各種対応に追われている。自治体システム標準化が進展した際、関連ベンダ各社はシステムのUIなど細かな部分に加え、周辺のサポートサービスやBPOサービス、AIソリューション、RPAソリューションを提供することで特色を出していく構えである。しかし、業務システムが標準化されてしまうことで価格競争が激化し、ベンダの淘汰が進む可能性もある。
一方、自治体側はシステムの標準化仕様が具体化されるまで投資を控える団体も出てくることも考えられる。だが、システムが統一されることで、周辺自治体と共同でBPOサービスやAIソリューション、RPAソリューションなどを利用しやすい環境となり、そうしたソリューションの利用が進むことも期待される。
今後、マイナンバーカード機能がスマートフォンに搭載され、健康保険証や運転免許証など様々な機能が付与されマイナンバーカード自体の利便性が高まれば、交付率も上がっていくことが見込まれる。
民間事業者では、既にマイナンバーカードを活用したソリューションとして、入退室管理やパソコンのログイン、図書館での本の予約・貸出、コンビニ交付、公共施設予約などのソリューションを提供している。だが、先述した通りマイナンバーカードの普及率は3割程度にとどまっているため、現在でも自治体からマイナンバーカードを利用したソリューションを何かできないか、という引き合いが来ているものの、利用は限定的なものとなっている。マイナンバーカードの交付率が今後上がったのち、マイナンバーカードを活用したソリューションの利用が進む。そのため、関連ベンダの見解なども踏まえると、マイナンバーカードを活用したソリューションの本格的な利活用は3~4年先となるだろう
(宮川典子)
■レポートサマリー
●自治体向けソリューション市場に関する調査を実施(2020年)
●自治体向けソリューション市場に関する調査結果2015
●自治体向けソリューション市場に関する調査結果 2014
●社会インフラ向けIT市場に関する調査結果2015
■アナリストオピニオン
●行政コスト削減に向けて自治体クラウド導入が加速
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