矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2021.02.09

スーパーシティに寄せる期待と課題

2020年5月、“スーパーシティ法案”とも呼ばれる「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律」が成立したことは記憶に新しい(同年9月1日施行)。スーパーシティ構想は、内閣府を中心に政府主導で推進されており、国家戦略特区制度を活かした一体的・包括的な取組みに特徴がある。

一方、スマートシティという単語も近年耳にする機会が多くなっている。スマートシティとスーパーシティ、似たような単語だが一体何が違うのか。そう感じている読者も少なくないだろう。
本稿では、スマートシティとスーパーシティの共通点及び相違点を明らかにし、スーパーシティの強み、そして今後の課題について言及することを目的とする。

スーパーシティは条件が厳しい?

まずは、スマートシティとスーパーシティの定義を比較する。スマートシティは国土交通省、スーパーシティは内閣府の定義を引用した。

【図表:スマートシティとスーパーシティの定義】

図表:スマートシティとスーパーシティの定義

出所:国土交通省「スマートシティの実現に向けて【中間とりまとめ】」(2018年8月)
内閣府「『スーパーシティ』構想について」(2020年9月)

それぞれの定義を見比べると、スマートシティとスーパーシティの間に大きな違いはないようにも見える。どちらも都市をフィールドとして、様々な課題を解決するためにICTやデータなどを活用する取組みである。

そこで、両者の取組み内容や方針などを比較し、スマートシティとスーパーシティの共通点及び相違点を明らかにした。

【図表:スマートシティとスーパーシティの共通点及び相違点】

図表:スマートシティとスーパーシティの共通点及び相違点

出所:矢野経済研究所作成

両者に共通しているのは、データ連携プラットフォームを整備するということ。多種多様なデータの活用を通じた課題解決を行うために、複数分野を横断したデータ連携プラットフォームの整備を必要としている。また、両者の取組みは、最終的には地域住民の利便性や快適性の向上に繋がるべきという考え方が共通している。

一方、相違点としては、「主体」や「範囲」が明確に定まっているスーパーシティに対し、スマートシティは自由度が高い点が挙げられる。また、サービス領域について、スーパーシティは「物流」「交通」「観光」など様々な領域から5領域以上でサービス提供することが必須要件として求められるが、スマートシティは単一領域でのサービス提供から始めるなど柔軟な対応が可能となる。さらに、規制改革については、スーパーシティは先述の法改正に基づき複数の規制事項を一括で対応することができる。

スーパーシティは内閣府を中心とした政府事業であり、政府が指定する各種条件に基づき採択された事業のみがスーパーシティに該当する。これらを総じて考えると、スーパーシティはスマートシティに様々な条件を付加した取組みと言えるだろう。スマートシティとスーパーシティは、同じ目的のもと同じ方向性で取組まれているが条件等に違いがあるということだ。この状況を図式化すると、下図のように、スマートシティという大きな枠組みの中に構成される一つの取組みがスーパーシティ、という見方ができる。

【図表:スマートシティとスーパーシティの関係性】

図表:スマートシティとスーパーシティの関係性

出所:矢野経済研究所作成

スーパーシティの強みはスピード感

スマートシティとスーパーシティの関係性が明らかになったところで、スーパーシティには一体どのような強みがあるのだろうか。
スーパーシティは、政府による強力なバックアップがある。実証事業に向けた補助金など資金面はもちろんのこと、規制改革など制度面での支援体制が大きい。スマートシティでは、複数領域でのサービス提供を検討した場合、各領域を担当する各省との個別調整が必要となり、作業工数やスピード感といった点で課題がある。一方、スーパーシティでは、自治体や内閣府などが参加する区域会議でスーパーシティ事業の計画と規制改革案を同時に検討し、複数の規制改革事項を一括で対応できるようになる。そのため、スーパーシティでは、スマートシティよりもスピード感を持って事業を推進することが可能となる。

また、スーパーシティのマイルストーンが政府によって明らかにされている点も強みである。スマートシティでも総務省や国交省による実証事業がいくつかあるものの、単年での取組みになりやすく、中長期的なゴールイメージを描きにくい。一方、スーパーシティは事業計画から実施まで一貫して政府が関与し、政府と自治体で密な連携を取ることができるため、スーパーシティのゴールイメージを描きやすい。

スーパーシティの実現に向けた課題とは?

2021年2月現在、スーパーシティは「スーパーシティ型国家戦略特別区域」の公募段階にある。2020年12月25日から2021年3月26日まで公募されており、4月以降に5自治体ほどがスーパーシティの対象として採択される見込みである。

スーパーシティに採択された自治体は、スーパーシティの基本構想を検討し、住民の意向を確認する必要がある。その後、基本構想を実施・実現するフェーズ、つまりデータ連携基盤を整備し、実際に5領域以上でサービスを提供することとなる。

スーパーシティの対象となる自治体が採択された後、スーパーシティの実現に向けてどのような課題が考えられるのだろうか。本稿では、スーパーシティの実現に向けた課題を3点挙げる。

①地域住民との合意形成
スーパーシティでは、多種多様なデータを活用することが重要なポイントとなる。活用されるデータの中には、地域住民の個人情報も含まれる可能性が高い。個人情報の取り扱いはセンシティブであり、地域住民との合意形成が重要となる。
海外では、2020年5月、Googleの兄弟会社であるSidewalk Labsがカナダ・トロントでのスマートシティ・プロジェクト「Sidewalk Toronto」の中止を発表した例がある。事業中止の理由は新型コロナウイルスの影響としているものの、以前からデータプライバシーの観点で地域住民を中心に批判が挙がっており、事業の進捗に支障が出ていたとみられる。 スーパーシティにおける個人情報の取り扱いについては、オプトイン方式(データを収集する目的を明確に示し、提供者が同意・承諾した場合にのみデータを収集する方式)が主流となる見通しである。地域住民が安心してスーパーシティに参画できるよう、自治体には地域住民の理解及び合意を得るための方策が必要となってくる。
②各種サービスの普及
スーパーシティの基本構想が具現化する中で、各種サービスが順次提供されていく。そうした中、地域住民が間接的に活用するケース(環境・エネルギー関連のスマートシステム、交通量管理システムなど)ではなく、地域住民に選択権がある直接的なサービス(健康アプリ、デジタル地域通貨など)に関しては、地域住民への普及が重要なポイントなってくる。サービスの利用が進まなければデータの収集、分析、利活用というサイクルが滞ったり、サービス自体が頓挫したりするケースが考えられる。地域住民に広く活用されるサービスを提供すること、また、サービスの普及に向けた広報活動を充実させることなどが求められるだろう。
③マネタイズモデルの確立
スーパーシティは、スマートシティの先駆的実証事業という位置づけであり、横展開可能な成功例の創出が求められる。スーパーシティ自体は実証事業として補助金を活用した事業が可能だが、中長期的にはマネタイズモデルを確立して自走することが必要となってくる。地域住民からサービス料を徴収するタイプや、公的サービスとして自治体が負担するタイプなど、様々な方法が考えられる。今後、スマートシティを持続可能な取組みにするには、スーパーシティを通じてマネタイズモデルを確立することが重要となる。

2021年度、スーパーシティが本格始動へ

これまでスマートシティとスーパーシティの違いや、スーパーシティの強み、今後の課題などを見てきた。2021年度、スーパーシティの対象地域が採択され、本格的に動き始める。スーパーシティは、今後のスマートシティの展開に繋がる重要な施策である。「2030年頃に実現される未来社会」を目指すスーパーシティがどのよう変遷していくのか、今後の動向を注視していく必要がある。

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■レポートサマリー
国内スマートシティ市場、都市OS実装エリア数を予測(2020年)

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星 裕樹(ホシ ユウキ) 研究員
業界の方々、お客様と信頼関係を築くことが何よりも重要だと考えています。 「足で稼ぐ」をモットーに知見や情報を積み重ね、市場の実態把握と将来像の予測分析に努めてまいります。

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