矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2018.10.29

働き方改革プロジェクトにおけるユーザー課題とその回避策

働き方改革におけるICT導入の概況

2017年の働き方改革の動向としては、「働き方改革実行計画」の閣議決定に加え、長時間残業による労災問題が社会的に注目を集め、行政指導が進み、企業のICT活用の面では長時間残業抑止ツールや勤怠・労務管理システムの導入が始まった。

同年7月には、総務省・厚生労働省・経済産業省・国土交通省・内閣官房・内閣府・東京都・経済界の連携による「テレワーク・デイ」第一回目が実施され、企業におけるテレワーク浸透が推進され、テレワーク関連商材(デスクトップ仮想化、在席管理システム、Web会議システム、モバイル端末など)の拡大が進んでいる。

加えて、ホワイトカラー職種の定型業務を自動化するRPAへの注目度が急速に高まった。その大手銀行が人員整理・再配置予定とともにRPAの本格活用を発信したことなども後押し、その有用性へ期待が高まった。

2018年度には働き方改革に向けた投資を本格化する企業が増加し、初期投資が膨らみやすいファシリティ関連ソリューション、後回しになりがちであったセキュリティ関連ソリューション、各種システム・機能の統合を目的としたインテグレーション案件が増加する見通しである。

以上のように、働き方改革はICTのみを切り取っても多様な商材で構成されている上、ユーザーニーズが曖昧であるケースも多く、ソリューション提供においては多様な課題が発生している。次項では、働き方改革プロジェクト推進におけるユーザー企業の課題と、これに対する事前回避策を紹介する。

働き方改革プロジェクト推進におけるユーザー企業の課題

働き方改革プロジェクト推進における課題の多くは、①計画・②組織・③施策、いずれかの整備・調整不足が理由となっている。具体例を次に挙げる。

【図表:ワークスタイル変革プロジェクト推進上のユーザー課題】

【図表:ワークスタイル変革プロジェクト推進上のユーザー課題】

矢野経済研究所作成

①計画の整備不足とは、「目的・目標や働き方におけるビジョンが定まっていない」「評価設定や成果基準が不明瞭」「段階的な導入を行わなかったため形骸化した」といったケースである。このような場合、プロジェクト開始段階で以下の手順を加えることで事前回避できる可能性が高まる。

(a)ユーザー企業における課題の棚卸と優先順位の検討
(b)経営ビジョンに沿った「働き方ビジョン」の決定と組織共有
(c)適用施策や導入内容に合ったKPI指標の設定と導入前の計測
(d)従業員(エンドユーザー)へ「目的」「推進スケジュール」などを説明

②組織の整備不足とは、「経営者・管理者・従業員・働き方改革推進担当者間での意思共有や連携がうまくいっていない」「各所の役割・責任が明確になっていないため、責任感や使命意識に欠ける」といったケースである。このような場合、プロジェクト立ち上げ段階で以下の観点を考慮することで事前に回避できる可能性が高まる。

(e)働き方改革プロジェクトの推進担当者を、複数部門・役職からメンバーを集めた 横断型組織にすることで、様々な部門・役職の人間の意見を集約できる体制を整備する
(f)各種の理由で、働き方改革へ非協力的な従業員が発生することが予想されるため、経営者層が発信・実践・従業員へ協力を促すなど、トップダウン型のアプローチを含める
(g)外注業者(ワークスタイル変革ソリューション事業者)を含めて、各施策のスケジュールを一元的に管理し、スケジュールの最適化を図る

③施策の整備不足とは、「導入したITシステムは、現在の業務プロセスに適していない」「在宅勤務制度を策定したが、執務環境や勤怠管理制度の整備がなく、コミュニケーション不足や作業状況の不透明化という問題が発生した」など、導入したソリューションや施策が効果を発揮できる形で全体整備を行っていないケースである。このような場合、プロジェクト序盤で以下の観点を加えることで事前回避できる可能性が高まる。

(h)導入予定のソリューションや施策と、現状環境(制度・ルール・ITやファシリティ環境など)は適しているか、ボトルネックがないかを検討
(i)導入予定のソリューションや施策が、従業員の需要に合っているかを検討
(j)導入予定のソリューションや施策によって、発生しうるデメリットの洗い出し

現在、コンサルティングファーム、ICTベンダー、通信事業者、複合機メーカー、什器メーカーなど、多様な事業者が働き方改革を切り口とした製品・サービスの提案を強化している。働き方改革コンサルティングを掲げるベンダーは多いものの、コンサルティングノウハウに関しては各社、実践と蓄積の過程にあるようだ。今後、労働者人口の急激な減少を背景に、あらゆる商材において販売数の減少が予見され、1件あたり単価の向上を目指すことが不可欠となる。そのような場合に差別化の要素となるのが、製品の販売前後に付加されるサポートの価値であり、ユーザー課題を深堀して提案できる能力の獲得になる。ワークスタイル変革は、ユーザー企業にとって従来型の働き方を見直すことで成長の停滞から脱し、イノベーションを起こし、新たな成長の根源とする目的がある。ワークスタイル変革を提供する事業者に対しても、既存事業において確立してきたスタイルである「見せ方」「売り方」「作り方」から脱却を図り、ユーザー企業のビジョンに向かって多様な切り口で寄り添うことが求められている。
 

働き方改革市場の成長要因と阻害要因

働き方改革は、短期的には日本経済の縮小原因となる可能性がある。現状の労働力を維持したまま従業員の労働時間を減らすには、①労働生産性の改善、②新たな労働者の獲得、のいずれかを実現する必要がある。「①労働生産性の改善」については、ICT活用や個々の従業員の能力向上、組織体制や業務プロセスの合理化などといった方法が考えられるが、それらの整備を満足に整えるよりも早く、政府の長残業時間抑制・有給休暇取得の指導が入る事になる企業が過半であろう。

しかしその一方で、あらゆる業界で人手不足が課題となる今、より働きやすい勤務環境を提供できる業界・企業に就職希望者の人気が集中している。働き方改革への対応が遅れることは、個社の視点では、新卒採用の学生の獲得、転職による人材の流出リスクに繋がる。また、業界や日本という単位でみれば、国内の有望な人材が海外へ快適な労働環境を求めて去ってしまったり、海外の優秀な人材を獲得しにくくなるといったリスクに繋がり、「②新たな労働者の獲得」の実現も難しくなる。

長期的に見れば、やはり個社毎の取り組みに加えて、業界全体の課題解決、関連業界間の連携、日本政府による旗振りなど、各組織の主体的な努力が必要であることは自明の理である。安部政権は現在、働き方改革を最優先国策の一つと掲げており、働き方改革実現のためにICT活用が不可欠と名言されていることからも、当該市場は当分の間拡大していく。市場の成長要因と阻害要因を次表【図表:市場の成長要因と阻害要因】に示す。

今後、ソリューションの多様性やユーザー層の拡大とともに、より合理的かつ効果的なシステム活用の知見が蓄積され提供価格の安定が進み、日本全体への浸透が進むころには、当該市場のソリューションは最早当たり前のものとして受け止められるようになっていると思われるが、現在はまだ多くの企業・法人が着手し始めた段階であり、改革と成熟には長い時間を要するだろう。引き続き市場動向を見守りたい。

【図表:市場の成長要因と阻害要因】

【図表:市場の成長要因と阻害要因】

矢野経済研究所作成

関連リンク

■レポートサマリー
ワークスタイル変革ソリューション市場の調査を実施(2018年)
ワークスタイル変革ソリューション市場の調査を実施(2017年)

■アナリストオピニオン
急成長するRPA市場、ソリューションおよび参入事業者の多様化が進む
働き方改革への機運高まる、ワークスタイル変革ビジネスの高度化と拡大に期待

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加藤 佳奈(カトウ カナ) 研究員
ICT先進国である我が国において、どの業種においても「ICT利活用」が企業の課題解決および成長における重要項目になっています。個々の事象を明らかにするだけでなく、「本質的な課題」と「業界・市場全体における位置づけと影響」、そして「将来予測」の観点を含めた調査・分析を行うことで、企業の成長・発展のお役に立ちたいと考えています。

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