矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2017.06.26

働き方改革への機運高まる、ワークスタイル変革ビジネスの高度化と拡大に期待

アベノミクスによる働き方改革の進展

近年、働き方推進が急速に進展している。①少子高齢化の進展、②グローバル化の深化、③産業構造変化の加速化、④第4次産業革命の発現といった要素を背景に、我が国の「仕事・働き方」を取り巻く環境は大きく変化しつつある。2016年9月に設置された「働き方改革実現会議」では安倍総理自らが議長となり、労働界と産業界のトップや有識者が集まった。全10回の会議を経て、働き方改革実行計画案をまとめ、2017年3月、9分野で改革の方向性が明示され、秋の国会では法制化への議論が進められる見通しである。

【図表:アベノミクス第2ステージにおける第4次産業と働き方改革の成功イメージ】

【図表:アベノミクス第2ステージにおける第4次産業と働き方改革の成功イメージ】

矢野経済研究所作成

働き方改革においては、法整備や社会インフラの充実のほか、ICTの活用が不可欠であり、それらはワークスタイル変革ビジネスとして提供されている。例えば、先進的な企業では、早くからテレワーク(ICTを活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方)制度を導入し、場所や時間に捉われずに業務を進めることができる環境を整備している。ビデオ・Web会議システムを活用する事で、遠方の商談に専門的知見を有する技術者を同席させたり、採用活動において遠方に住む優秀人材の面接を実施したりすることもできる。これまで、複数人の上長承認を延々と待たなければならなかったワークフローも、社外からスマートフォン上で承認処理ができる仕組みを設けることで、迅速な決裁処理を経て、その後の業務活動に繋げることができる。企業競争力を維持・向上しつつ残業時間を減らすためには、ルーチンワークやシンプルな事務処理をいかに圧縮してコア業務に集中できるかが重要となり、請求書発行のシステム化や経費精算システムの導入も働き方改革を支援する重要なツールの一つと言えるだろう。

更に、新たなテクノロジーであるAI(人工知能)により、活用技術進展の最中にあるビッグデータを価値あるものに変え、生産性向上のみならず競合他社に打ち勝つための競争優位性の獲得を期待できる。第4次産業革命により新たに立ち上がるIoTやAIに関する市場は、世界規模で今後大きく拡大してゆく。日本企業がグローバル市場の中で当該市場を獲得することができれば、新たな「仕事・労働」の創出が可能となる。

働き方改革プロジェクトにおいてソリューションベンダーが留意すべき点

しかし、現在、ワークスタイル変革に着手した多くの企業にとって、取り組みは実験的施策、あるいは効果検証過程にある。長きにわたり日本企業の粘り強さを支えてきた「終身雇用制と年功序列を原則」「長時間労働が努力評価に繋がる」といった企業主体の経営方針から、「従業員が権利意識を持ち、自身のキャリアデザイン・働き方・余暇の過ごし方を選択する」「企業はその後押しをすることで従業員の生産性を高め、優秀な人材を獲得し、結果的に恩恵を得る」という従業員の人生を尊重する経営方針へ、大きな方向転換を迫られている。

つまり、ユーザー企業自身も、従業員との関係作りの過程にあると言えるのだ。働き方改革プロジェクトに参画するソリューションベンダーにおいては、ユーザー企業の窓口担当者の向こう側に、部署も職種も家庭環境も異なる多種多様な利用ユーザーが存在することを意識しなければならない。このため、ソリューションベンダーは「従来の非効率な働き方からの脱却」といった大目的以外にも、「利用者と企業の足並みを揃えるワークスタイル変革」という観点にも留意してプロジェクトを進める必要がある。ソリューションベンダーがワークスタイル変革プロジェクトにおいて注意すべきポイントを以下に示す。

1.方針の明確化と合意
企業と従業員が共感できる変革ビジョンを具体化した上で、変革対象の優先度と変革順序を決めること。ビジョンを共有できていない、ビジョンに沿った目標でない、目標が明確になっていない、課題の全てをまとめて解決しようとしてしまう、といった原因から、変革効果をユーザー企業が実感できなかったケースは多い。
2.課題の俯瞰と切り分け
顧客課題を1つの側面だけで捉えず、改革の重要な4要素(①組織構造・業務プロセス、②制度・ルール、③IT環境、④オフィス環境)の切り口から俯瞰した上で、「部署・職種・シーン別」に優先度や緊急度、実行施策を検討する。また、顧客企業側の主体的な活動を促すこと。自社の事業でカバーできる範囲外の課題であれば、今後のパートナーシップやシナジーが期待できる協業先企業を探す。
3.効果指標の事前設定と継続評価
変革のための施策が決定した段階で効果指標と計測方法を設定し、①施策実施前、②施策実施後、③施策実施後から一定期間後、の3つのタイミングで計測する。これにより、効果の可視化が可能となる。施策実施前に効果指標を明確にし、計測しておかなかったために、変革効果の大小を主観・直感的なものとしてしか捉えらなれかったケースは多い。

上記の3点を押さえることで、ソリューションベンダーはワークスタイル変革プロジェクトにおいて「何もって成功とするか」「どのように成功させるか」といった課題をクリアにし、プロジェクトの進行をよりスムーズに推進することができるだろう。

各業界へ広がるワークスタイル変革ソリューションの多様性

更に、働き方改革はホワイトカラー中心のオフィスシーンだけではなく、工場・店舗といった業界背景に基づいた特徴的なワークスタイル変革への取り組みのうち、特に今後発展が期待される取り組みを以下に挙げる。

【図表:各業界における取り組みと展望】

【図表:各業界における取り組みと展望】

矢野経済研究所作成

ワークスタイル変革ビジネスは既に全ての業界で拡大している。先進的な取り組みを行う企業にとって、それら改革は単なる就業環境の改善・業務効率化といった目的だけはなく、「組織内意思決定の迅速化」「イノベーション能力の向上」「ビジネス機会の創出」「グローバル競争力強化」「事業継続性の確保」などといった企業競争力に直結する取り組みである。このため、変革を実現するための手段や改革対象(組織・人・プロセス・制度・環境・システム等)は幅広い領域へ跨っており、提供ソリューションの高度化とともに、市場へ参入する事業者の多様性が顕著である。ワークスタイル変革ビジネスへの参入事業者が増加する今、競合先だけでなく魅力ある協業先候補も広がっており、積極的に外部事業者との連携・協力を行うことで、サービス提供事業者自身においてもイノベーション実現の契機となるだろう。

関連リンク

■レポートサマリ
ワークスタイル変革ソリューション市場の調査を実施(2017年)

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加藤 佳奈(カトウ カナ) 研究員
ICT先進国である我が国において、どの業種においても「ICT利活用」が企業の課題解決および成長における重要項目になっています。個々の事象を明らかにするだけでなく、「本質的な課題」と「業界・市場全体における位置づけと影響」、そして「将来予測」の観点を含めた調査・分析を行うことで、企業の成長・発展のお役に立ちたいと考えています。

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