矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2013.10.07

BPO事業者はクラウドソーシング市場を注視せよ!

クラウドソーシングの普及

クラウドソーシング(crowdsourcing)とは、インターネットを使った外部委託(アウトソーシング)の新形態であり、「インターネットを介在として、不特定多数の労働者等と企業等とのビジネスマッチングを図るサービスのこと」を指す。

このサービスのメリットは、①依頼者側では、ネット上で直接的に仕事を委託できるため安価で済む、②受注者側では、場所と時間を選ばない働き方をすることができる、点が挙げられる。インターネットを使用することで、外部に業務を委託したい企業と、仕事を求める個人及び企業の双方にメリットがある形でマッチングをできる点に特長がある。

また、クラウドソーシングは、インターネットを介した効率的なマッチングにより、コストは従来の半分以下で、スピードは数倍以上で業務を完了させることが可能と言われており、必要な時に必要なだけの労働力を得ることができるため、「人材のクラウド化」などとも言われている。

提供事業者各社が展開しているクラウドソーシングサービスでは、事務作業、ロゴ作成、翻訳などはもちろん、商品開発や新規事業立ち上げ等あらゆる業務が網羅されている。

米国で先進的に取り組まれてきたクラウドソーシングサービスであるが、日本において注目されるようになったのは、ここ数年のことである。日本でも以前からクラウドソーシングサービスは提供されていたが、2011年の東日本大震災以降に在宅ワークやテレワークへの需要が高まったことで、クラウドソーシングというキーワードが急速に浸透し始めた。

BPOサービスとクラウドソーシングサービスの違い

ここで、BPOとクラウドソーシングの違いについて考えてみたい。細かな点を挙げれば多くの違いがあるが、最も大きな相違点は取り扱っている案件の規模にあると弊社では考えている。具体的には、BPOでは、一定以上の規模の案件が多く取り扱われているが、クラウドソーシングでは、小規模な案件が多く取り扱われている。

BPO事業者は、自社で多くの業務処理要員を抱え、また営業担当や間接部門の人員も抱えている。このような人件費が掛かっているため、BPO事業者は一定数以上のFTE(full-time equivalents)を必要とする案件を中心に業務を請け負わざるを得ない。また、顧客企業側も、BPO事業者の人件費を吸収できるだけの業務量をアウトソーシングしなければ、コスト削減効果は生まれず、社内の人員を残して中途半端な量の業務を委託する形では、むしろコスト高になってしまう可能性すらある。

一方、クラウドソーシング事業者は、業務委託の媒体にインターネットを活用しており、BPO事業者のように自社で業務処理要員は抱えていない。そのため、案件の規模に固執する必要がなく、規模の小さい案件も扱っている。
また、クラウドソーシングサービスは、登録者の中から直接的にニーズに合った労働力を見つける形のサービスであり、クラウドソーシング事業者に余分な人件費が掛かっていないため、顧客企業はBPOのようにまとまった業務量を委託しなくてもコストメリットを享受することが可能である。

かつてAmazon.comのビジネスモデルを説明する際に、「ロングテール」という言葉が使われたことがあった。「ロングテール」とは、インターネットを用いた物品販売の手法、または概念の1つであり、販売数の少ない商品でもアイテム数を幅広く取り揃えることで、総体としての売上が大きくなることを指している。販売数の少ない商品の数が多いため、それを取り扱った場合、全体売上のうち、その部分がかなりの割合を占めることになる。それを、販売数を縦軸に、商品を横軸にしたグラフで見ると、販売数の少ない商品の部分が恐竜の尻尾(tail)のような形に見えるため、「ロングテール」と呼ばれている。
クラウドソーシングは、業務請負業界における「ロングテール」であると考える。これまでBPO市場では、まとまった業務量の案件が主に流通してきたが、クラウドソーシングの登場により、今後は、小規模な案件である「ロングテール」部分の流通量が増加し、総体として、業務請負業界の流通量は増加していくと予測する。

【図表】業務請負業界におけるロングテール
【図表】業務請負業界におけるロングテール

BPOサービスへの影響

市場規模で見ると、クラウドソーシング市場の規模はまだ小さいが、今後は、BPO事業者にはもちろんのこと、広告会社、翻訳会社、デザイン会社など多様な業界の企業に対して影響を与えていくものと考える。クラウドソーシングがBPOに与える影響には具体的には、以下のようなものを想定している。

まず、クラウドソーシングは、時間と場所を選ばないサービスであるため、海外の安い労働力が利用されるようになっていき、業務請負サービスであるBPOの「価格破壊」につながっていくことが想定される。

また、クラウドソーシングは、インターネットを介在として依頼企業と労働者を直接結び付け、必要な労働力だけを確保できるようにするものであるため、これまで企業と自社で抱える労働者とを結び付けてきたBPO事業者を「中抜き」にしてしまう可能性がある。

その他、BPO事業者がクラウドソーシングから受ける影響として、「大口案件の減少」が考えられる。欧米企業などと比較すると日本企業は、「人員削減につながらないか心配」「業務をまとめて切り出せない」などを理由に、大口のアウトソーシングサービスの利用に抵抗感を持っている企業が多い。
クラウドソーシングでは、人員を削減しなくても、また、まとめて業務を切り出さなくても、安価なサービスを利用でき、コストメリットを享受することが可能である。このようなクラウドソーシングサービスが普及すれば、日本企業は、元々抵抗感の強い大口のアウトソーシングサービスの利用を控え、クラウドソーシングの利用を増やしていく可能性がある。

このように、クラウドソーシングがBPOに与える影響を見ていくと、クラウドソーシングは現状のBPOサービスをリプレイスする可能性を持っている存在だということがわかる。クラウドソーシングサービスが国内に普及していくことで、「価格破壊」、「中抜き」、「大口案件の減少」などといった影響が見られ、BPOサービスの利用が減少する一方で、クラウドソーシングサービスの利用が増加していく可能性がある。

現状では、クラウドソーシング市場の規模は、BPO市場に比較すると僅かであり、BPO市場に大きな影響を与えるようになるのは当面先になるとは思われる。しかしながら、将来的な影響を考慮するとクラウドソーシングは決して無視のできない存在であり、BPO事業者はその動向を注視しておくべきである。

関連リンク

■レポートサマリ
BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)市場・クラウドソーシング市場に関する調査結果2013
BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)市場に関する調査結果 2012

■アナリストオピニオン
直接部門もBPOサービスを利用せよ

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石塚 俊(イシヅカ タカシ) 主席研究員
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