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ヒット商品を生み出す「イノベーター気質」
そもそもヒット商品とは?
毎年恒例の「ヒット商品番付」が各社から色々と発表されている。
ざっと見渡してみるとApple、Android端末、スマートフォン、Facebook、第3のエコカー、節電商品、などがほぼ共通して上位にランキングしている。
そこでふと、そもそも「ヒット商品」とはどういう定義なのだろうかと考えてみた。
番付を発表している各社の選定基準では、「1年間の消費動向や売れ行きなどを基に、担当記者がランク付け」、「出荷台数、売上高等の実績だけではなく、マーケットに与えた意義やインパクト、今後の成長性等を総合的に判断し、決定したもの」とされている。要するに、数ある商品・サービスや事象の中でも、この1年間で“新たに”世間一般に広く普及(利用または認知)するに至ったと、多くの人が納得感を共有できるものといったことだろうか。
何をもって「ヒット」とするかは議論があるところであろうが、マーケティングの視点で「ヒット」の定義を考える上でのひとつの尺度として、「イノベーター理論」が挙げられよう。
イノベーター理論とは、米スタンフォード大学のロジャーズ教授によって提唱されたイノベーションの普及に関する理論である。彼はイノベーションの定義を、「それまでのモノや仕組みなどに対して、全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすこと」としている。
矢野経済研究所作成
このイノベーター理論では、消費者をイノベーション採用の早い順番に5つのグループへ分類したものです。
1.「イノベーター(革新的採用者)」
2.「アーリーアダプター(初期少数採用者)」
3.「アーリーマジョリティ(初期多数採用者)」
4.「レイトマジョリティ(後期多数採用者)」
5.「ラガード(採用遅滞者)」
に区分しており、「アーリーマジョリティ以降の大多数の層に採用された時」が、そのイノベーションが「ヒットした」とされると考えられている。
あるイノベーションがヒットするまでのプロセス
ロジャーズは、イノベーションがヒットにまで至るかどうかは、イノベーターとアーリーアダプターの割合を足した16%の「初期市場」を越えるまで広まるかが分岐点であるとする「普及率16%の論理」を主張している。先ほどの図にある通り、商品などの普及は初期市場の16%を越えた段階から急激に拡大することから、イノベーターとアーリーアダプターが商品普及の鍵を握るとされている。なお、本稿では、以降この両者を総称して「イノベーター層」とする。
一般的に、イノベーターは導入されて間もない製品を最初に導入するものの、彼らが着目するのは商品の「目新しさ」だけであり、本来は多くの人が価値を見出す商品そのものの「ベネフィット」にはさほど着目しない傾向にあるとされる。一方で、それに続くアーリーアダプターは目新しさだけでなくベネフィットに着目したうえで、実際の利用方法を生み出し、商品を市場にフィットさせていく役割を持ち、オピニオンリーダーとも言われている。
確かに、導入されて間もない商品ほど、実際の利用方法や用途は、開発者が想定したものとは異なるケースは多くある。よくデジタルカメラの事例が取り上げられるが、デジタルカメラ発売当時は一眼レフが全盛であり、本格的に写真を撮りたい人たちには見向きもされなかった。しかし、「ホームページに簡単に画像をアップロードしたい」と考えた一部のユーザーが触手を伸ばしたことから普及しはじめ、今日の市場拡大にまで繋がったとされている。つまり、この“一部のユーザー”がデジタルカメラにおける「イノベーター層」であり、彼らの存在なくしては、その後の「アーリーマジョリティ」は存在しえない。これが「ヒット商品」が作り出されるプロセスであり、イノベーター層へのアプローチが重視される理由である。
日本人の「イノベーター気質」を促進させる必要性
ここで冒頭のヒット商品番付を思い返して欲しい。
上位を占めていたのは、Android端末、スマートフォン、Facebookなど、特にICT分野を中心とする海外発のイノベーションであった。一方、日本発では「第3のエコカー」や「節電商品」が挙がっているが、既存技術の改善・進化として大変素晴しいものではあるものの、「イノベーション」とするには個人的にどこか違和感を覚えてしまう。近年、日本のモノづくりの停滞、空洞化が叫ばれている中、果たしてそのことが、日本発イノベーションの元気のなさに影響しているのであろうか。
そのヒントとして、最近、注目している点がある。
ここ半年の間で、複数のプロジェクトを通じて、電気自動車(EV)やタブレットPC、オンラインストレージなど、「16%の初期市場」を越えていないと考えられるサービスの利用者、つまりイノベーター層の意見を聞く機会があったのだが、そこに先ほどの疑問を解決するヒントがあった。利用に至った経緯は各製品によって様々であるし、単純に利便性やコストメリット面だけを重視して選択したとの意見もあった。
しかし、私が注目したのは、彼らイノベーター層には共通して、テクノロジーの進化を体感したいという「好奇心」や、その製品の成長を利用者側から後押ししたいという「気概」が存在していた点である。これまで、イノベーションが本格的に普及するにはイノベーター層の存在が重要であると述べてきたが、その背景にはイノベーター層に存在するこのような「イノベーター気質」が大きく関係していると考えられる。「日本の消費者は目が肥えている」という表現を耳にすることがあるが、裏を返せば、登場して間もない斬新な商品を使うことにはとても慎重で、ある程度普及して商品の完成度が十分に高まったのを確認してからしか利用に踏み切らない傾向が強い、いわば「イノベーター気質」が希薄になってしまっていることが、日本発のイノベーションが少なくなっている要因といえるのではないだろうか。それは、自動車分野や家電分野よりも、産業として新しいICT分野で特にその傾向が見られていることからも伺えるのではないか。
近い将来、日本発のイノベーションで「ヒット商品版付」を埋め尽くすには、日本人の「イノベーター気質」の奮起を促すことが必要である。そのために何が出来るのかを考え、行動することがリサーチ機関に身を置く人間としての責務であると改めて感じている次第である。
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